近世紀行研究法6-第六章 最後に
以上が、まとまらないなりに近世紀行に関する研究と教育に関する現時点での報告である。論文や授業ではなかなか言う機会がないが、研究室での実地の指導では学生に話すことを中心に書いた。学生や社会人の方々が近世紀行の研究や卒業論文の制作をする際の参考になれば幸いである。
このように書いてみて意外だったのは、中村幸彦、中野三敏という二人の指導教官に思っていたよりずっと多くのご指導を受けていたということだった。これまで私はお二人に一番感謝していたのは、私が好き勝手にやっている研究に何の口出しもせず黙って見守っていて下さったことで、逆説でも冗談でもなく、心底それで最高のご指導をいただいたと感謝していた。しかし、こうして書いてみると、それだけでなく直接間接にお二人の発言は私を常に大きく支え、何よりお二人の存在自体が私の指針となっていた。
かつて、さまざまな問題を抱えた職場にいた時、中村先生への手紙の中で私は「先生だったらなさるだろうこと、あるいは決してなさらないだろうことを考えることが、どれだけ助けになったかわかりません」と書いたことがある。あらためて思うが、直接の指導やお会いすることはまれにしかなくても、お二人がしておられる研究や教育を思い浮かべるだけで私は充分にするべきことや進むべき方向が選択できた。自分自身の研究に真摯に取り組むことを通してすぐれた教育者となるこのようなあり方は、教育者として理想でも特殊でもなく、普遍的なものであろうとあらためて私は強く感じている。
(二〇〇九年九月二十九日)