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しびれたーっ!

◇映画「スリー・ビルボード」見て来た。もう最高(笑)。実はお客が二人だけで、どこかのおじさんが私の真後ろにいただけだったので、じゃまにならないように静かに見ていたんだけど、ラストのせりふで、思わず笑ってしまった。その少し前から、何だかもう、わくわくして胸が躍って気分が昂揚してたのが、あのせりふで頂点に達して、とうとうがまんできなくなった。

不倶戴天のライバルか敵どうしが、最後にタッグを組んで冒険に出発する男同士のバディものみたいな爽快さも、法律を超越して社会に背を向けて愛の逃避行に突っ走る男女の華やかなロマンティックさもあって、いやーもう本当に酔った。

それがもう、外見はよれよれの二人なんだから、なおのこと、こたえられない。主演のフランシス・マクドーマンドはスタイルもいいし、顔の骨格もそりゃ女優さんだからしっかり美女なんだけど、かさかさのしわくちゃの女性版ウィレム・デフォーみたいな(あ、デフォーも基本しっかりハンサムです。そこはよくわかってます私ファンですから)枯れたおばさんになりきってて、しかもそれで、どうしてあんなに、したたるようなみずみずしさと色気があるの。うーん、学ばねば。学べないだろうけど、目指さねば。

◇それにしても、こんな愉快で自由で軽やかでおしゃれで楽しい、大きな波が次々どーんと打ち寄せて海にさらいこまれて翻弄される快感を与えてくれる、スケールの大きい予測不能の映画を、どうして批評家の人たちは、あんなにまじめにつまらないほめ方しかできないんだろう。「悪役がいない」?「実は皆いい人」?「後味は悪くない」?いや言いたいことはわかるけど、そうしか表現しようがないんだろうけど、そりゃ皆いい人だけど、一方で皆クソだし、文句なく理想的に立派でちゃんとしてる、徹底的にまともで魅力的な男性が(あ、いや、彼も法は無視してるか)、見た目は一番普通じゃない人なのも心憎いが、他は皆、たいがい「おいおい、ちょっと」みたいなところありまくりだし。

予想がほぼ全部裏切られるんですよ、いい意味で。「ここでそうなったら、ちょっとうまく行きすぎだけど、まあそのくらいはもう大目に見てもいいかな」と思ったところが、全部ひとつもそうならない。そううまくは行かない、そう甘くはない。だけど、しっかり「えーっ」という、驚きと夢を与えてくれる。予想もしないかたちで、ぶちかましてくれる。
社会正義とか告発とかいう題材に見せかけて、退屈を覚悟させといて、いやそういうものもちゃんと訴えながら(さりげなく、めったにないほどの、国際的正義感もちゃーんとあるのよこれ。見逃す人もいるかもしれないけど、外国や異国のことも、きちんと視野に入り、射程距離内にとらえてるのよ。ものすごく自然な、登場人物の意識の流れとして)、決してそこにとどまらない、そんな枠にははまらない、人間の豊かさ、深さ、奔放さ。

もう身体じゅう、心じゅう、いたるところのツボを、ぎゅうっと押されまくった感じで、こっちまで生命力や冒険心やいたずら心が、恋心がよみがえって来る。まだ私こんなに枯れてなかったかというぐらい、身体の深い奥底から、こんこんと、わいてくる。すみからすみまで、マクドーマンドさんに、ほんとに、ほれた。女だけど、そんなこと関係ないわ。道々考えればいいもんね(笑)。

◇あー、幸せ。もう一回も二回も見たい。ネットの感想も公式ページもリンクしないでおく。私も見ない。どうせ、手垢のついたチンケなほめことばと、見当違いな面白くもない批評や共感しかないだろうから、そんなのは見たくもない。目が汚れるって。
皆さん、とにかく見て下さい。単に私の好みですから、どなたもがここまではまっていただけるか、特に保障はしませんけど(笑)。

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カツジ猫