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イシュトバーンと息子株(1)

これも、こんな状況下ではのどかすぎる話なので、お許しを。

しかしあれだなあ。「ホークス3軍はなぜ成功したのか?」って本は、別に宣伝担当じゃないけど、少なくとも牧原大成選手のファンは読むべきだな。(以下敬称略ね。)

この本では、育成制度を作った中心の人たちだけでなく、王とか根本とか往時の名選手や監督のこともていねいに描いているし、たとえば四国の独立リーグの構想にあたっては他チームのバレンタイン監督のこととか、宮崎キャンプの創設にあたっての巨人のオーナーや長嶋の協力的な態度とか、いろんな野球界の人のことも思いがけずによくわかる。筑後のグラウンドの芝を命がけで守って、うっかり踏み込んだ著者をどなりつけるような人や、千賀を発見して売り込んで、しかも千賀とは話したこともなく千賀は顔も知らないという名古屋のスポーツ品店主など、多くの無名の人のことも一流選手なみかそれ以上に詳しく紹介している。こういう人たちによってプロの世界は支えられているのかと、すごく広い世界が見えて来る。

その中で、むしろひかえめと言っていいぐらいな量で、でも魅力的に甲斐や牧原、石川、大竹、周東といった人気スターも紹介されているけれど、ただ読者かせぎに書くのではなく、それぞれが育成制度とどう関わる実例かという「資料」として紹介されているのが気持ちいい。

そうやって描かれる中で育成の創成期の苦労をリアルに長く語るのは、甲斐と牧原で、読み応えがあるし、書き手の力もこもっているけど、多分自然とこうなったんだと思うのよね、甲斐は育成で苦しんだり悲しんだりしながら、ひたすらに努力していい子でまっすぐで、愚痴をこぼさず(いや言ってるんだけど、なぜか愚痴に聞こえない)けなげで頼もしいのに引き換え、牧原は同じ苦労をして同じ努力をして同じ成功をしているのに、何だか恨みがましいしひねくれてるし、いじけてる(いや、そこがすごく魅力的)。

読んでいて大変満足できるのは、これがいろんなファンサイトやインタビューでかいまみえる二人の性格と完璧なぐらい一致することだ。私が牧原を覚えたのは、もちろんいい選手としてがんばってるのは何となく知っていたけど、何かのインタビューで上林と当時移籍して来て活躍して人気のあった西田とをライバル視していて、それも西田が女性にもててファンが多くて、その原因は外見もだがしゃべりがうまいからだとか、ものすごく気にして分析していて、何だか聞いてておかしかったからだ。

その後西田が故障してスタメンからはずれてあまり目立たなくなり、牧原はほっとしたか張り合いがなくなったかどっちだろうと思っていたら、今度は人気急上昇の周東を目の敵にして、好きなのか嫌いなのか判断がつかないようなかまい方というか、からまり方をしているから、本人も相手も大変だなあと、どっちにもそこはかとなく同情していた。

それがまた牧原は本当に努力と成果のわりには評価されないし注目されないし報われないのだよね、そう思って見ていると。もちろん評価も注目もされているけど、実績に比べて明らかに足りてない。何でだろ。どこか地味なのだろうか。そうでもないのに、わからない。
本人が明らかにそれを気にして不満にして「もっと注目されていい」と思っているのがわかるから、逆に皆目をそらしちゃうのだろうか。

どこの世界でも、こういう人はいるし、誰だってこういう気持ちは持っている。私はYou Tubeの画像で、まだ売り出し前の周東と栗原が、ベンチのかげから同期の上林のヒーローインタビューをうらやましそうに見ていて「いいなあ」「すごいなあ」「今、皆があそこに視線くぎづけなんやで」「おかしなことしゃべれんよなあ」と言い合っている映像が、絵になりすぎているのもあって、ああこういう気持ちなんだなあとずっと印象に残っている。二人はその後大ブレイクしたからめでたいが、皆がそうなるとは限らない。

私が牧原を見ていて、とっさに何となく思ったのは、「イシュトバーンみたいよね」ということだった。中島梓の「グイン・サーガ」を私はずっと読んでいたのだが、忙しい時期に入ってわりと初期で脱落し、いずれ完成してから一気読みしようと思っていたら著者が亡くなり、ショックもあって結局そのままになっている。私が読んだところまでではイシュトバーンは何となくやることすることすべてうまく行かなくて、それでいじけてひねくれて、とまでは行かなくても何となく、その気配は見えていた。こんなにカッコよくて有能なのに、受ける不運や不幸を、ちっともカッコよく処理しきれず、まっとうに悩んでひたすら不幸になってるのが、見ててイライラしてうざくて、中島さんこんなのが好みかいなと思ったりしていた。いるよなあ、でもこういうキャラ、エンターテインメントには往々にして、とか思ってもいたのだが、いざ考えるとイシュトバーンしか思いつかないのは、やっぱり中島さんは偉大だったのかも。

スター・ウォーズのアナキンも、実力のわりに評価されてないとしょっちゅうイラつき、師のせいにし、最後はダークサイドに堕ちる。このタイプはわりとそうもなるのだよね。エリートだった堕天使なんて、皆そうした存在の象徴なのかもしれない。

それを言うなら大竹だって、いいピッチングしてもしても援護点がもらえず勝てないという点では不遇だったし、でもそれで同情されていたし逆に注目もされていた。彼の経歴や大学野球との関わりのいろいろを知れたのも、この本の収穫だったが、それはさておき彼は決してイシュトバーンのようではない。

あー、朝からこんなこと長々書いてる暇はない。いったん切ってまた続けます。うっうっ、こんな世にもしょうのない内容を二回にわけて書くなんて。

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カツジ猫