最後まで着る服(5)
この毛糸のセーターは二枚とも、きっと売れるし、人にももらってもらえるでしょう。だけど私が手放したくなく、死ぬまで手元においておきたい。
なにしろ温かいんですよ。雪が降ろうが何だろうが、凍えてしまいそうな真冬の日の外出でも、これさえ着とけばもう大丈夫。毛皮のコートにもひけをとらない。しかもがぽっと上からかぶれば下に何を着てても見えない。黒っぽい無地の厚手のパンツをはけば完全武装で、首もしっかり詰まっているので、スカーフもストールもなしでいい。
しかも色はどちらも真っ赤。いさぎいいほど、ひたすらな真っ赤。胸には一方にはヒツジ、もう一方にはキウイが編み込んである。と言ったら見当もつくように、これは叔母夫婦のお供をして、母と私がニュージーランドに旅行したとき、現地で買ったセーターです。
ヒツジはニュージーランドには多くて、キウイは国鳥です。セーターの模様、ヒツジはわかりますが、キウイは何だかわからないよねー。赤い帽子とえりまきをして、スキーをしてるらしいんですが。すっころんだ一羽は、帽子がはずれて飛んでます。そんなところが無駄に細かい。
キウイは絶滅危惧種で飛べない鳥です。実物も現地の動物園で見せてもらいましたが、夜行性だからかはく製みたいに覇気がなく、飼育員さんが動かすと、とっとっと歩いてすぐに止まって、じっとうつむいたままで、そりゃあ絶滅しかけるわなあと思いました。でも国鳥だからかわいいぬいぐるみの小さいグッズとかもいろいろあって、留守中、猫の世話を頼んだ若い人たちに、そういうのをお土産に買えばよかったのに、私はつい実物そっくりの、じみーな茶色のかたまり(実物大)みたいなぬいぐるみを買ってしまって、彼女たちきっと、がっかりしたんじゃないかな。
ニュージーランドはつつましい、かわいい町と、雄大な自然が印象的な楽しい国でした。叔母たちには感謝するけど、私はふだんの暮し同様、旅も一人が一番好きなので、特に母とはときどき険悪になりながらの旅でしたが、今ではまあそれも思えば楽しい。
このセーターは、母がヒツジ、私がキウイのを自分用に買ったのです。どこのお店でどうして買ったのかはふしぎなほどに覚えていない。母は他にもウールのピンクのスカートを買ったのですが、ホテルで試着したら似合わなくて、私がもらいました。これも温かで軽くて冬には重宝しています。ひょっとしたら、セーターといっしょに最後まで残すかな?ヒツジのセーターも母が亡くなったあとは私のものになりました。 (2025.4.27.)