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そら負けるわ

今朝、車飛ばして隣町の中間まで行って、「新聞記者」の映画を見て来ました。何せもう、朝の10時50分一回きりで、今朝は7時に起きたので、余裕♪と思っていたのですけど、ついつい猫に餌やったり風呂に入ったり、しょうもないことしていたものですから、出発したのはほとんど30分前。絶対間に合わないし、事故ってもばかばかしいから、出直すことにして他の映画でも見て帰ろうと思いながら、ゆるゆる走って、まあひょっとしたらと10分すぎにチケット売り場に着いたら、今予告編やってて、あと3分で始まりますとのこと。

あんたんとこのサイトでは、表示してある時間は絶対開始時刻ですとか書いてなかったかい?と、突っこんでるヒマはなく、ありがたいことなので、そのままチケット買って飛びこみました。けっこう客も入っていて、安心しました。私よく、ここの映画館では、たった一人で観ることがあるのです(笑)。

映画は骨太で正統派の真っ向勝負で、見ごたえがありました。いい俳優がいい演技してるけど、これはもう、役者なんか脇役で、描かれる事実がそのまま主役ですよね。内閣調査室が官邸とつるんで、デマを捏造し個人攻撃をしてるっていうことを、これだけ堂々と描いてるのはお見事。そりゃ首相とその周辺は激怒してつぶしにかかるでしょ。それに対抗するためにも、残り木曜までの4日間、皆さんぜひぜひ、早起きして見に行って下さい。

でもさあ…と、映画の評価とはまた別の、個人的ないらだちを今からぶちまけるとだね。
わかるんですよ、さっき言ったように、この映画の主役は、描き出される日本の暗部の事実なんだから。その邪魔にならないように、笑いもエンターテインメントも、すべて抑制して、正義と悪をきっちり色分けして、わかりやすくし、問題点をとにかく鮮明に出した、この意図は私にもわかるの。いまどき珍しいほどの、真面目さと緊張と正面からの訴えは、もちろん確信犯なんだと思う。それがまた、カッコいい。

だけどさあ…それでもさあ…。
いいの、わかってるのよ、せっかくの美男美女を主演に使いながら、内閣調査室の良心的なエリートはひたすら影が薄くて貧弱、熱血正義派の女性記者はひたすらもさっと鈍重。あれだけきれいなお二人が、あれだけその輝きも魅力も押し殺してリアルな演技に徹しているのは、ある意味あっぱれ、ある意味すごい。

それでもさあ…。
わかった上で言わせてもらうと、何でもう正義の味方(というか、ほとんどがそうなんだけど)が誰も彼も、こんなに朝から晩まで深刻で思いつめてて息切らしてんのよ。どうして皆、そんなに余裕なくって真正面からしかぶつからなくて、まともなのよ。そろいもそろって、デリケートで傷つきやすくてもろいのよ。そら負けるわ。権力にも大衆にもオウム真理教にもトランプにもアベにも。

実は、このところ、佐野洋子の文庫本「死ぬ気まんまん」や、森村桂の古い単行本「父のいる光景」とか読んでて、まあ二人ともそう好きでもないけど、ちゃんと尊敬も共感もする作家なんだけど、家族や幼年期のこと書いてるのを見て、あーもう、女流作家がこうなのか作家がこうなのか知らんけど、何でもうこんな変に不幸で恨みがましく感じやすくて傷つきやすいの、つきあえんわあ、もうほんと、と滅入るより先に腹立たしくなっていたのです。

そりゃ二人とも私なんかには想像もつかない苦労してるし、最期も苦しみぬいているし、強くて立派だから、こうなるのだろうというのはわかるけど、何でもうちょっと、どういうか、無神経に図々しく恥知らずに開き直ったりせんのかね。

それと似たものを感じました。だいたいクビになるとかたたかれるとか経歴がパアになるとか、それが何さ。家族に申し訳ないって、それが何さ。だいたい家族なんかどうなってもいいってなぜ思えないのさ。しょせんは他人でしょうが。
それがいやなら、せめてもっと悪だくらみしろよ。何を悩んでるのか、もっと自分の頭の中で価値観や欲望を比較検討して、問題点を整理しろよ。

状況しっかと分析して、したたかに演技もしろよ。相手に何考えてるかわからせるなよ。ばしっと何か言ってもしても、それだけじゃない背後を持てよ。正直すぎて、芸がなさすぎて、見ててひたすら疲れるんだよ。

何てったって、まだ戦場じゃないんだぞ。生命のやりとりとか、拷問受けるとか、一生監獄にぶちこまれるとかのレベルじゃないんだぞ。まだまだ選択肢は多いし、まあだから難しいのかもしれないけど、それにしても、もう皆、なんであんなに深刻なんやー。正義はしれっと鼻歌まじりにつらぬけよ。犠牲はにこにこ笑いながら、ぽいっと払えよ。

ひよわやなあ。かちこちやなあ。見ててもう、うんざりしました。
まあ、それがもしかしたら一番、この映画が伝えたかったことなのかもしれないけど。

ところで、同じ映画館では9月6日から「ベニスに死す」がかかるのね。カードも更新したし、何十年ぶりかで、見に行こうかな。

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カツジ猫