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予想もつかない

厚労省の宴会だけど、あまりにもぶっ飛びすぎてて、感想もひねり出せない。
さしあたり、「コロナなんて政府の陰謀で、ちっとも恐い病気じゃない。マスクもいらない」とか主張してる人たちは、もう肌からの感覚で、「やっぱりまちがってなかった」と確信するだろうな…とも思ったが、しかし、政府の陰謀なら、逆にこんなアホなことしたら陰謀も失敗するわけで、つまりはどこをどう考えても、実施したり参加したりした人たちの気持ちというのがわからない。

しょーもなさすぎる欲望だが、企画した人、参加した人、その全過程において、交わされた会話や口にされたつぶやきを、もう一個でもいいから聞きたい。だって、どう想像力を駆使しても絶対想像できないんだもん。
「えー、やるんですか」「マジですか」「この時期にちょっとどうなんですかね」「しゃあない」「まあ行かんというわけにも」「大人数なら処分もできないよきっと」「ばれるわけない」「皆やってるよ」「お店があるんですか」「この前、よその部署でもやったみたいですよ」「行って処分も行かないで処分もあるなら行っとく方があとあと無事かも」「職場の和がなあ」「皆行くんですか?じゃあ逆らえない」「遅れて行って、ちょこっといて帰ればいい」…とか想像して見たんだけど、どれかひとつぐらい合ってるかしらん。

どうせこう言ったんやろ、というような、ぴたっと来ることばが、ひとつも思いつかない。つまりは、企画や参加やした人たちの心理も思考も、想像を絶する。自分たちの命運を握っているかもしれない地位にいる人たちの発想が、それほどに予想もつかないものになっているということが、おぞましいし、恐ろしい。大きなカベチョロとかカナブンとか、いっそもう生物ではない歯磨きのチューブかキッチンのスポンジが、しれっとした顔でそういう仕事についてるんじゃないかというような、不気味すぎる意思疎通の不可能さを感じる。ひょっとしたら、もう世の中、どうしようもない域に到達しはじめてるんじゃないだろうか。

庭はスノードロップが満開になり、つつじもそろそろ咲き始めている。桜は散り始めたが、まだまだきれいだ。

福岡国際マラソンがおしまいになるらしい。もう十年以上も前だったか、九州大学で日本近世学会が開催されて、開催校は参加者のために何かサービスのイベントをしなくちゃならなかったとき、中野三敏先生が、「ちょうどその日はマラソンのある日で、会場の前の門前が国道3号線でランナーが通過するから、その時に学会発表の休憩時間を合わせて、皆で見物したらいい」という、たいがいぶっとんだ案を出し、実行して、成功したのじゃなかったっけ。

私の記憶がごっちゃになってるかもしれないが、もしかしたら外国の女性選手が生理が始まって足を血に染めながら完走したのも、この時のマラソンではなかったっけか。その夜の学会の懇親会で、そのことが話題になり、「とてもきれいな白人女性で、毅然と走っていてカッコよかった」「かなり多い血の量で、迫力があった」「観客の中の中年女性が感極まって泣いていた」「前もって薬は飲んでいたけど、効かなかったらしい」などと皆で話した。ロバート・キャンベルさんもいたような気がする。宴席には私も含めて女性もいて、男女いりまじって、普通に熱心にしゃべっていて、キャンベルさんか誰かが、「こういう話がこういう風にできるっていいよね」と言ったのも覚えている。
私はその選手は見ていなかった。だが、たとえば悪いことでもしたように途中で皆に囲まれてそそくさと棄権したりするよりは、血を流して走り続ける方が沿道の人に与える衝撃や効果も考えるとずっとよかったし、そうしてくれたことに深く感謝した。

生理用品が初めて販売されはじめたころ、その商標は「アンネ」だった。私の生理が始まったころは、まだ手作りの布や綿を使っていた。(こう書くとものすごいトシに思えるなあ、我ながら。ちなみに私は74歳、生理が始まったのはたしか小学5年生。)その後かなり経ってからだったと思うが、大きな新聞広告で、その商標の由来が説明されていて、「アンネの日記」の少女アンネが暗い隠れ家でひと目をしのんで暮らすしかなかったように、隠されることが多かった女性の生理を、さわやかに明るい日のもとに存在させたかった、みたいな意図が記されていて、なるほどと思った。
あのマラソンの女性選手の行動は、それを更におしすすめて、海からの風が吹き渡る国道3号線の陽光の中、観客に見守られて一気に女性の生理が堂々と市民権を得たような印象が、今も私の中にはある。

えー、ちょっと待て、今ネットで検索したら、この記事はまったく出て来ないのだけど、そんなに記憶や記録に残らなかったのかしらん。まさかすべてが私の妄想ではあるまいな。小説「1984年」の主人公みたいな気分になっちゃうじゃないか。お暇な方はどなたかどうぞ調べてみて下さいませ。

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カツジ猫