掲示板でのおしゃべり2004年6月


[785] はいはい 投稿者:じゅうばこ 投稿日:2004/06/03(Thu) 20:53

かもめさん
私もエリック・バナの評判があまりにもすさまじくどこでもいいものですから、ちょっと悪口を言ってやろうと思って何度か見ているのですが、驚くべし欠点が見つからない(笑)。

ピーター・オトゥールのロレンスや、ラッセルのマキシマスと同様、これは彼のためにあるような役で、その二人のように、もちろん今後いろんないい役や演技はあるだろうけど、これを超えることは死ぬまでないのではないだろうか、とちょっと心配になるぐらい。
とにかくもう自然すぎて、何も演技をしている風がないぐらい、もうあのヘクトルという人格がそこにいるのには参りました。
メイキングをちょっと見てみたい。ラッセルはカメラが回るのをやめたとたん、マキシマスじゃなくなっていましたが、バナさんはその点どうなのでしょうね。

ブラッド・ピットのアキレスも、はまり役という点では同じで、彼も、これを超える演技が今後できるのかと…。
ただ、これも意識してやってるのでしょうけど、彼のアキレスの戦い方はいってみれば辺境の闘技場でのマキシマスの6人斬りだかのように、いつも余裕をもったダンスのような動きで、一方のエリックのへクトルはローマでのマキシマスのように全力ぎりぎりの危機一髪のリアル感にあふれているので、その分切実に訴えてくるのがまた(へクトルは)得してますよね。


[272] さて、「パッション」の感想を続けますが、その前に、 投稿者:じゅうばこ 投稿日:2004/06/07(Mon) 18:59

◇恒例の?「トロイ」の感想です。
いろいろな点で面白いので、「ひまだと見に行く」という「グラディエーター」時の現象に陥ってるので、またしょうもない発見をしてしまう。

以下ネタばれです。
ギリシャ方が木馬残してひき上げたかのように見せた後、入り江に隠していた船団を発見して射殺されるトロイの人って、最初に船団が来て戦闘準備の時、へクトルに「いつまでに兵が揃う?」と聞かれて「昼までに」と答えて「急げ」と言われてる人ですね。その後、パリスとメネラスの決闘の前にかぶと持ってくる人、勝利の後で「敵にも死体を集めさせてやれ」とへクトルに言われて「お情深い」と言ってる人、でもある。名前はリュサンドロス?ヘクトルの側近にはもう一人テクトンがいるけど、この人はアポロ神殿の前で、アキレスの槍で殺されるのですね。

そのアキレスが「性格がまったく理解できない」「共感しにくい」という不評な意見をよく見るので、こけてます。わかりやすいじゃんよ、あれ。わかりやすすぎると不安なぐらいだったのに。
自分が原作読んでるからかとも思ってみたけど、原作読んでなかったら私もっとよくわかったと思うな、あの性格は。

ブラッド・ピットはたしかにいろいろ言いたいところもあるのよ、それは。だいたい海岸で剣を空にのばしてポーズ決めるあの予告にも出た場面(あの予告のあの絵を見て私は「大丈夫か?」と、ずっと心配していたのですが)、きれいなんだけど、まるでもう、絵のように軽い。まるで中身がないスカスカ。どうしてああなるのか、ほんとに不思議。なぜだろうなあ。あそこが一番軽く見える。
他にもいろいろ言いたいことはあるけれど、さりとてでは誰にやらせたらいいかというと、やはり今のところ、彼以上にあの役にはまる人は思い浮かびません。へクトルのエリック・バナにやらせたいという意見もよく見るけど、そういう意見も出るんだなあ、あれだけへクトル役が映えると、と感心するけど、私は何だかそれはもう、とても絶対考えられない。エリック・バナという俳優をよく知らないので何とも言えませんけれど、あの映画のあのアキレス役はどういうか、うまけりゃいいというもんではないんですよねえ。やはり、ブラッド・ピットのあの無垢さ、天衣無縫さ、崇高さ、野性、スケール、わけわからなさがなくてはいけない。と思う。

あー、いかん、よく考えたら私このタイプに弱いのかも。男女を問わず、バカには私、甘いもんなあ。もっというなら、自分のバカなとこにも甘い。

アキレスとへクトルの出会いの時、アキレスはへクトルを知っていて(そりゃそうですよね、オデュセウスから「トロイ一の剣士、ひょっとしたらギリシャ一かも」などと言われて興味しんしんで来てるんだから)、一方のへクトルはアキレスの名を知らない。これってアキレスにしてみれば「つまんないなー」なんですよね。見物がいないのに、と言うのもあるけど、自分のこと相手が知らないんじゃあ、というのもある。
バカですよ。でもこうみえみえだと、それもかわいい。

アキレスとアガメムノンは、ほんっとに相手がきらいなんでしょうが、この二人、ちょっとそういうとこ似てて、それを互いに意識してる近親憎悪もあるんだと思う。まったく別の基準で動いてるのがへクトルで(というか、個人的名声とか名誉とか、そんなものは生まれた時から王子として、いやんなるほど押しつけられて、げっぷが出るほど満喫して、ほとんど重荷になっているへクトルは、名声や栄誉なんてのは、皆そのままお仕事の重圧で、戦いや勝利を楽しんだり遊んだりする暇なんかない)、だからちがう人種みたいで怒る気にならないのかも。だって、弟殺された、それもかなり問題ある手順で殺された夜にまで、アガメムノンは「へクトルは国のために闘ってる。アキレスは」と、アキレスの方を嫌ってるんだもの。

まあ、それはそれとして、アキレスがこれだけ嫌われるのを見てると、「マスター・アンド・コマンダー」がバカな宣伝のおかげで当初不評だった時、「ああいう『多くを語らない』表現、『さりげなく』しか感情をあらわさないやり方が、これだけまったく理解されないのでは、私が言ってることや訴えてることは、周囲にも世間にもこれは丸っきり伝わってないかも」と冷や汗流したのと同じに、「あー、私があたりまえ、まっとう、常識と思ってやってること、ものすごく周囲のひんしゅくかってるかもな」と痛感反省自覚しました。
アキレスのやってること、私にはすべてあたりまえにしか見えない。特に、自分の能力を評価しないし、それなりの礼儀を守らない上司や仲間に仕える必要なんかないし、自分の愛する者を傷つけ殺したら、たとえ理不尽でも八つ当たりでも、その原因となった者を絶対に許さない。どんな残酷なしうちでもする。でも、それを反省したら、それはそれでまた思いきり気持は変わる。こういうところ、すべてが。
あの映画のアキレスの気持の変化は私にはすみずみまでよくわかったし、全面的に感情移入できました。最後が甘いとも思わなかった。あれだけ激しく憎むから、あれだけ無邪気に愛せる。

ヘクトルはたしかに立派で魅力的ですが、彼だけだとこの映画、すごく辛気臭くなりますよ。ぱーんとふっきって感情の極から極へ飛ぶアキレスがいてこそ、へクトルの穏やかさと静かさがひきたつのです。


[273] あっ、こうなったらもうついでに言ってしまいますが。 投稿者:じゅうばこ 投稿日:2004/06/07(Mon) 19:56

◇「トロイ」の脚本が悪いという意見が多いのも、私はまったくわからんのよねー。私の感覚古いのか変なのか、まあいいけど、最近こんなにうまいなー、無駄がないなー、よく計算されてるなーと思った映画も珍しい。

以下めっちゃ全部ネタばれです。

冒頭のアキレスの登場のとこ、アキレスの描き方も型どおりにうまいんですが(こんな映画に型以外のものを期待してはまちがい。これはバカにして言ってるのではなく、型どおりなのが正しいという意味で)、そこでさりげなくきちっと描いてるのは、アキレスとギリシャとアガメムノンの位置関係、力関係。
つまりテッサリアの征服はアガメムノンにとって理想的な展開であって、これが模範的パターンなわけですね。最初にそれを提示する。でもって、トロイに対しても、アガメムノンが望むところはこれで、普通だとトロイの運命はこうなることがちゃんと示されている。

でも、そこで「トロイは陥落したことがない」「へクトルの軍は最強」という、「今度ばかりは…」の条件が提示される。そして、勝敗の鍵を握るのはアキレス参戦、その説得ができる男はオデュセウスだけ、と次々に明確に「役割」と「鍵」が明らかになって、それにふさわしく人物が登場する。ものすごく無駄がない盛り上がり方で、私はこの展開そのものに、見ていてものすごく爽快感を感じる。

何より感服するのは、その役割がまったく「イーリアス」を正確にふまえていること。トロイの城壁の堅固さ、へクトルの護りの堅さ、アキレスの鍵をにぎる重要さ、それを更に左右するオデュセウスの位置。これすべて、「イーリアス」の配置です。変な新解釈を加えてなんかいない。堂々と、けれん味なく原作を活かしきっていて、さかしらな小細工をしていないことにまず、うなりました。

その後の展開もです。へクトルの美化はあるけど、それも原作の方向を正しく強調してるだけ。パトロクロスの役割も、プリアモスの役割も、すべて原作の基本的な要素を確実に延長発展させている。これも見ていてもうすごい快感です。
「グラディエーター」でもそうでしたが、この映画の戦闘場面には皆、筋とからんだ意味がある。無駄に戦闘をくりかえしていない。こういう戦闘場面こそ、私は興奮します。それによって筋が発展し、それによって人が変化する。実際の戦闘は必ずしもそうではないのかもしれないけど、映画ではそうあってほしい。それが脚本というもんじゃないのですか。

最後の木馬がややだれるのは、しかたがない。むしろスピーディーに片づけているので、これはこれでいい。クライマックスが最後に来なくちゃならないというのも、スピルバーグあたりの映画でつちかわれてしまった固定観念で、終盤がいいかげんなのって、むしろ大作には多い。…なんてまあね、その昔「ウェスト・サイド物語」をそれこそ50回以上観たのですが、ベルナルドが死んでから最後まで毎回我慢していた私としては「映画なんて、そんなもん」「それでもまん中まで楽しませてもらったらもう我慢する」というあきらめがあるのかもです(笑)。
どっちみち、「イーリアス」だって、へクトルの死で終わってるんだもん。まあ、私は木馬とオデュセウスで充分楽しめました。

原作を活かしているということを除いても、私はこの脚本は実によくできていると感じています。だから、それが批判されていると、もうちょっと呆然としてしまう。
ただ、多くの人の欲求不満なのは、「どっちに肩入れしていいかわからなかった」「パリスとヘレネーの扱いに釈然としない」のようですね。

後者については、長くなるからまたゆっくり書くけど、この話はどう扱うかものすごく難しいんですよ。キャラママ(板坂)が「授業ノートコーナー」の「トロイのヘレン」で書いてるように、この題材を扱うのは、作者の(そしてむろん観客や読者の方も)女性観、恋愛観、人生観、戦争観のすべてが試されるといっても過言ではない。
で、今回私はこの点ですごく感動し、満足したのです。完璧に近く。

「私のために戦わないで!」とブリセイスは叫んでアキレスをとめる。

「私のために戦うなんて」とヘレネは嘆く。そして自分のために戦いきれなかったパリスを「英雄はいらない」と慰める。

きわめつき。男の中の男へクトルは、自分が愛する妻や子を「戦って護りきれない」ことを、奥さんに逃げ道を教えることで宣言している。

「愛する者を護るために男たちは戦う」などという、身の毛もよだつような嘘っぱちのスローガンをこれほど完膚なきまでに登場人物たちが否定しまくってくれた戦争映画がかつてあったでしょうか。
それもトロイ戦争という戦争の中の戦争、男の中の男たちを描きながら。

恐れ入るのは、これもまた「イーリアス」をまったく無視した設定ではないこと。原作でへクトルは妻に言っています。「私はあなた方が殺され凌辱されるのをこの目で見るぐらいなら、その前にいっそ死んでしまっておきたい」。
あのなあっ!!!
「受け身の愛」でも書きましたけど、「誰かを護るために闘う」やつの本音なんてしょせんはそんなもんなのだよ。

「どっちに肩入れしていいかわからん」方は、これもなあ…私は「ロード・オブ・ザ・リング」見てても、オークやなんかの軍勢見ながら「この人たちにはどんな過去があるのだろう。どんな事情があるのだろう」と想像してしまっていたし、「スターシップ・トゥルーパーズ」でも、昆虫に肩入れしてずっと見てたから、ちっとも恐くなかったって前歴があるからなあ。戦いなんて、むしろ、こういう風に描かれる方がなじみます。これも「イーリアス」がそうだし、「平家物語」だって「三国志」だって皆そうじゃなかったっけか。一方の方に感情移入しっぱなしの方が落ち着くというのは、うーん、まあそういう心境もわからんではありませんが、とついまた相手に感情移入してしまう私ですが、あっ、また時間がなくなったので、「パッション」の感想はまた今度。ごめんなさい。


[274] 性懲りもなく続けますが、いいかげんにしないとそろそろヤバいかも。 投稿者:じゅうばこ 投稿日:2004/06/08(Tue) 11:36

◇と、言いつつ、また「パッション」感想の前に二つだけ、「トロイ」について(とにかく最近忙しいので、ちょっとしたことでも書いておかないと即忘れる)。

以下もちろんネタばれ。

巫女さんとアキレスの恋がわからんというのですが、恋愛映画音痴の私にも、一応は何となくわかるけどなー、この二人の惹かれあい。そもそも最初に「名前は?」って聞かれた時からブリセイスは「?」と思ってますよ。ありふれた描き方ではあるけど、従軍慰安婦の女性をレイプする時、名前聞いた日本兵はいないでしょう。
私はこの映画の女性の描き方は難しいことに挑戦してて、非常に健闘しているし、女優さんたちの演技も同様だと思う。

ヘクトルが妻子といて、ギリシャの船団が来たと知り、急いでテラスに出て行く時、一瞬目を伏せるんですね。こういう緊急時、危急時に家庭人から政治家、戦士へ切り替わる一瞬に、沖をにらんで顔をひきしめるのではなく、すうっと瞑想するように。それがいかにもへクトルで、彼の生き方や戦い方のすべてが浮かび上がってくるような気がする。どうしたらこういう演技ができるのか、まったく驚きます。


[276] そうなんですよ、必ずしも宗教でなくてもいいのだけど、 投稿者:じゅうばこ 投稿日:2004/06/09(Wed) 23:11

◇宗教と言えば、また「トロイ」の話。へクトルが宗教に対して冷たいのは、まあこういう役柄上しかたがない設定かなとか思ってたのですが(どこかのサイトで「ヘクトルが神を冒涜するのは不自然で、失望した」と批判していた方もおられたし)、これまた「イーリアス」を読み直していたら、ギリシャ軍の船に迫る時、誰かが「鷲が蛇をつかんで飛んでって、落としたから縁起が悪くて、攻撃はやめた方が」とか言うのに対して、「鳥が西へ飛ぼうが東へ飛ぼうが、そんなことが何だ」と一蹴して攻撃を続けてるのですね。こればっかり言ってますが、ハリウッド映画と原作をあなどってはいけないなあ。


[279] 旅先からです。 投稿者:じゅうばこ 投稿日:2004/06/12(Sat) 22:55

◇ぺコさん。

そりゃそうと、今日ついに、歌舞伎町の木馬を見てきました。私は見ようと思ったものは見るのですね。何だかつくづく、そう思う。
写真もいっぱいとったけど、どうかなあ。夜だったし。
木馬は映画で見たよりも色が薄くって、古木の感じがよく出てました。にぎやかなネオンの中で異彩を放って、なかなか凄みがあったような、妙にあたりにとけこんでなじんでたような。

今思うと、トロイはヘクトルが「馬を馴らすヘクトル」の呼び名で呼ばれるように、馬と関わりが深い国なんですね。そういや、盾にも船の帆にも、お馬さんのマークがついてたし、最後の炎上の時も解放された馬たちが町を走りまわってたし。
「イーリアス」でも、ヘクトルが「私は大抵の男より立派な夫と思うのだが、そんな夫の私より先に妻は馬を大事にして食事を与えている」とか言ってるし(笑)。
こういう文化だから木馬は焼けないだろうとオデュセウスが計算していたのなら、頭はいいけども悪いやっちゃなあー。


[281] 木馬の写真は実はキャラママ(板坂)からの依頼で、 投稿者:じゅうばこ 投稿日:2004/06/15(Tue) 21:02

◇ペコさん。
彼女がセンター長をしている情報処理センターの「センターだより」にウィルスの注意をする記事をのせるのに、「トロイの木馬」型のウィルスの挿絵に、あの木馬の写真を使いたいのだそうで。そんなもん、何か理解の助けになるのでしょうか、よくわかりませんが(笑)。

しかし何はさておき、「トロイの木馬」と言えばウィルスのこととしか知られてなかったのに、今やネットの掲示板で、アキレスがどーたらへクトルがあーたらパリスがこーたらという会話がとびかい、見るからに今風の女の子たちが、「パリスとヘレンが一番悪いんやん。てめーたちのせいだのに、逃げるなっちゅうねん」などと憤慨して話しながら街中を歩いてる、なんてのはもうそれだけで私には涙が出るほどうれしい状況なのですよねー。古典の話が日常的に語られるのって、夢みたいに楽しい。

◇それで思い出したのですが、フランスの近代劇で「トロイ戦争は起こらない」という反戦劇?があって、これがもう面白いのなんのって。私は「トロイ」の映画を半分ほど見た時点で、このへクトル像は絶対にあの劇からのパクリだと勝手に決めてしまったのですが(笑)。少なくとも、あのへクトルでそのまんま、「トロイ戦争は起こらない」は演じられると思います。アンドロマケもオデュセウスもパリスも多分行ける。ヘレンはちょっとちがうんですが。劇の彼女はもっと暗いし意地悪なの。 アキレスは残念ながら、この劇には出ていません。でも、ほんっとに笑えるんですよ。あの映画のイメージであてはめて読むと。


日記の感想をこちらで書いてもいいのかなー 投稿者:じゅうばこ  投稿日: 6月15日(火)12時57分27秒

先日、お上りさん丸だしで、東京は歌舞伎町の木馬の写真をとってましたら、通りかかった若い女の子の一人は「お兄さんが最高」と言ってましたが、もう一人は「アキレスが素敵」と言ってて、まったく話がかみ合わないまま、別々の話を二人で夢中で興奮してしゃべりあってました(一致して一応会話が成立していたのは、「あのバカ二人のカップルがあ!」ってとこだけでした)。
それ聞きながら痛感したのですが、ブラッド・ピットが誉められてるのを聞いて、ほっとするような日が自分に訪れるとは思わなかったなあ。

あの冒頭の場面は白眉です(笑)。あそこではっきり、「こういう役なんだぞ」とあれだけ明確に宣言してくれてるのに、アキレスにまともな人間像を期待する方が悪い。(しかし、そういう人は、彼の身体に目が行ってて、女性たちをしっかり見てないのかもしれないですが。)
もっとも、あのような場面で、彼の肉体の美しいけどカルさが、一種の清爽感になって、不潔さを感じさせないせいもあるので、それにも笑いつつ感心しました。ラッセルが同じ場面をやってくれたらリアルすぎて色っぽすぎて、後の話がふっとんだかもしれません。監督は素材をよくわかって調理してますね。

私はひいきめで、ヘレンももう負けとけと思っているのですが、Kumikoさんはアンドロマケ(奥さん)やブリセイス(巫女さん)は許容範囲でいらっしゃったのですか?(笑)


[789] いや~ 投稿者:じゅうばこ 投稿日:2004/06/10(Thu) 00:32

ペプシのCM最高ですね(笑)。

かもめさん

>また観に行きたい。。。のですが、ヘクトルしか目に入らないので、あの映画は長すぎます(^^;

よくあることです(笑)。その点「グラ」は無駄がなかったですね。

あの決闘の場面、だ~れも応援がないアキレスと、トロイの全期待をになって戦うへクトルを見ていて、「あー、へクトルは何と気の毒な。私ならこんなの耐えられん」と同情してました。 誰も応援のないアキレスの方がかわいそうと思う人がいたら、それはシロウトです。あれは絶対へクトルの方がきつい。
でも、パリスに「今は剣のことしか考えるな」とアドバイスしていましたから、自分もきっとああいう時は背後のトロイの人たちのことなんか、すっぱり忘れて闘ってるんだろう、と自分に言い聞かせて落ちつこうとしてました。

トロイ王のオトゥールの演技は彼にしては淡白な感じがしたのですけど、まあ、あのくらいの方がいいのかもしれません。


[791] 旅先なので、 投稿者:じゅうばこ 投稿日:2004/06/12(Sat) 01:35

かもめさん

あんまり長く書けないのですが、たしか「イーリアス」では、父母(お母さん生きてる)がそろってヘクトルをひきとめるんですよね、もう、ものすごく騒々しく。お母さんはたしか胸をはだけて「この乳房で乳を飲んだことを思い出して出て行かないでおくれ」とかって。それもそれで、何だかなあ(笑)。
あとはまた、帰ってから書きます。


[792] 帰ってきても忙しく、 投稿者:じゅうばこ 投稿日:2004/06/15(Tue) 12:04

かもめさん

なかなか映画の話ができません。

私が「トロイ」を見てうれしいのは、どういうか、監督も出演者も、とても「グラ」を大切にしてくれている気がするのですよ。「見たよー」「あそこいいと思ったよー」「ちょっとパクッたけどいいかなー」という感じで、びみょーにエールを送りながら、まったくちがった作品にきちんとしあげてくれている。アキレスもへクトルも、マキシマスを意識してるのは何となくわかるのに、もう、みごとにかぶってない。かぶるまいとして無理をしてもいない。まったく別の人格が、それぞれきちんとそこに存在している。あ、パリスがかぶらないのはもちろんですが(笑)。この人たちは皆本当に、「グラ」を勉強したんだなあ、好きなんだなあと、つくづく思う…妄想でしょうか?

で、ひとり言にはひとり言で…(笑)。

ヘクトルが、あの最後の決闘に出て行くのは、指揮官、守護者として無責任だ、アキレスなんか放っておけばいいのに、という意見も多いんですが、もともとまっとうなへクトルとしては、メネラオスをああいう形で殺してしまったことは、すごくショックで傷ついてトラウマなんだと思います。
その後、奮戦してアイアスも堂々と倒して、回りは(自分もちょっとは)忘れたかもしれないけど、絶対に彼の中では何かが崩壊してゆらいでる。そこを必死で維持してたのが、今度はアキレスとまちがえて少年を殺してしまった。これも後味悪い上に、相手を見間違えるなど、アキレスに言われるまでもなく、戦士としては軽率だし失敗。弟を殺されまいとしてあれだけのことした彼には、こんな幼い、そしてアキレスに代わって闘おうとしてくるほど強い結びつきの子を殺されたアキレスの怒りもわかる。
とにかく、二回連続で大失敗したショックが拭えなくて、もうこれ以上戦い続ける自信がなくなった。精神的にあそこでもう彼は限界だったのじゃないでしょうか。だから、過度なぐらい誠実にアキレスに対応したのだと思います。そうしなければ彼自身が内部から崩壊したんじゃないかしら。
それだって、もともとは(メネラオスを殺させた)パリスのせいなんだけど。あー、やっぱりパリスってば偉大ですね。つっくづく。

船の上のどつきあいですが、横目で見ていた部下たちは、「あ、またやってる」か「お、珍しい。でもたまには言ってやった方が」のどっちだったのでしょう?(笑)


[794] では私も 投稿者:じゅうばこ 投稿日:2004/06/18(Fri) 17:12

かもめさん

お言葉に甘えて。(でもいいんでしょうか、こんなとこで、二人で盛り上がっていても。笑)

かもめさんが怒った「グラ」との類似、私は皆「きゃー、きゃー」ともだえて喜んでましたから世話はないなあ。

「ラストサムライ」のあそこは「グラ」よりも「仮面の男」を連想しました。なんか、そう思ったら、こういう映画って、皆あちこち似てるような。

ヘクトルも受け身キャラですよね。マキシマスとかぶる。なのに、絶対どこかちがう。ここがとっても面白いです。苦労させられるバカな相手が、パリスとコモドゥスってちがいも関係あるのかな。

私はとてもかもめさんほどヘクトル観察してませんが、ほんとにメインで映ってない時の彼の表情、あきませんよね。この前見た時は、トロイに帰って父上と抱擁したあと、下がって階段の下にいて、入れかわりにパリスがヘレンを紹介してる間の顔にウケました。
この時パリスも父親の反応を気にして必死の表情で「スパルタのヘレンじゃなくて、トロイのヘレンです」なんて言ってるのですが、その時のへクトルの目がもう(笑)。「すみませんっ、父上」やら「あー、何か言ってやりたいけど、かえってまずいだろうし」やら「それにつけてもうちの弟どうしてもう」やら「ヘレンもヘレンだが、ひどい目にあったらかわいそうかも」やら、万感の思いがこもってました。もうちょっとやりすぎると、やりすぎになるぞという、ぎりぎりのところで止めてる、このナイーブな表情って、ラッセルもヒュー・ジャックマンも共通してるような気がする。オーストラリアの俳優さんのワザだろうか。

ちなみに英国の俳優さんは、感情豊かに表現しても表情そのものはほとんど動かさない気がします。コリン・ファース(だっけ)とか。
それで言うと、ブラッド・ピットも一見無表情のようで、けっこう感情表現していて、「あれ?うまいやん」と思うこともあるのですが、これは英国俳優とはまた別なような。

エリック・バナはコメディもやってた人らしいですね。「トロイ」では、その片鱗も見せないのがすごいですが、あの演技の奥の深い柔かさは、そういう経験の持つ豊かさなんかなあとも思いました。


ふつーのかわいい奥さんですよね。 投稿者:じゅうばこ  投稿日: 6月15日(火)23時19分53秒

あのヘレン。そこが私には逆にちょっと新鮮で。
もう、Kumikoさんから見れば、思いっきりこれ以上ない不毛な疑問でしょうけど、最近「プルーフ・オブ・ライフ」のアリスの気持を理解してみようかという、そのくらいならもっと他に人生することがあるだろうと言われそうな気分になっているのです(別に人妻を誘惑しようとしてるのじゃありません)。
そこでふと、あのヘレンは何が不満でパリスにのこのこくっついて行ったんだとか。アリスはどういう心境で旦那のもとにとどまったんだとか。
いや、人妻だから浮気だからって、ひとくくりにしてはいけないのですが。
「プルーフ・オブ・ライフ」は、ラッセルの作品の中では、私にはものすごく最高に感情移入がむずかしい映画です。まだしも「ヘヴンズ」や「スポッツウッド」の方が理解できる。 なので、もともとわからないものを、わからないものと重ねて考えているとますますわからなくなって、頭の中が木馬状態(意味不明)です。テリーとパリスの格のちがいはそりゃわかりますが、アリスとヘレンのちがいはそうもないような。あるような。
そんなのどうでもいいっ!!というKumikoさんの叫びが聞こえて来そうです。む、虫して下さい。

あ、しかし唐突ですが、メグ・ライアンならヘレンやれたかな…(ああ、墓穴を掘ってる)。


その昔 投稿者:じゅうばこ  投稿日: 6月25日(金)14時22分53秒

忙しくて死にそうなのを「虎が背中におおいかぶさってる」と、この掲示板で表現していて、阪神ファンの方から??とけげんがられて恐縮した記憶がありますが(ネタはもちろん「グラディエーター」)最近はそれに加えて、「背中には虎、足にはバカな弟がしがみつき、城壁は壊れそうで、外から誰かが大声で『出てこーい!』と名前呼んでる」状況と皆に言って回ってる私です。
なのに、そんな中で書いてしまうのですが、Kumikoさんの「日記」で「めぐりあう時間たち」のお話があって、それそれ、と膝をたたいてしまいました。
実は明日、あるとこで、「男女参画」についてのお話をしなくてはならないはめになり、苦しまぎれに考えたのが、「『赤毛のアン』の秘密」という本(必ずしも内容に賛成じゃないのですが)と、赤毛のアン、ベルイマンの「ある結婚の風景」、それに「めぐりあう時間たち」とバージニア・ウルフをごったまぜにして、「ともかく、男でも女でも、結婚するでもしないでも、生き方の選択がふえることって、すごく助かるんじゃないだろうか」ということだけ言おうかと思ってるところです。
時間がないので(なら書くなと言われそうですが)よくわからない書き方になりますが、私、「マスター&コマンダー」、そんなにきちんと読んでないので、ダイアナのことはよくわかってないかもしれません。でも、生き方のモデルがなく自由もない時、人ははた目から見たらわけのわからんことをするしかない、というのは、すごく理解できます。
いや、ヘレンもアリスもその延長線上にいる、とまで言うつもりはないけれど(笑)。
自分が使おうと思ってたと同じ題材とことばを、もろ、まんま、「日記」の中で見つけたもので、つい喜んでしまって、すみません。


[798] あ、そうそう 投稿者:じゅうばこ 投稿日:2004/06/25(Fri) 12:41

かもめさん

ほらほらもう時間がないのに、私はもう。でも、少しだけ(笑)。

「無駄な抵抗」はいいですね。よくわかります。
マキシマスなら、もっと前に「やめた!」となるでしょう。
たいそう乱暴なのですが、私は「トロイ」の映画では、へクトルだけでなくアキレスもマキシマスとかぶったりします。

私もはいずってくるパリスの方に数歩踏み出すお兄さんを見るたびにおかしいやら同情するやら。

かもめさんを泣かしたくていうわけじゃないけど、時々へクトルは「自分が死なないと弟は一人前にならない」とか「自分が死なないとアキレスは本当に醜いケモノになってしまう」とか思って出て行ってるような気がします。そういう例えは似合わないけど、お釈迦さまに「食べて下さい」と言ってたき火の中に飛び込んだうさちゃんみたいで、ほんとにかわいい=かわいそう。


[287] いーえ、もう大歓迎です。じゃんじゃん書いて下さいませ(笑) 投稿者:じゅうばこ 投稿日:2004/06/22(Tue) 00:16

◇ハルさん。
「三幅対」読んでいただいて感謝しております。しかし、映画の中で、アキレスたちに比べてトロイ組の描写は薄かったですかねー、けっこうあったような気もしたのですが、私の幻想だったかも(笑)。あのお出迎え場面の幸福感があまりにも見事だったせいかもしれません。
ブリセイスは明日あたり、おやじギャル風になりますので笑ってやって下さい。(怒って、羊の肉かじりながら酒をあおってます。いいんでしょうか、こんなことして。)

アキレスとブリセイスの恋は私にはとてもよくわかるのですが、ええっと、「三幅対」は前日談でごまかそうとしてたのですが、どうしよう?考えておきますね。
またどうぞ、いくらでも感想をお寄せ下さい。なかなか書きすすめられないかもしれませんが。


[291] この映画そのものが好きという方が案外少なくて、 投稿者:じゅうばこ 投稿日:2004/06/24(Thu) 11:32

◇ハルさん。
ちょっと不思議な気がしています。俳優さんたちがそれぞれに目立ちすぎるのでしょうか。意表をついたという点も含めて(笑)。私は見れば見るほど、評判の悪い音楽も大変いいと思いますし、脚本はマジでアカデミー賞ものだと思っています。
(1)「女のための戦争」という今どき大変むずかしい題材を逆手にとって、フェミニズムとかジェンダーから見ても画期的な作品にした。
(2)今日的な戦争と平和の問題を鮮烈に訴えながら、人類や人間に関する普遍的な寓話としても充分通用する骨太さを持つ。
(3)それほど斬新で画期的なことをやりながら、正統派に見せかけているので、誰もそんなにすごい冒険をしていることに気づかない(笑)。(なので、受けた衝撃が「脚本が下手」「ドラマがない」「中途半端」などの感想になってしまう。)

私は、この(3)のような作品って個人的にもう好きで好きで、いとしくてたまらなくなるのですねー。普通人の顔して異常で、すごい能力あるのにひかえめで。理想なのです、真似できないですが。

私も、ここまで金かけて人つかって反戦映画作っていいのかと唖然としています。監督はマイケル・ムーアといい勝負の知能犯ですね。
激しい戦闘の場面に断固として悲しい音楽が流れつづけ、人間の愚かさを謳いあげる、あの厳しい姿勢は私には鳥肌ものでした。絶対にどちらの側にも誰にも感情移入をさせない。これは、擬似戦闘に参加してスカッとしたり、たっぷり泣いたりしたかった人には、ほんとに許しがたかったでしょうね。

(2)の「普遍的な課題」なんてえらそうに書きましたが、要するに私の中にもパリスが常にいるなあということです。
それやったら仕事がこける、人間関係も危うい、ちょっと冷静に考えたら、まともな人間ならしない、と思うことを、「でも好きだもん!」で何度、買ったり、行ったり、観たり、飼ったり、してしまったことか。何度、自分の中のへクトルが「もう今度こそはだめ、城壁もたない、今度は勝てない」とため息ついたことか。

そのたびに思ったのは、「でも、たとえすべてを失っても、こういうことをしなかったら、生きてる意味がない。私の力も消える。これがあって、これを守ることで私は強くなるはず。守りぬいてみせる」でした。
そういう風にも見られる映画です(笑)。

アキレスについては、「あの恋はわかっている」と豪語したのですが、考えていると、ちょっと不明なところもあります。
アキレス、変化してますよね。それはわかるのですが、あの「名を残す」と「つかの間の輝きが人間のすべて」の関係が、兼ね合いがわからない。途中で変わるんでしょうか?ブラッド・ピットは困りますねー、演技なのか地なのか、うまいのか下手なのかわからなくて、総体としてはすごく納得させるので。

へクトルはそれはもう気の毒です。何とか気の毒でなく書こうと思えば思うほど、更に気の毒になっていくのがすごい。もう、しかたがないですね、こういう人は。これでいいんでしょう。

どーでも、ほんとにいいことですが、神官長の名前がわからなかったんですよ。パンフレットにも公式サイトにも全員のキャストがなくて。
それで昨日確認しに行ったら、アルケプトレモスですとさ。覚えられそうになくて、呪文みたいに唱えながら帰って「イーリアス」の本見たら、ヘクトルの御者の名前みたい。いつ神官長に出世したの(笑)。

「四月」と「五月」も少しづつ書いて行きますので、またどうぞご感想などお知らせ下さい。
「五月」の中で、ブリセイスとの恋も描けるといいのですが、難しいかなあ。

◇昨夜「映画『トロイ』」でヤフーの検索していたら、項目がまたずいぶん増えていて、同人誌系のサイトや掲示板もあって、のぞいていたらもう…インターネットカフェにいたのですが、ブースの中で声を殺してのたうち回って大笑いしました。いやいや楽しかったです。パトロクロスもちゃんとマークしておられる方がいらっしゃるようで安心?しました。アキレスの「おまえが気になって戦えない」のせりふに「同人誌か!?」と飛び上がっておられたり、「ペーターゼン監督、あんたは同人誌発行したら売れる」とか評しておられる文章で、もう笑いがとまらなくなり、テントの外のアキレスもどきに、しばらく手で顔おおってました。
パリスの「愛してる?」もそうですが、監督がこういう効果をねらったとは思いませんが、もともと古典や文学は、そういう話や局面ばっかりなんですったらさ。そういう点でも何だか妙に愉快でしたけど。古典っておいしいですぜお客さんみたいな気分で。

しかし、そういう楽しいサイトの数々を見ると(私は女性の裸の写真が平気でまっぴるまから週刊誌で店頭に並んでる国で、へクトルとアキレスのベッドシーンのイラストを描いて楽しむぐらいまことに健全、ちっとも驚くことじゃないと思って、むしろ応援しますけど)、私の「三幅対」の特に「五月のピティア」など、「同人誌か!」とあきれられてもしかたがないなあ、この分では。まあ、いいけど。そうしか描きようがないだろ、あんな関係。

◇あ、城壁がこわれそう。今日は「トロイ戦争はおこらない」の紹介、また無理かもしれません。


[293] ん?ちょっとパソコンの調子がおかしいかな? 投稿者:じゅうばこ 投稿日:2004/06/25(Fri) 20:56

◇さっきウィルススキャンは異常なしだったのですが…。 時々、サーバが変になるので、いきなり消えても驚かないで下さいませ、皆さま。 必要な記事は保存しておいていただけると助かります(笑)。

◇さて、予告しつづけでは鮮度が落ちるので、そろそろ「トロイ戦争は起こらない」をアップします。しかしいかんなあ。2ちゃんねるの文体がうつりそうでヒヤヒヤしてたところにもってきて、先日から笑いながら楽しんでる同人誌関係のサイトの口調もうつりそう。いいけど別に。まあ、ゆうべと今日と会議の議事録ばっか読んでたからそっちの文体も入ってるだろうから大丈夫…でもないか。

◇「トロイ戦争は起こらない」は、第二次大戦直前のフランスでジロドゥが書いた一応反戦劇で、そういう意味でも今読むと身につまされ、心がひきしまる。だから何といおうか、「トロイ」の話はカコニヤス監督の「トロイアの女」もそうだけど、その原作となったエウリピデスのギリシャ古典劇もそうだけど、そもそもが反戦劇になる伝統が正統なんですよ、どっちかっていうと。だから、好みに合わなくて怒るのは自由だけど、「この(典型的戦争物の)題材をこんな(物悲しい反戦劇風の)料理のしかたして」みたいに批判する人がいたら、それはちょっとちがうんじゃないかなあ。「妙に近代的に反戦思想盛り込んで」というのもあたってない。アリストファネスの「女の平和」もそうだけど、戦争が起こった時から反戦も存在したので、それが近現代の産物と思ってしまうこと自体、古典をなめてますよ。今あるもののほとんどは三千年前にもあったんだって(私もだんだん過激になるなあ)。

要するに、ペーターゼン監督の「トロイ」の作り方は、新しいものを盛り込みながらも、ものすごく伝統をふまえて、まっとうです。だいたい「平家物語」もそうだけど、戦争扱った叙事詩が反戦風にならなかったらそもそも変なんだよね。
私は昔、子どもの本で「曽我兄弟」や「太閤記」読んで、妙に「戦争はいやよね」みたいな語りが長く入るんで、「これきっと子ども向きに直してるんだ」と思って、自分子どもでしたがちょっとイヤな気がしたんですが、大人になって原典読んだら、全部あるんですよ、そういう「戦いは空しい、いや」みたいなせりふ、「曽我」にも「太閤記」にも。あー、私は子どもだったと反省しました。ほんとにもう、古典をなめちゃいけない。

◇あちこちのサイトをのぞいても、「トロイ」の話題にこの「トロイ戦争は起こらない」があんまり登場しないのが不思議です。たまに出てると、「むずかしい、抽象的な近代劇」みたいに言われてる。
そりゃまあね。冒頭いきなりアンドロマケとカッサンドラが「戦争が近づいている。世の中が肯定形にみちあふれてるから」などと、わけのわからんこと長々話してくれますから、誰でもちょっとはひるみますけど。でもクライマックスはジロドゥさん、あんた真剣に書いてるんですかサービスですか、それともやけなんですかと言いたいぐらい笑えます。それを特に映画のあの俳優のめんめんで空想すると。


[294] 「トロイ戦争は起こらない」続けます。 投稿者:じゅうばこ 投稿日:2004/06/25(Fri) 21:30

◇大変残念なんですが、これは戦争直前のトロイを舞台にしてるので、アキレスは登場しません。でもプリアモス、へクトル、ヘレン、アンドロマケ、パリス、オデュセウスはしっかり登場しています。ただしプリアモスはまるで魅力なし。戦争好きのじいさんで、キャラとしてもぱっとしません。

へクトルはまじめな軍人でよき夫、平和のために奔走する作者の代弁者です。私は映画の途中から、このへクトルはあの劇からかなり性格とってるんじゃないかと思って見ていました。そのくらい重なっています。
だけど、やたらと評判のいいエリック・バナを批判するのに、「こんないい役だったら、誰がやったってあのくらいカッコよくなる」という意見が最近出てきてるけど、それだけは絶対ちがう。あんな非の打ち所ない役こそ、相当うまい人がやっても絶対にこけます。
私がそう思うのは、ずっと前にテレビでこの劇の上演を見た時、へクトル役の人が下手じゃないんだけど、もう何ていうのか、優等生でちゃんとしたことしか言わない人だから、すごくつまらないんですよ。中学校の先生みたいに見えて、まったく魅力なかった。ただただひたすら「面白くない」「うざい」男に見えてしまうのです。
映画のへクトルもそうなった可能性が大きい。それをあれだけ、変に暗いところや弱いところを全然見せないまま、優等生としてカッコよく演じきったのは俳優の手柄で能力です。奇跡に近い。アカデミー賞を彼にやらなかったら私は審査員を軽蔑しますよ。
もう一つ言うと…でも長くなるから次いこう。

アンドロマケはまだ妊娠中です。原典だとトロイ戦争は十年かかったことになってるから。この役も健全でまっとうなイメージは映画と共通ですが、映画の方がひかえめな女性で、私はどっちも好きですが映画の彼女はとてもすばらしかったので、やはりそっちかなあ。でも、劇の彼女もいいです。

パリスとヘレンはこの劇の方がどっちも「かわいくありません」。ヘレンは一見バカですが、内面に暗いものを秘めている。パリスは図々しくて無責任な若者で、でもま、これはこれで楽しいです。実は映画を見るまでは、この劇のこの二人、私は大好きだったのですが、映画のあまりにも普通の女の子と男の子だった二人がとてもよくて、今はそっちの方がずっと好きです。

オデュセウスはこの劇ではへクトルよりかなり年上かもしれません。重厚で、したたかで、意地悪で、現実主義者で、多分作者のもう一人の分身でしょう。


[295] 「トロイ戦争は起こらない」3にしとこか。 投稿者:じゅうばこ 投稿日:2004/06/25(Fri) 22:01

◇細かい設定はもちろん映画とちがってて、へクトルが戦争から(これでもう平和になる、と思って)帰ってきたら、パリスがヘレンを連れてきていて、ギリシャは返せと言ってきていて、でもプリアモスはじめ街の老人や詩人たちはヘレンに夢中になっていて、返さない、戦争も辞さないと言っている(あんまり映画とちがわないか)。そこでへクトルはアンドロマケたちと協力して、何とかパリスとヘレンを説得し、彼女を帰らせることになります。

だけどそこにギリシャの使者としてオデュセウスが到着。彼はヘレンを口実にむしろ戦争をしたがっているギリシャ(映画と変わらんじゃないか)を代表して、「ヘレンを返す、戦争はなしだ」と言うヘクトルに対し、「王妃の貞操が傷つけられていたら、受け取るわけにはいかない」と難癖をつけます。へクトルもあとにひかず、「パリスは王妃に指一本ふれていません」と主張するのです(笑)。オデュセウスは「ほー、そうですか」と言って、外交的手段を発揮し…あとは原文(笑)。

(なお、劇の原文はフランス語なので、エクトール=へクトル、エレーヌ=ヘレン、ユリッス=オデュセウスです。
オイアックスはギリシャ方の乱暴者で、映画にも原典にも登場しませんが、映画のアイアスのイメージぐらいでいいのではないかと。)

ユリッス・ユリッスです。
プリアム・こちらがアンシーズです。そのうしろに控えているのが、トラキアと、ポントスと、あちらにタウリケです。
ユリッス・外交交渉にたくさんの人ですな。
プリアモス・こちらがエレーヌ。
ユリッス・ご機嫌よう、王妃さま。
エレーヌ・あたしはここへ来て若返ったのよ、ユリッス。あたしはただの王女ですわ。
プリアム・お話をうかがいましょう。
オイアックス・ユリッス、おまえはプリアムに話せ、おれはエクトールに話す。
ユリッス・プリアム、わたくしはエレーヌを返していただきにまいりました。
オイアックス・わかるだろう、エクトール?このまますますわけにはいかなかったんだ!
ユリッス・ギリシャとメネラスは復讐せよと叫んでおります。
オイアックス・女房を取られた亭主が復讐を叫ばなかったら、あとに何が残るんだ?
ユリッス・エレーヌをただちに返していただきたい。さもないと戦争ですぞ。
オイアックス・別れの時間くらい大目に見るがね。
エクトール・それだけですか?
ユリッス・それだけです。
オイアックス・簡単なもんだろう、エクトール?
エクトール・では、エレーヌを返せば、平和を保障してくれるんですな。
オイアックス・平和と平穏をね。
エクトール・エレーヌがすぐに乗船すれば、事件は決着ですな。
オイアックス・解決だ。
エクトール・どうやら話はつきそうだね、エレーヌ?
エレーヌ・ええ、そう思うわ。(続く)

(あの、ひょっと本を買おうかとお思いの方。今は出版されてないと思います。ジロドゥの全集には入ってますが、私は古い世界文学全集からのコピーを使ってます。こちらの方がクライマックスにエロティックな描写が少しだけ多いんですよ。もとにしたテキストのちがいなんだろうけど。)


[302] あー、皆さまどうかもう気になさらないで(笑)。 投稿者:じゅうばこ 投稿日:2004/06/27(Sun) 23:51

◇ハルさん
「トロイ戦争は終わらない」、まだまだ続くので、お楽しみに。
「トロイ」の映画ですが、見直すたびに完璧に思えてくる自分がとっても恐いです(笑)。

◇「トロイ」の同人誌熱はすごいですね。これはやはり映画の底力だと私は思っています。書かれている皆さんの熱気はいろいろ大変参考になります。もう少々のポルノでも猟奇的な作品でもほおづえついて斜め読みするほどすれてしまってる私としては、なんか悪いことしてるようにこそこそ読む楽しさを久しぶりに味わって、「これこそ文学」と快感を感じています(笑)。この分野についてどう考えるか書き出すときりがないけど、文学史的にもとても重要な分野だと感じています。もちろんまだ、何も知らないのですけど。

あ、また長くなりそうなので。明日も書類書きで一日つぶれそうですが、「三幅対」少しでも書き込みたいです。
ちなみに、こういうの書く時、映画で評判の悪い人、人気のない人の方が書きやすいんですよね。と思ってブリセイスもメネラオスも気軽に書いてたのですが、案外人気があったらどうしよう。

きゃ、もうこんな時間ですね。また明日に。


[304] 「トロイ戦争は起こらない」の紹介、4でーす。 投稿者:じゅうばこ 投稿日:2004/06/28(Mon) 18:09

〔295〕からの続き。

ユリッス=オデュセウス、エレーヌ=ヘレン、エクトール=へクトール、です。あれ?オイアックスって、アイアスなんだろうか?すみません、わかりません。

ユリッス・エレーヌを返すというんじゃないでしょうな?
エクトール・返すんです。もう用意はできています。
オイアックス・いつでも、荷物は帰りには出かけるときより多いもんだ。 オイアックス・一人の女がいなくなって、一人の女がもどって来た。ちょうどもともとだ。これでいいんだ!なあ、ユリッス。
ユリッス・ちょっと待った!わたしは何も保証しませんよ。われわれが復讐をやめるためには、復讐の口実がなくならなければなりますまい。エレーヌが誘拐されたときと同じ状態で、メネラスの手に返らなければなりますまい。
エクトール・どこが違っているというんです?
ユリッス・スキャンダルが世界じゅうに広まってしまうと、夫は敏感になるもんですよ。パリスがエレーヌに手をふれなかったんでないといかんでしょう。ところがそうじゃないんだから…
群衆・そうだ!そのとおりだ!
誰かの声・ふれなかったとは言い切れない!
エクトール・もしそうでなかったら?
ユリッス・どういうつもりなんです、エクトール?
エクトール・パリスはエレーヌに指一本ふれなかった。二人ともわたしに打ち明けてくれたんです。
ユリッス・なんの話です、それは?
エクトール・ほんとうの話です、そうだね、エレーヌ?
エレーヌ・何も不思議なことはないでしょう?
誰かの声・そんなことがあるもんか!おれたちを侮辱するのか!
エクトール・笑うことはないでしょう、ユリッス。エレーヌが女の道に背いたとでもいう証拠でも見つかったんですか?
ユリッス・探そうとも思いませんよ。女のからだが汚れたって、鴨に水をかけたほどの痕も残らないんだから。
パリス・王妃に対して、何を言うんだ。
ユリッス・もちろん、王妃は例外としておきましょう…ところで、パリス、あなたはこの王妃を誘拐したとき、裸のままさらって来たんですね。あなただって水の中で鎧甲(よろいかぶと)をつけていたわけじゃないでしょうが、それでエレーヌに対してちっとも食指が動かなかったんですか?欲望が起こらなかったんですか?
パリス・王妃は裸でも気品に包まれている。
エレーヌ・その気品を脱がないでいればいいのよ。

(続きます)

◇しかしもう、これで反戦劇かねえ。そしてやっぱり昔だから、今読むと、ちょっと女の人をバカにしてるかも。そこは目をつぶってあげて下さい。
パリスもエレーヌもこの劇では、ちゃらんぽらんな若者ですが、エクトールの懸命な平和を願う努力にちょっと敬服して、一応協力しなきゃとは思ってるわけなんですが、相手がオデュセウスですからねえ。
あの映画の顔ぶれで想像すると、それはそれでまた、いろいろ笑えてしまうのですが。


[305] あ、そうか、ちゃんとお返事してなかった。 投稿者:じゅうばこ 投稿日:2004/06/28(Mon) 23:35

◇今日の仕事だった書類は何とか書き上げてインターネットカフェにしけこんでいます。

◇ハルさん。
うん、私の回りにも、この映画大好きという人はいません。というより、周囲は今やたら忙しい人ばかりで誰も映画を見に行くひまがないようで、「いい男がいっぱい脱いでくれて目の保養になりますよー」とか宣伝しても「あなたも元気ねえ」と言われるぐらいが関の山。
でも、もしこの映画がめちゃくちゃヒットして評判がよかったら、私は安心して感想も小説も書いたりしなかったと思うので、まあこのくらいのヒットでよかったのかな。好きな人には深く愛されてるみたいですしね。

アルケプトレモスって、恐竜の名前みたようですね(笑)。この人を見る時のヘクトルのいやそうな顔と、アガメムノンに対する時のアキレスの(お互いの)しらけた顔は何度見ても笑えます。ちなみに私は自分の外見とか能力とかいっさい無視して、どの役がやりたいかと言えば、文句なくアガメムノンですね。あの人、よく見ると、すごく立派な王様で、皆がついて行くの、よくわかります。

ブリセイスとアキレスの恋は、小説に書けるかどうかはともかく、一度きちんと整理してお話しますね、ここで。そ、そ、そ、その内にってことにしておいて下さい。

◇ガブリエルさん。
「仮面の男」のガブリエル・バーンにもはまってたことがありますので、お名前書く時どきどきします(笑)。

ブラッド・ピットって、ものすごく不思議な俳優ですよね。カリスマ性を感じます。どんな役でもこなすというのではありませんが、はまった時の輝きがすごい。アキレスは、彼のためにもですが、あの世のアキレス本人(いるのか?)のためにも、ほんとによかったと言える役じゃないかなあ。 私、「ジョー・ブラックをよろしく」の時も、「あれ?死神の時と人間の時と、確実に目の表情とか変えてるな」と気づいて、この人をなめてはいかんと思いました(笑)。

◇ついでに言っちゃうと私はオーランド・ブルームって、「指輪物語」のエルフの時は「ああ、きれいな子だなあ。人気出るだろうなあ」と思って見てたのですが、何だかどこかで、この人、ほんとはこういう人(無敵のクールなたのもしいエルフ)じゃないだろうなあ、とずっと感じてたし、「パイレーツ」の時は、これが地なのかもしれないけど、いい人すぎて迫力ないなあと思ってました。今回のパリスは一番彼らしくて、しかも彼らしくなくて(演技してると、いい意味で感じさせて)見てて快かったです。


[308] ものすごい量なので、ぼちぼちどうぞ。 投稿者:じゅうばこ 投稿日:2004/06/29(Tue) 19:53

◇ガブリエルさん。
「グラ」のファンフィクションは、自分でもまあよくもここまで狂ったと思うほどの大量で、どうか一気に読もうなんて気を起こされず、くれぐれもぼちぼちと(笑)。 ご感想は、はい、あそこのメールアドレスで私に転送していただけます。この掲示板に書かれてもいいですし、どちらでもかまいません。
あの映画を好きでいて下さって、ほんとにうれしいです。

ブラッド・ピットの映画ではなぜか「デビル」が好きでした。彼はちがう世界から来た魅力ある侵入者、というのがとてもいいなあと痛感しました。それも、侵入された側からの視点で見るのがいいんですよねー。だから「セブン・イヤーズ・イン・チベット」はあまりのれませんでした。「トロイ」では、アポロ神殿で、へクトルの前にちらちらしながら奥に入っていったり、闇の中から出てきたり、あの感じが最高です。「何?こいつ誰?」と目をこらして見つめる視線の先にいるのがすごく似合う人ですね。

私もオーランドーのパリスは見るたびに好きになります。
翻訳が正しいのかどうかわからないのですけど、「夜中に人妻を誘拐しおってからに」とメネラオスに言われて「昼間です」と返事してるところなどもう最高。この直後メネラオスが剣を抜いて兄さん二人が制しあう緊迫した場面ですが、私は笑いをこらえるのが苦しい。
もう一つは絶体絶命で地面に倒れてる時にメネラオスから、「カラスが王子を味わいたがってる」とか言われて、律儀に思わず空を見上げてるのが、もう笑いがとまりません。見るなよ、もう、そんなとこで、と思われませんでした?

あの前後のアガメムノンもすごく好きです。
「プリンス、プリンス」と呼びかけておきながら、へクトルに「5万の兵が一人の欲のために」と喝破されると(私はここのへクトルが一番好きです。笑)、いきなり「ボーイ」に切り替えちゃうあたりももう何とも。

今夜中に「三幅対」の「四月」を上げてしまいたいのですが、ちょっと無理かなあ。メネラオスとヘレンをカッコよく描くという世紀の難事業に挑戦中なのですが(笑)。


[800] おとめとうさちゃん 投稿者:じゅうばこ 投稿日:2004/06/30(Wed) 23:52

…って、いいかげんにしないとサイトの性格ちがってきそうですが。

あそこはほんとに、荒ぶる神へのいけにえですね。よくあそこで、帰って行くアキレスに何で矢の一つも射かけないんだ、と言われるんですが、あれは兵士たちも国民も、亡くなった司令官の命令をまだきいてるんだと思って、それはそれで切ないです。「こういうようになることまで、きっとわかった上でなさったことにちがいない」とか思って、勝手な行動つつしんでしまってるのかと。

アキレスとマキシマスが何で似てると思うのか自分でもわかりません。
すぐ故郷に帰りたがるとこかなあ?(笑)


はじめまして 投稿者:じゅうばこ  投稿日: 7月 2日(金)11時04分6秒

「トロイ」の映画がとても好きなので、こちらの掲示板も時々拝見していました。
私のいいかげんな感想を読んでいただいて(ブラッド・ピットさんにも失礼なこと書いてたりしてたような?)冷や汗です。でもうれしいです。

あまり考えないでだらだら書くもので、すごく長い文章になってるから、要約がむずかしいと思うんですよー。なすさんはほんとによくまとめて下さってますが。
それとM170さんが言っておられる、一人でふてくされるしかないアキレスの場面、すごく同感です。食べ物の残骸やら汚れたカップやら何やらが散らばる中でぼうっとしてるあの朝の場面のアキレスは悲しくてけなげで、昔昔、今の皇后が皇太子妃の頃、皇太子と知り合った時のことを語ったせりふじゃないけど(古いなあ)、「こんなにお淋しい方がこの世にいるだろうか」と思いました。

あの前の夜にブリセイスに「私を守るために人を殺さなくていい!」と言われて、自分のたったひとつの得意なことができなくなっちゃってるんですよね。それで「どうしよう?」「そういえば自分何のために戦うんだろ?」と一晩考えたのかと思うとかわいくてかわいそうでたまりません。あげくに、「パトロクロスに何のために戦うか教えなくちゃ」と責任感じて、自分もまだよくわかってないことを教えようとするなんて何ていじらしい人なんでしょう。

ブリセイスとヘクトルが「何しに来た?」「何で武器持ってない神官殺した?」って同じこと聞くんですよね。無意識の連携プレー、時間差攻撃(笑)。
でも、アキレスはバカみたいに見えて(す、すみません)、絶対にバカじゃないので、こういう問いかけにちゃんと誠実に反応する。その結果、一人で一晩考えてしまうんだと思うと、もうほんとに…それで「よくわからない人」なんて(映画の観客から)言われてるなんて、かわいそうすぎる。

初めてお邪魔したのに長々書いてしまってすみません。
仕事が今ばたばたしていて、なかなかお話には来れないと思いますが、どうぞよろしくお願いします。


[309] 「トロイ戦争は起こらない」紹介の5です。(長い…) 投稿者:じゅうばこ 投稿日:2004/06/30(Wed) 23:20

〔304〕からの続き。

ユリッス(オデュセウス)・帰りは何日かかりました?わたしの船で三日かかりました。あなたがたの船より早いんですがね。
数人の声・無礼千万な、トロイの海軍を侮辱する気か!
誰かの声・風が速かったんだ!船じゃないぞ!
ユリッス・では、三日としておきましょう。王妃はどこにいたんです、その三日のあいだ?
パリス・デッキに寝ていたよ。
ユリッス・で、パリスは?トップにでもいたんですか?
エレ―ヌ(ヘレン)・あたしのそばに寝ていましたわ。
ユリッス・本でも読んでいたんですか、あなたのそばで?鯛でも釣っていたんですか?
エレーヌ・ときどき、団扇であおいでくれましたわ。
ユリッス・一度もあなたに触れないで?…
エレーヌ・ある日、二日目に、あたしの手に接吻しましたわ。
ユリッス・手だって!わかった、いよいよ本性を現わしたな。
エレーヌ・あたし、気がつかないふりをした方がいいと思ったの。
ユリッス・ローリングで、からだがぶつかるようなことはありませんでしたか?…船がローリングすると言ったって、トロイの海軍を侮辱することにはならんと思いますが…
誰かの声・ギリシャの船がピッチングするほどローリングはしないぞ。
オイアックス(アイアス?)・ピッチングだって、ギリシャの船が!ピッチングしているように見えたら、そいつは舳(へさき)が上がっていて、艫(とも)に凹みがつけてあるからだ…
誰かの声・そうだ!大きな面をしやがって、尻はぺちゃんこだ。いかにもギリシャらしいや…
ユリッス・それから三晩は?あなたがた二人の上に、星が三度表われて消えたんですよ。エレーヌ、この三晩のことは、何もおぼえていないんですか?
エレーヌ・そう…そう!忘れてたわ!とてもすてきな星の話。
ユリッス・あなたが眠っているあいだに、ことによったら…あなたを…
エレーヌ・あたし、蝿がとまっても目が覚めるの…
エクトール(へクトル)・なんなら二人に誓わせてもいい、あなたがたの女神アフロディットにかけて。
ユリッス・勘弁しておきましょう。アフロディットなら、よくわかっています。にせの誓いが十八番(おはこ)と来てる…妙な話ですな。トロイ人についてギリシャで考えていたことがひっくりかえってしまいそうだ。
パリス・トロイ人をどう考えているんです、ギリシャでは?
ユリッス・われわれほど外交的手腕はないが、美男ぞろいで、抵抗できないほど魅力があると思っています。パリス、話をつづけてください。生理学上すこぶる興味のある発見だ。エレーヌがあなたの思いのままになるというのに、どういうわけで手を触れなかったんです?…
パリス・ぼくは…ぼくは愛していたんです。
エレーヌ・ユリッス、愛がどういうものかご存じなかったら、この問題に口出しをするのはおよしなさい。
ユリッス・エレーヌ、正直に言いなさい、トロイの男が不能者だと知っていたら、ついては来なかったろうと…
誰かの声・おれたちの恥だ!
誰かの声・あいつを黙らせろ。
誰かの声・きさまの女房をつれて来い、わからせてやらあ。
誰かの声・きさまの祖母さんでも!
ユリッス・わたしの言い方が悪かった。もしパリスが、美男のパリスが不能者だと知っていたら…
誰かの声・なんとか言わないのか、パリス?おれたちを世界じゅうの笑いものにしようっていうのか?
パリス・エクトール、おれの立場も察してくれよ!
エクトール・もうしばらくの辛抱だ…さようなら、エレーヌ。あなたの操の正しさが世間の評判になりますように。あやうくはすっぱ女という評判を立てられるところでしたが…
エレーヌ・心配なんかしませんでしたわ。後世はかならず正しい評価をするものですから。
ユリッス・不能者パリス、結構なあだ名ですな!…エレーヌ、一度くらい接吻したって構いませんよ。
パリス・エクトール!
第一の水夫・艦長、あんな茶番を黙って我慢しているんですか?
エクトール・黙れ、ここで指図するのはおれだ!
水夫・指図の仕方が悪いや!おれたちパリスの部下は、もう我慢できないんだ。おれが言ってやらあ、大将がおまえの王妃に何をしたか!…
数人の声・そうだ、そうだ!言ってやれ!
水夫・パリスは兄貴の命令で犠牲になっているんだ。おれは甲板士官だった。何もかも見たんだぞ。
エクトール・おまえの目がどうかしていたんだ。

(続きます)

しかし、こうして見るとパリスって、昔からおちょくられる役なんですね。はあー(笑)。

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