「馬の中」シリーズ解説(2)
ひきつづき、「馬の中」シリーズ三冊に収録する予定の作品の内容紹介一覧です。なお、これらの作品は、どれも、このホームページのこちらで読めます。「12日間」は未完ですが実は完成していて、ご要望があれば続きをアップいたします(笑)。
第一冊「炎」
三幅対
戦いの始まる以前のトロイの都、戦いの発端となるスパルタの王宮、そして戦いで名を残す英雄アキレスの故郷ピティア、その三か所の日常を描いて、後にめぐりあい殺し合うことになる人々の、一見平和な日常と、愛すべき悩みのさまざまを描く。
疾走
映画では数日だが原作では十年かかったトロイとギリシャの戦いの最後をもたらしたのは、ギリシャの知将オデュセウスの考えたある作戦だった。その作戦の成功により、火と血の中で崩壊するトロイの都の中を、愛する女性を救うことだけをめざして走りつづけるアキレスの独白。彼女との出会いと別れ、戦いの日々。彼女の願いと祈りをかなえるために、「殺すしか能のない」自分にできることとは何か。それは彼にもわからない。
第二冊「風」
おれにまかせろ
戦いのきっかけとなった事件を、無事に処理して戦いを回避することは可能なのか?この絶対的な難題をクリアしようと心を砕く、トロイの英雄ヘクトルと、彼を助ける謎めいた乞食。関係者の心理を読み、状況を把握し、作戦を立てては修正する二人の途方もない努力の数々を、ゲームのような面白さで描き、従来の物語とはちがった痛快で幸福な結末へと導く。現代にも通用する、武器を使わず、賢さと大胆さと誠実さを駆使した戦いの勝敗と結末とは?
守りつづけて
戦いの原因となる事件を起こしたトロイの第二王子パリスとは、いったい何者だったのか?美しく明るく無邪気で無責任、奔放に愛と恋を楽しむ若者の彼は、そんな自分を幼いころから常に守ってくれた賢く強く勇ましく、非の打ち所のない兄の、弱さや悩みや悲しみを、実は誰よりもよく知って、ひそかに支えていたのかもしれない。そんな彼の目から見た、トロイの都と兄の物語。
第三冊「夜」
12日間
戦いの中でギリシャのアキレスにさらわれて彼と愛し合ったトロイの巫女ブリセイスは、アキレスが殺したトロイの王子ヘクトルの遺骸とともにトロイに戻った。ヘクトルの葬儀の間、12日間、両軍は休戦する。アキレスとギリシャを憎むトロイの人々の中で、戦いの中止と平和を築くために、彼女は何をすればよいのか?そんな彼女の決意と覚悟と努力の毎日をつづる。
想定問答
映画「トロイ」は公開後さまざまな破天荒なファンフィクションの数々をネット上で生んだ。中にはエロティックなものもグロテスクなものもあった。これはそれらを楽しみつつ、おつきあいして試作した、悪役の独裁者アガメムノンの心理と言い分。現代の世界の指導者たちに共通する、そのしたたかさは、どうかするとそれぞれに理想的な人物のアキレスやヘクトルをさえ論破し従わせるかもしれない。
船はもう着いているのに
アキレスの母テティスは海の女神とも呼ばれた女性。彼女は戦いから帰る息子の船を待っていた。ともに戦いに行った若い従弟や敵国の王子と、むつまじげに戻って来た彼は、和平が成立したことを告げる。一同は心楽しく食事をし、アキレスと母は幼いころの思い出を語り合う。しかし、この幸せは果たして現実なのだろうか?
旅の終り
トロイの王子パリスと同様、アキレスの愛した若い従弟のパトロクロスは、その若さと純粋さと情熱ゆえに、二人のすぐれた英雄のその後の運命と戦いの行方を大きく変える。彼の心理や感情はパリス以上に未整理で衝動的で、本人さえも説明できないものだろう。そのような彼の姿を多分こういうかたちでしか私には書きとめられそうにない。悲しみをこめて。恐れをこめて。
少女漫画も顔負けの、めちゃくちゃ甘いイラストですが、誰が誰かはお察し下さい(笑)。