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失われた声

※此の頃は老人ホームの母と毎晩、猫のDVDを見て居ます。
様々な猫のエピソードを集めた物で、案外良く出来て居ます。ナレーションも左程大袈裟でないですし。
母はもうテレビ番組は内容が余り理解出来なくなって居るのですが、動物好きで猫も犬も飼って居ましたから、此のDVDだと熱心に見て居て私とも話がはずみます。

残された理解力や記憶力を一杯に使って、こうして毎日を楽しんで居る母を私は嫌いではないし、そんなに悲しいとも思いません。時々は他の入居者の悪口も言うので「ヘルパーさん達にそんな悪口を言わない方が良いよ」と注意すると「何、ヘルパーさんもあの人には困ってるんだから」と随分しゃっきり言い返します。悪口の相手の方には申し訳ありませんが、こういうファイトが見えるのも私は楽しい気がします。

※ただ、此の様な好い加減な政治が続き、状況が激しく動き続ける毎日の中で、ふと、以前の様な母の言葉を聞いて見たいと思う事も有ります。
母は戦争中軍国少女だった様で、戦後は一貫して戦争反対で平和を願って来ました。ただ願うだけではなく、何時も積極的に活動して政治や地域に関わって来ました。
何の肩書もない田舎の女性ですが、母の意識は常に世界と対峙して居ました。まるで国連総長の様に世界と日本の政治を見て居ました。

母は独自の見解を何時も持って居ました。国会中継を熱心に見て居て、「後藤田(正晴)は油断出来ないよ。あの法案の通し方と来たら」等と新聞も誰も気がつかない事を誰よりも早く指摘して居ました。
昔、よど号のハイジャック事件の時も、人質の身代わりに法務大臣が機に乗ればいいのだ、と、政府が実際に交渉して身代わりで政務次官でしたかを乗せて事態を切り抜けるよりずっと早く言い出して居て、「あら、法務大臣じゃなかったの、ハイジャック犯も随分小物で満足したね」と言っていた事です。

※母の精神や本質はそんな昔と今も全く変わって居ません。だから私は母を失ったとは少しも感じません。
ただ、あれ程の鋭い観察や独自の見解で今の政界や世界情勢を見た時、母が何を考えたか何を言ったかを無性に知りたくなる時があります。もう二度と聞けない、失われた声を耳にしたいと願います。

その一方で母はもう充分に戦ったと思います。そして母と同じ事は思いつけなくても、私は私なりに母の戦ったものと戦って行くだろうと私は分って居ます。母はもう、することはしました。充分すぎる程に人類と未来の為に尽しました。だからこそ多分彼女は今、落ち着いて私や世界を信頼して猫のDVDを楽しんで居るのだろうと思います。

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カツジ猫