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「水の王子」通信(118)

「水の王子  山が」第十二回

【幼いマガツミ】

「幼いときの記憶を聞いたことがある」オオクニヌシは言った。「あまりぶしつけにマガツミでいたころのことを覚えているかと聞くのもあれだと思ったものだから。小さい時の一番初めの思い出は何だったかねと。あれは本当に無邪気にあっさり答えたよ。かわいがられていました、幸せでした、とね。三人の女のいる建物の中でいつもとても大事にされていたらしい。薬や血の匂いもしていたが、それもあれにはどこかなつかしいぐらい、いつも三人からかわいがられて、行きとどいた世話をしてもらっていた。病人も、死んで行く者たちも皆、彼に優しく、親切だったそうだ」
 「彼をかわいがることで皆が救われていたのかもな」ツクヨミが眉をよせた。「おそらく愛らしい健康な子どもだったのだろう、見るからに。だから皆の希望だし、死にゆく者たちも未来を夢みることができた」
 「スサノオも彼の幼いときから、抱いて連れて歩いたり、自分の家でいっしょに遊んだりしていたようだ」オオクニヌシは続けた。「王としての心がけも教えたし、星や動物についての知識もすべて与えた。剣も闘技もすべて教えこんだ。そんな訓練も勉強も彼はまったく苦にならなかったと言っている。楽しくて、面白くて、うれしかったと。まあ、教え方もよかったんだろうが、もちろん素質もあったんだろう。そんな子どもがいるものかという人もいるだろうが、私は一人知っている。タケミナカタがそうだった。生まれながらに心が広く、やさしくて、恐れを知らず、強かった。嫉妬や欲望や競争心とは、まるで無縁の男だったよ」
 「あんたとスセリのどっかとどっかが合わされば、そうなりそうな気もするが」ツクヨミは鼻で笑った。「だから何だ?」
 「タカヒコネがタケミナカタを殺したことにはまちがいがない」オオクニヌシは言った。「本人がそう告白しているし、何よりもあの身体の変調は私がかけた呪いの結果でしかないからな。だが問題はその理由だ。がれきの下で、あれは私にこう打ちあけた。つまらない金のやりとりのいざこざから結局殺してしまったと。だが彼を知れば知るほど、それが本当とは思えない。息子も彼も欲望や嫉妬とは、まったく無縁の人間だった。そんな二人が金をめぐってのごたごたで対立するということが、まずどうしても想像できないのだ、私には」

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カツジ猫