「水の王子」通信(68)
ある時は幼い少女のよう、ある時は恋する乙女のよう、ある時は温かい母親のよう。
最も自分らしく生きるために、自分の一部を捨てなければならなかった人。
もうひとりのヒルコ、もう一人のイザナミ。
すべてを育てる優しさと、すべてを殺す激しさと。
彼女がめざした海を、背後に描いていて、ふと気づいたら神話でも彼女は海から来た女神でした。
「村に」の制作に協力してくれた、彼がいなかったら電子書籍は発売できなかったろう男性は、登場人物の中で、この女性が一番好きだそうで、先日旅行したときに、嬉野温泉の彼女を祀ったつつましく美しい神社に行ってみたそうです。彼女の使者はなまずということで、境内にはなまずさまも祀ってあり、暑い日だったので、たっぷり水をかけてあげたそうです。
日本神話の神様たちをいろいろ造型してしまったので、敬虔な方々から抗議されたり訴えたりされるんじゃないかと、ひそかにずっとびびっていました。特に、この女神は神話とは似ても似つかない姿にしてしまったし。
でも、こうやって描いていたら、いつの間にかうねる海と一体化しているかのような彼女の姿は、思ったより神話に近くなっていました。
彼女に限りませんが、日本全国いたるところに、登場人物と同じ名の神様を祀った大小さまざまの神社があります。聖地巡礼には事欠きません。それで神社に訪れる人が増えたら、それもいいかなと今は考えています。登場人物のひとりひとりが、今回のように、どこかで自分たちを、このとんでもないファンタジーから古来の由緒正しい伝説に結びつけ、おのおのの力で回帰させてくれるかもしれません。