昔のコラム過去に見た未来

映画「スター・ウォーズ」シリー ズの最新で最後の作品「エピソード 3」を見た。このシリーズ全編を通 しての無気味な悪役であるダース・ ベーダーが誕生するまでの話だから 当然ながら結末は、悲壮で暗い。だ が、この話の全体の結末、つまりダ ース・ベーダーの最期は、すでに何 年も前に映画化されていて、彼が再 び怪物になる前の心を取り戻して滅 びることを多くの観客は知っている。 そこに悲しい救いがある。
思えば30年も前、この映画の初 編を映画館で見て、大胆な設定、ど こか素朴で泥臭い手作りの味わい、 健康で骨太な哲学などを楽しんだ。 それからも時にやや複雑になりすぎ たなとうんざりしながらも、シリー ズのすべてを映画館で見た。多くの 戦いと犠牲の結果もたらされた勝利 と平和を。悪の権化を断罪消滅させ るのではなく、本来の優しさと弱さ をとりもどさせた、甘いとさえ思わ れかねない大団円を。
その優しく暖かい結末を映画館で 見ていた頃、少なくとも私の周囲で はまだ世界は穏やかで戦争はそれほ ど身近ではなかった。
今、アメリカも日本も大きな混迷 の中にある時、最大最強の悪役が、 愛情深く感じやすい優秀な若者の絶 望による変貌から誕生するという、 「エピソード3」の結末は重く冷た く胸に迫る。それがあくまで「挿話」 のラストでしかなく、本当の結末は 彼と戦い、そして愛した人たちによ る勝利で終わることがわかっていて も、生々しい映像から生まれる現実 への絶望は、すでに知っていて、信 じている未来への希望と重なる時、 かえって切なく、深くなる。

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カツジ猫