十字架。
◇その昔、友人たちと同人誌(ボーイズラブとかではなく、文学の論文の)を作っていた時、私は校正の鬼と言われていて、他の皆が見落としている誤字脱字を悪魔のように見つけるので有名だった。それもこれも鳩時計文庫なんていう自費出版の小説を出していたからなんだろうけど、その眼力はまだ衰えていないと自負しているのに、年末に出す予定の学生のテキスト用のうすっぺらいパンフレット本、昨日校了にしちゃって、まあ大丈夫とは思うものの、歌舞伎「寺子屋」の引用で、
五色の息を一息に、ほっと吐き出すばかりなり。
という有名すぎる一節の引用が「吹き出す」になってるのを最後に発見して、ひっくり返った。泡じゃあるまいし、吹いてどうすんだよ。
あと表紙の色の感じとか、できあがってみないとわからないことも多いので、本当にちゃちな本なのだけど、それでもやっぱりドキドキしている。
◇それとは比べ物にならない立派な本だが、前に紹介した菱岡憲司君の「小津久足の文事」、今度は九大の川平氏が立派な批評をブログにのせてくれている。やっぱり久足と菱岡君が似ていると指摘してくれていて、だからー、熱心な研究者が誰かを研究したら、絶対に自分自身と似た人物像になっちゃうんですったらー、という私の主張も、だんだんこうなると説得力がなくなるなあ(笑)。
http://blogs.yahoo.co.jp/kanzanshi/40316616.html
しかし、考えて見ると、またそれとは逆に、誰かを研究していると研究者もその人物に似て来るという相互作用もあるからな。猫と飼い主がおたがい似てくるようなもので。
菱岡君も、特にこうやって皆から似てる似てると言われていると、その内に海産物問屋にはならないまでも、川平君がけしかけているように、「古学ばなれ」ならぬ、何かとんでもない新しい学問を始めるのかもしれない。
◇今朝の「しんぶん赤旗」に共産党の不破哲三さんがキューバのカストロ議長と昔、話し合ったときの思い出を一面使って書いていて、いろいろ面白かったし、心を打たれた。カストロが日本のことをよく知っていて、いろんな質問をしたというくだりもそうだが、特にソ連のアフガン侵略を支持する根拠は何かと不破さんが聞いたとき(聞くところがさすがだなあ不破さん)、カストロが実に深刻な表情になって「これは、社会主義国としてわれわれが担うべき『十字架』だ」と答えたという部分で、粛然とした。その背景や意味については不破さんが詳しく考察しているが、このことばだけからでも、さまざまな思いがわく。
カストロやゲバラは文学や哲学と共通する精神で、政治を、それもまぎれもない一国の支配者として実現させていた人だった。彼らの演説のみごとさ、言葉遣いの的確さは、人間としてきちんと生きている政治家でしか生み出せない凝縮と練磨を伝える。この人の意識は常に覚醒していた。精神は常に脈打っていた。それが重すぎるほど伝わって来る。
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik16/2016-12-02/2016120205_01_0.html?_tptb=032