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「死」さえない「無」の世界。

◇台風はどこぞにそれたとか言ってたが、やはりその余波か、どことなく不穏な風が吹いている。いつものパン屋が明日休みかもしれないと思って、スーパーでミニクロワッサンなどを少し買ってきた。
タッパーに入れたまま忘れていた、ハマチかマグロか何かのブロックが、もう見るからに危うそうで捨てるしかないかと覚悟したが、かじってみたらいける気がしたので、ネギと一緒に煮たら、おつゆまがいのものができたので、夕食に食べた。もう一つ、さしみ用の魚のブロックがあって、これはまだ大丈夫のようだったから、買って来たばかりのトマトといっしょに食べた。夕食は魚尽くしになった。

私の料理は、とても料理などとは言えないしろもので、そこらの中年男性でも、よっぽどちゃんとしたものを作るだろうと思う。しかしまあ、自分の好きなものを好きなように切ったり煮たりして食べていたら、それだけで三食非常に幸福だから特に不満はない。母が目の敵にしていた、毒々しい真っ赤な着色ウィンナーなんか、私は妙に好きで、これと熱いごはんをいっしょに食べていると、もうそれだけで、脳天まで突き抜けるような幸福感に満たされる。もしかしてひょっとして、私が男性で料理好きの奥さんとかがいたら、おたがいにものすごく不幸だったのではあるまいか(笑)。

◇上の家の仏間で、線香が燃えつきるまでの間、椅子にくつろいで読む本、「アメリカの鳥」を読み終わったので、新しいのを選ぼうとするが、クッフェの「鉄の時代」とか、誰かかれかの「カッサンドラ」や「アルトゥーロの島」や「巨匠とマルガリータ」など、どれも以前に一度読んだけど、いいかげんに読んでてさっぱり覚えてないのが多くて、これを再読したものか、まったく読んでない新しいのに手を出すか、迷ってしまって、ぐずぐずしている。アベや日本会議の本も何冊か買ったままで、早く読んでしまって市民連合や九条の会の仲間にあげたいので、これもとっとと片づけたいし。

◇昼から教職組主催の「平和のつどい」に行ってきた。ユリックスのハーモニーホールが、わりといっぱいになる盛況で、ほっとした。
布芝居は今年は「あの日を忘れない」という、長崎の被爆体験を描いた絵本が題材で、130人ほどが制作に加わったらしい。毎年思うのだが、素朴な布の紙芝居なのに、妙に迫力があって胸を打つ。今年は音響や照明にも工夫をこらしていたのが新鮮だった。

講演は長崎で被爆して、ずっと教師をされていた80歳とはとても見えない若々しさの山川剛さんの「二度と被爆者をつくらない」。8歳のとき、泥遊びをしていて被爆した体験をリアルに語られながら、決して扇情的ではなく、理性的に冷静に説明されるのが、かえって身に染みた。爆発の瞬間すべてがまっ白の閃光に包まれ、あとで知ったがそれは昼間の晴天の1000倍の明るさだったとか、いったん解除された空襲警報を、建物の上で目視していた警防団の男性がメガホンで「敵機ー!」と絶叫して知らせた直後に爆弾が落ちたとか。(その男性はどうなったのだろうなあ。)

今世界には10万だか1万だか(メモとってなかったのですみません)の核爆弾があり、これがたとえ最後の一個になっても、まだ新しい被爆者が生まれる可能性は残る。ノーモア被爆者というのは、これを完全にゼロにすることでしか達成できない。というような、示唆にとんだ言葉がいくつもありましたが、最後に近く紹介された、米軍が原爆投下の二日前に空撮した爆心地周辺の長崎の町と、投下後の同じ場所の、二枚の写真が印象的でした。

投下前の空撮写真では、浦上川がうねる両側に、びっしりと碁盤の目のように住宅が見えています。小学校や工場もあります。投下後の写真では、同じかたちに流れる浦上川以外には、まったく何もありません。のっぺらぼうの、なめらかな泥地のような土地が広がっているだけです。
「なくなっているものは何かと聞くと、子どもたちでもすぐわかるのは、家が消えたということです。しかし実はもうひとつ消えているものがあります。人の姿がないのです」と山川先生。
本当に、生き物の姿が皆無です。人間も動物も植物も。死体や廃墟さえありません。
すさまじい熱線が、瞬時にすべてを消したのです。数知れない住宅を、命を、人々の営みを。
今のいろんな被災地で必ず見られるがれきの山は、そこにはありません。残酷な映像ではないけれど、息がつまって苦しくなるような、「死」さえない、「無」の世界でした。

ピースベルつやざきの合唱団の美しい声に慰められて、会場を後にしました。例年小さい紙を渡されて折り鶴を折って下さいと言われるのですが、私は折り方を忘れていて、パスしていたのですが、今回はちゃんとネットで調べていたので、下手ですがちゃんと二羽の鶴を折っておいて来ました。長崎の被災地に届けるのだそうです。

◇さて今夜こそ早く寝るかな。来週こそは絶対自分の仕事をしなくては。

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カツジ猫