「嫌韓流」をサカナにおしゃべり

ほなみ 「まず、第一印象は?」
子ヤギ 「それほどどうってことないな。噂の割りにものたりなかった」
じゅごん「うん。言いかえれば、ちゃんとしてるよ。良心的」
子ヤギ 「もっとすごいことが書いてあるのかと思ったけど、このくらいで何を騒いでるの?と、ちょっと拍子抜けした」
ヘラ  「そのくらい、こういうこと書く本がこれまでなかったってことじゃないの?それはそれで問題だけどな」

ほなみ 「ちゃんとしてるっていうのは、どこが?」
じゅごん「感情的な悪口はつつしんでるし、冷静な討論のルールを呼びかけている。最終的な目的は日本と韓国が理解しあえること。こういうところは共感できた」
ほなみ 「でも中身はものすごく誇張して、韓国に味方する人たちを悪者に描いてない?絵そのものが、すでにさ」
じゅごん「それはしかたがない。この手のマンガを変に良心的に描いたら、迫力ないし言いたいことが伝わらないもの。韓国びいきの人たちが皆、鬼のように醜い顔しているのなんざ、私はけっこう楽しんだ。こういう風に書かなくちゃ、こういう話は面白くないよ」

じゅごん「さっき、それはそれで問題、って言ったね。あれは、どういうこと?」
ヘラ  「こういう見方や見解があるのは、ある意味では当然で、それが、この本がこんなに騒がれるほど、これまでなかったというのは、ちょっとね。こういう見方がほんとにタブーだったとしたら、おかしいと思う。私もこの著者やこの本にそんなに危険は感じない。むしろ好感を持つ。でも、言ってることは、そんなに大したこととは思えないんだよね。少なくとも、日本が韓国や中国でしたと言われてることの数々を、これではとても否定はできない」
じゅごん「それは思った。これで、『よく言ってくれた』と痛快に思う人なんているんだろうか。ものたりなかった。いろんな意味で」
ヘラ  「それでも、ささやかでも、やっぱりここに書かれていることは大切だし、見逃しちゃいけない。こういうことがこれまでに、まったく言われずにいたなら、それは淋しいことだと思う。それと、こういう見方や考え方はこれまであったけれど、それをこんなに冷静にきちんと言った本や人がなかったって言うことなら、それもそれで何だか淋しい。それは、この著者のせいじゃないけどね」

じゅごん「これが、そんなに売れてるの?」
子ヤギ 「それがわからないなあ。作られたベストセラーなんじゃあるまいね。それだと私らバカみたいだよ」
ほなみ 「この本の品のよさ、迫力のなさを見ると、たしかにほんとにそんなに売れたの?と不思議な気はする。でもそれを信じるとしたら、その背景にはやっぱり、いわゆる自虐史観への皆の不満があるんでしょう」
ヘラ  「本は売れてると思うよ。私の回りの若者がかなり買ってるし、影響も受けてる。ただ彼らが自虐史観にそんなに不満持ってたのかどうかは、わからないなあ。よく売れてると聞いて買ったのかもしれない。そもそも、あの若者たちが、そんなに自虐史観を知ってるのか私はわからないんだけど」

ほなみ 「いや、それなりに不満は持ってたのじゃないの?・・・って、実はそこがわからないのが、私の世代の最大弱点なのかもなあ。いわゆる自虐史観って、私の子ども時代には学校で教えなかったもの」
ヘラ  「そうだっけか」
子ヤギ 「そうよ。あれって、いつからよ?加害者としての日本という教育が始まったのは」
じゅごん「教育の前にそもそも、そんな観点が世間にはなかったろ?」
ほなみ 「わああ、こんなことまで話すのか。こりゃ長い夜になりそうだ」

じゅごん「まあ、話せば長くなることは後回しにするとして、とにかく私たちの子どものころ、昭和20年代には、日本軍がアジアでしたことについての教育はなかったよね。そもそも、そういう情報がなかった」
ヘラ  「私は一度週刊誌でちらっと読んだことがある」
ほなみ 「そんなもんでしょ。学校で習ったりはしなかった。世間でも聞かなかった」
子ヤギ 「戦争犯罪って言ったらナチスのしたことばっかりだったよね」
ヘラ  「ナチスの話だって、世間で普通にはしなかったぞ。学校でも授業でも」
ほなみ 「そもそも、平和教育なんてなかったし」
ヘラ  「いつごろから始まったの?」
ほなみ 「さあ?」

じゅごん「私個人の記憶だと、日本がアジアでしたことが大きくマスコミなどで言われはじめたのは、本田勝一の『中国の旅』って本じゃなかった?」
ヘラ  「そうかもしれない。あれはでも、その前に本田氏が、ベトナム戦争に関してアメリカをたたいたんだよね、たしか。そして、『アメリカは白人優先で、アジア人を蔑視している。広島、長崎に原爆を落としたのも、住んでたのが日本人だったからで、あれがドイツだったら絶対落としてない』と主張した」
子ヤギ 「その観点って、当時はすごく新鮮じゃなかった?アメリカはそれまで正義の国だったし、人種差別なんかもないって感じだったのに」
ほなみ 「うん、私もちょっと半信半疑で『そうかなあ。そうかもな』とか思ってたのを覚えてる」
じゅごん「第二次大戦のあと、アメリカはずっと、まちがった戦争をした日本に勝った正義の国だったからね。日本でのイメージとしては」
子ヤギ 「それが、ベトナム戦争でちょっとあやしくなって、黒人やインディアンの問題も取り上げられだして、その上に本多氏の『白人のアジア人蔑視が原爆を投下させた。それが今、ベトナムでの、あの非人道的な作戦につながってる』みたいな話が出てきて、それもそうかなあ、みたいな気分で読んだなあ」

じゅごん「議論もすごく起こって、その中にたしか、『そんなこと言うけど、日本だって中国や朝鮮を蔑視したし、ひどいことしたし、あれには目をつぶるのか』みたいな批判があったのじゃなかったっけ。それで本多氏が、目をつぶる気なんかない!ってことで、今度は中国に行って聞きとりをして、日本軍の残虐行為を報道した」
ヘラ  「そうそう。だから、私の印象ではあの時の日本軍のアジアでの行為の告発っていうのはむしろ、アメリカが日本に行った人種差別や原爆投下をしっかり攻撃抗議するために必要な手続きって気がしたけどな。『うちらがしたことは、わかってます。それから目をそらさず反省もします。だから、その上で、あんたたちがうちらにしたことに抗議します』って感じの」
子ヤギ 「その姿勢、その筋道、どうなったんだろう、今は?」
ほなみ 「ん?」
子ヤギ 「いや、だから・・・それが逆流すると、アジアで日本がしたことをしっかり把握してなかったら、アメリカが日本にしたことにも抗議できなくならないのかな?それはしなくていいわけなの?」
ヘラ  「誰に聞いてるん?」
子ヤギ 「だから、嫌韓流を書いた人とか読む人たちとか」

ほなみ 「アメリカに対する姿勢なんかは、いろいろあるんじゃないのかな。小林よしのりとかも、他の人でも、アメリカに批判的なことは言ってると思うよ。ただ、小林氏の本とか最近多すぎるからさ、全部読んでるヒマがないのよ」
ヘラ  「どっちにしても、反中国とか嫌韓流の人たちが、皆アメリカびいきとかはあり得ない。そんな単純なもんじゃない」
子ヤギ 「だってそりゃ、靖国に祀られてる人たちって、アメリカ軍に殺された人だって多いわけだから」
ほなみ 「むしろ、中国や韓国が嫌いな人って、アメリカも好きじゃないような気がするけどな。でも、じゃ日本が好きなのかっていうと、あんまりそういう感じもしないんだよね」

じゅごん「でも、どうかなあ。世界貿易ビルがテロでやられた時、日本国中が大騒ぎしたろ?あれは私はつくづくもう、無気味で不愉快の一語につきたよ。昭和天皇が死んだ時以来、息がつまってアップアップしてるような感覚を久々に味わった。ヨーロッパでアフリカでアラブで、ごまんと人が殺されてるのに気にもしなかった連中が、アメリカのことだとあれだけ騒ぐのが、ほんとに異様でショックだった」
ヘラ  「私もあれは気味悪かった。本家のアメリカの騒動ぶりも、どうかとは思ったけど、まあそれなりにわからないでもないし、その内次第に修正されていったのは、さすがにアメリカだと安心したし感動した。でも日本の多くの人が、あれだけアメリカとべったり一つの感覚になっていて、その割りに世界の他の国はどうでもいいんだと感じてるって、はっきりわかったのは恐かった。その感覚が今どうなってるのか、これからどこへ行くのかがわからない」
子ヤギ 「靖国参拝とか嫌韓流とか言っている人たちは、そのあたりのことをどう感じて、考えてるのかな」
ほなみ 「だって、そういう人たちの多くが攻撃しているジェンダーとか人権とか、そういうものはむしろアメリカから来てるし、むしろ戦後の日本の問題は、アメリカナイズされすぎたことにあるって思ってる人も多いんじゃないの、そういう人たちって」
子ヤギ 「う~ん、そのへんのこと、もうちょっと整理してくれないかな」
ほなみ 「だから、誰に向って言ってるの?」(笑)

ヘラ  「整理っていうか、少し話を元に戻すと、ともかく私たちの子どものころは平和教育らしきものはなかった」
ほなみ 「私たちが大学卒業して少ししたころは、もうあったような気がする。大学の同級生で先生になったやつが、夏休みに平和教育とかで登校してたもん」
じゅごん「まあ、そりゃ調べりゃわかることだけど。いずれにせよ、それで、毎回日本の悪口を聞かされるのに、皆がいいかげんうんざりした、と自虐史観を攻撃する人たちは言うよね」
ほなみ 「私の知ってる若い人は、とても反論や異論が許される雰囲気じゃなかったのがいやだったって言う」
子ヤギ 「でも、それはなあ、学校教育でやると何だってそんなもんにはなるんだよなあ。愛国心を教えたら、今度はそれはそれでそうなる」
じゅごん「そう、だから私は平和教育とかが学校で教えられるようになったのを知った時、とっさに、わー、やばーと思ったんだよね」
ほなみ 「えっ?」
じゅごん「やばいというのもあるし、よっぽど気をつけてかからないととも思った」

ヘラ    「またもうちょっと、話を戻さない? この漫画の始まりは、サッカー好きな主人公が友人との話から、サッカーの試合で韓国チームの応援団がドイツチームに『ヒトラーの国』と言ってののしる、そういうひどい応援を、マスコミがちっとも報道しないって指摘だよね?」
ほなみ   「そして、その後、主人公はかつて朝鮮総督府で働いていたおじいさんが、『朝鮮の人といっしょに、いい国を作ろうとしていたんだ』というのに、『それは嘘だ、学校で習った。日本人は侵略をして朝鮮にひどいことをしたんだ』と抗議して、おじいさんを淋しがらせる」
じゅごん  「これ、うまい導入だよね。身近な話題だし、面白いし」
ほなみ   「あのな~」
ヘラ    「まあまあ、それで、率直な感想は?」
じゅごん  「いや、だから、なるほどね~、面白かった、と」
ほなみ   「ちょっと待て。それでは話が」
じゅごん  「いや、だから、この漫画役に立つんだって。いろいろと、ほ~、そうかと思うし。でもだからそれで、どうなの?要するに、何を言いたいわけ?」

子ヤギ   「だから、韓国はそういうガラの悪い応援団だって言うんでしょ?」
じゅごん  「スポーツの応援なんて、もともとどこの国でも日本でも無茶苦茶じゃないか。まあ、オリンピックとかでは日本はよその国と比べて、わりと相手の国にも応援するとか言うけれど、それも最近じゃどうだかね。私は日本のそういうとこって、好きでね、オリンピックの精神によくかなってるって思って、それこそ世界にちょっと自慢したかったよ。でも最近のマスコミはそれではお気にめさないらしくて、露骨に日本をひいきして、他国の映像流さないからテレビ見ててもさっぱり面白くない。私はとんとわからんのだけど、日本のスポーツの応援がもっと熱烈に愛国心を発露しろと言いたがる人にとっては、この韓国の応援は、見習うべき理想なんじゃないのかい。いったい、どこがいかんのだ」
子ヤギ   「熱烈な応援はいいけど、ヒトラーの国云々はあんまりだと」
じゅごん  「つまりヒトラーは別格なの?アメリカの野球じゃかつて黒人選手は、差別的なことばでののしられたってどこかで読んだことがあるし、日本でも、それこそ朝鮮国籍の選手には『国へ帰れ』なんて野次が飛んだことはあったんじゃなかった? どっちにしても趣味は悪いし、ヒトラーを持ち出すなんて逆にナチスの罪を普通の次元にしちゃうことみたいな気もするけどね。でも、そこに国民の本質が示されている!なんて言うほどのことかいな」
ヘラ    「それを報道しないマスコミの罪は?」
じゅごん  「九条の会をはじめとした、大規模な数千人単位の平和集会をまったく報道しないマスコミだからね、そんなこともあろうさね」

ほなみ   「おじいちゃんの問題は?」
じゅごん  「これは、この主人公に年寄りへのいたわりが足りない。学校で何を習おうと、年寄りの話はちゃんと耳をかたむけなくてはいけない」
ほなみ   「そ、そういう問題か?」
子ヤギ   「でもさ、こんな素直な子、いまどきいるの? 学校で習ったからって普通こんなにうのみにする?」
ヘラ    「いまどきだから、いるかもしれない」
じゅごん  「とにかく、学校で何を習おうと疑ってかからなくては。特に社会や歴史や文学はね。理科だってそうか。常に別の資料や情報で検証し中和し相殺しなきゃならない」
ほなみ   「あんたみたいな子は珍しいんだよ。普通の人ならそりゃ、『でも学校で習った』って言うさ。だから歴史教育に皆、あんなに必死になる」
じゅごん  「信じられない。教師の言うことをそんなに信じるなんて、病気とちがうか」
ほなみ   「こういう人はほっといて、話を進めるけど、実際におじいさんのこの話は、どう思う?」

子ヤギ   「むずかしいよなあ。そういうことは、あったと思うよ。実際にはね。朝鮮の人たちが感謝してたってこともあり得ると思う。でも、だからってそれが侵略でないとか圧制じゃないって言うのはなあ。これはもう、絶対にどっちかわからないよ。レイプか和姦か、セクハラかどうかって問題と同じでしょ、これ。あるいは熟年離婚とか」
ほなみ   「ま、待て。ついて行けない」
ヘラ    「熟年離婚はわかるな。夫は幸せな夫婦と思いこんでいても、妻の方はそうじゃなくて、離婚できるようになったら即離婚したいと思っている」
子ヤギ   「あらゆる植民地とか奴隷制とか、皆それだもん。上に立つだんなさまは、いいことしてると思ってるし、下の人も上の人が嫌いなわけでもないんだよ。うまく行ってて幸福な場合だってある。でも、それは結局、植民地で、奴隷なんだってば」
ヘラ    「奴隷が幸せってこともあるけどな」
じゅごん  「このおじいさんが、孫に思い出を語る分には別にいいんだよ。でも、侵略や圧制っていうのは、基本的にはもう、やった方が負けなんだよね。言いわけなんか成立しない。された方が、『いや、どうかまあそんなに恐縮なさらず。あの時は私たちもそこそこ幸福でした』って言ってくれるのを待つしかないんだって」
ヘラ    「そうかなあ?」
子ヤギ   「そうよ。上司に誘われて、つまんない飲み会とかに長時間つきあわされて、『昨夜は楽しかったねえ』と言われるのって、どんなに不愉快か。楽しい会だったら、部下からそう言う」

(まだまだ、続きます。)

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