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2021年「古典文学講義A」のレポート(3)

『花咲かじいさん』の歴史

1.         はじめに(テーマ選択の理由)

 『花咲かじいさん』は、日本人なら誰もが知っていると言っても過言ではないぐらい有名な昔話である。しかし今回、古典文学講義Aの講義を受講し、初めの講義内ミニプレゼンであらすじを発表したところ、個人間で違いが見られた。概要としては皆、老夫婦二組と犬が登場し、その犬のおかげで一方の夫婦は豊かに、もう一方の妬みや羨みからそれを真似ようとした夫婦は悲劇的になって終わるといったものであったが、犬の転生の経緯や名前の違いなど細かな部分が異なっていた。

 そこで私は、複数の『花咲かじいさん』の話を調べ、その違いや変遷について調べることにした。

2.         参考文献紹介

 今回、『花咲かじいさん』を調べるに当たり、5つの作品を比較することにした。

①          『日本昔噺 第五編』1971年 臨川書店 巌谷小波

②          『日本名作絵本7』1993年 ティビーエス・ブリタニカ 

文:藤井いづみ 絵:井口文秀

③          『花さかじい』2011年 童話館出版 椿原菜々子:文 太田大八:絵

④          『花咲かじいさん 再話・読みもの作成ワークショップ』2011年

NPO法人日本語多読研究会 とおのとうこ:挿絵

⑤          『はなさかじい』2012年 ポプラ社 よしざわかずお:文 さくらいまこと:絵

以下、①~⑤の番号で示す。

3.         文献比較と考察

ここでは、参考とした5つの文献の比較を行っていく。その際の観点として、

  1. A) 犬との出会いの経緯
  2. B) 木から臼になるまでの過程
  3. C) 隣のじいさんへの罰

の3つに絞って今回は考察を進めたい。

  1. A) 犬との出会い

 犬との出会い方は、次の3つに大きく分けられた。

(ア)       畑で犬を見つける

(イ)       川から犬が入った赤い箱が流れてくる

(ウ)       子どもの代わりに犬を飼う

文献をこの3つに分けると、④が(ア)、②・③が(イ)、①・⑤が(ウ)であった。

より細かく見ていくと、①は子どもの代わりに犬を飼おうと初めから考えていて飼い始めたという出会いであり、⑤は子どもをもらいに町に行こうとする道中で出会った犬と、「いい子どもが見つからなかったらおまえを子どもにしよう」と約束して帰り道で連れ帰るという出会い方である。また、講義内ミニプレゼンでは犬が出てこないパターンも挙がっていたが、今回そのような話は見つけられなかった。

犬には、④に「ポチ」と⑤に「四郎」と名が付けられたが、①~③には名前は書かれず、また「シロ」という名前も今回は見つからなかった。ただし、⑤は読みが「しろう」であるため、元は「シロ」であったとも考えられる。

  1. B) 木から臼になるまでの過程

 話の中で犬は二度の転生を行う。その一度目が、犬から大木(後の臼)への転生である。どの話も隣のじいさんに殺されてしまうという点においては同じであるが、まず、①~③は、隣のじいさんが殺したついでにそのまま埋め、④・⑤は飼っていた方のじいさんが死んでいる犬を見つけて埋めるといった点で異なる。

その後、飼っていたじいさんが亡骸を埋めた上に松の木を植え、それが大木へと成長を遂げる点は②~④で共通していたが、①は隣のじいさんが自分の家の木の下に犬を埋めたため、その木を犬の飼い主のじいさんが譲ってもらっていた。そしてその大木が臼になる経緯が何よりも異なる。

①は、譲られた木を犬の追善供養のための餅を作ろうということで、臼になった。

②は、正月が近いからということでそこで食べるための餅を作るために、臼になった。

③は、ある日大木にとまった白い鳥が「松の木切って臼作れ」と鳴いた。それを聞いたじいさんが言葉に従ったことで臼になった。

④は、大きくなった木がある日突然「臼になりたい」と言う。それをじいさんが聞き、木を切って臼になった。

⑤は、木の近くに飛んできた綺麗な鳥が、「じいさまじいさま、この木切って臼にせ」と鳴いたため言葉通りにして臼になった。

大別すると、餅を作るという目的があり、そのための道具が必要だからということで臼になった①②と、第三者から臼にするよう言われて作った③~⑤に分けられるが、餅を作る理由の部分や、第三者の姿の点で5つとも細部は異なる描写となっていた。

  1. C) 隣のじいさんへの罰

 物語終盤では殿様が登場し、臼が燃えてできた灰で花が咲くところをじいさんが披露する。しかしそれを真似しようとした隣のじいさんは失敗して罰を受けることになる。その罰の内容にも作品ごとに違いが見られた。

 大きく分けると、「牢屋に入れられる」「さんざんに叩かれる」「木から落ちる」の三つである。①④は一つ目の牢屋に入れられるパターン。②③は二つ目の叩かれるパターン。これは②では「百叩きの刑」、③では「棒叩きの罰」と名称がつけられていた。そして⑤は木から落ちるパターンである。他の四つとは異なりこれは殿様からの罰ではなく、灰が目に入り見えなくなったことで引き起こされた、自業自得の罰である。

4.         結論

 今回、5つの『花咲かじいさん』について比較を進めてきた。

比較結果を図式化すると次のようになるだろう。(図は省略します。板坂)

A)犬との出会いの経緯

B)木から臼になるまでの過程

C)隣のじいさんへの罰

 ①に着目し、同じ箇所に分類されている作品をみると、Aでは⑤、Bでは②、Cでは④と全て異なっている。他の作品も同じようにみるが、3つの観点とも一致しているものはなかった。

このように全く同じ展開が無く、まるで三者三様と言わんばかりの比較結果になったことから『花咲かじいさん』の変遷について考えると、最も古いものがどのような展開だったかは分からないが、そこから派生した展開が複数誕生し、その次の作品になる時は派生した複数のものを統合したり、さらにまた新しい展開を生んだりしたことがわかる。

 ここには記さなかったが、あらすじだけをたどると②と③は非常に似通った展開にはなっている。それでもBのような同じ分類とはとても言い切れない点も含まれていた。歴史という観点で、「この作品の展開の次にこれが誕生した」などと順に並べることは容易ではないが、少なくとも、ある展開をなぞっただけの伝承ばかりがなされているわけではないと考える。

5.         おわりに

 『花咲かじいさん』の展開について作品比較を行うと、似ているものもあるがところどころ展開が異なっていることがわかった。幼少期に何気なく見聞きしていた馴染みのある作品ではあったが、深く考察すると気づきも多かった。今回は『花咲かじいさん』であったが、昔話は他にも多数存在する。それらも私自身が「こうだ」と感じている話の展開とは違ったものがあるかもしれない。

また、昔話を主に楽しむ対象としては幼児であろう。そしてその時の記憶で、どんな話かと聞かれるとあらすじが出てくるはずである。しかし幼児が昔話を楽しむための場は何も絵本だけではない。いわゆる「おはなし」。道具を要さず、ただ言葉だけで伝えるやり方がある。これは書かれている内容を読む「読み聞かせ」とは異なり、語り手の頭の中にある展開が言葉となって伝わる。それゆえに一言一句違わず全く同じ話になることはない。昔話が今回考察したように少しずつ異なったり、ミニプレゼンで語ったあらすじが人によって微妙なずれがあったりするのにはこの「おはなし」の影響もあるのではないかと考えた。

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