「水の王子」通信(44)
どれも第三部「都には」のイラストです。第五部「村に」ではすっかり中年になって、くたびれてるけど、したたかにもなっているオオクニヌシの、まだ若々しい時の姿を妙に描きたくなって、描きました。
「村に」(9月末ごろ、電子書籍で発売)の恐ろしいところは、一応うまく行ってた村を破壊しそうになる力が、決して強力な外敵とかじゃなく、最初は村の誰もが簡単に倒してしまえそうな小さい弱い存在だったことです。主要メンバーの誰でもが、比較にもならないぐらい強い力を持っていたのに、なぜか誰もが放置してしまった。
中でも、この村の「私は長ではない。ここはそもそも村じゃない」と言い続けながら、事実上の皆のまとめ役だったオオクニヌシの行動(というか非行動)は、ある意味謎だし疑問だし、校正のために自分で自分の作品を何度も読み直していると、書いたときにはそんなつもりは全然なかったのですけど、何だか彼のことが、日本国憲法か民主主義か、そういったものに見えてきてしまいそうです。
彼の本心は、私にも彼自身にも多分わからないでしょう(笑)。かつて自らも軍の指揮官や都の王として、支配者や指導者の孤独や迷いを知っている二人の若者が、それぞれにオオクニヌシに惹かれ、彼を支えて助けようとしていますが、彼らもまた、どうやってそれができるのかはわからずに、もどかしさや不安にさいなまれているようです。
そういう点では第一部から第四部までがそうだったように、第五部「村に」もまた、ファンタジー文学なのに、ものすごく現代の課題そのものを描いてしまってると感じます。
そのオオクニヌシの原点は、第三部「都には」に、かなり詳しく書かれていて、いろんな手がかりがそこにあるような気がします。