武士の情けかな
おお。
垣根のジャスミンは、あいかわらず勢いを増しているが、なぜか水道栓にからみついているあたりだけは、まだ花が咲いていない。武士の情けというやつだろうか。ここだけは今のうちに刈り取ってしまうかな。
とか言いながら、朝食をすませただけで、ばてて休憩。今日は曇っているから、水まきはもう少し後でもいいだろう。
ベッドにへたりこむと、枕元に、気晴らしに読む文庫本が数冊置いてある。ちょっとホラーめいたものもあって、読むのが楽しみなのだが、なぜかどうしてか、ずっと前に読んでしまった、「おひとりさま日和」と「猫さえいればたいていのことはうまくいく。」という、どうってことないアンソロジーの、どうってことない短編が、それぞれひとつずつ、変なやみつきになって、かりんとうかおせんべいのように、やめられず手放せず、筋どころか文章まで暗記したんじゃないかってぐらい、何度も何度も読み返してしまって、他のに手が届かない。どっちも多分、名作じゃない。ものすごく好きかというと多分そうでもない。ただ、わかりきってるようで退屈させない展開が、もう快いというか中毒状態でやめられない。
前者の短編は巻頭の「リクと暮らせば」で、貸し出しサービス会社の番犬を雇った老女の物語で、何がどうしてか知らないが、とにかくめちゃくちゃ楽しい。犬がいいのかな。強面のシェパードで頼りになるが、非常にほどよく人間味?もある。老女の弱々しいようでしっかりしている、普通で自然なたたずまいも何だかとても安心する。
後者は「御後安全靴株式会社社史・飼い猫の項」っていう、覚えてもらう気なんかないだろというようなタイトルの、こっちは最後の短編。他の作品に比べてドラマチックでもないし、地味だし、ごちゃごちゃしていて、さりげない。と見せて変化に飛んで幸福感に満ちている。鈍行の車窓の窓から午後の風景を見ているような楽しさがあって、しかもちっとも眠くならない。
どっちも読んでるとうれしくなる。なんで私がこんなにこの二つの作品が好きではまってしまうのか、誰か教えてほしいぐらい、理由はさっぱりわからない(笑)。他の短編も恐かったりきれいだったり、どれもそれぞれいいのだけど、この二つに比べると、「力作」って感じが先に来て、どこかで背伸びしてしまうのだ。
それにつけても、早く庭を片づけたいなあ。実は奥庭の一角に、木々に囲まれた青い椅子とテーブルがあって、そこでお茶を飲んだりケーキを食べたり本を読んだりするのが去年からの楽しみなのだ。少し前にいただいた素敵な本を、荒ぶる心や散らかった部屋の中で読むのはいやだから、そこで読もうと計画してるのに、ちっともそこに行き着けない。まあ、最近やっと、その周囲だけは片づけたので、蚊が出て来たりする前に、何とか実行に移したいのである。