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小説「テロル」感想(おまけ)。

(おまけです。)

◇書いてしまうと、あらためてすごくふしぎなのは、こんなあたりまえのシヘムの気持ちに、最愛の夫のアミーンも、二人のよき友人の女性キムも、同志の若者もカリスマ指導者マルワン師も、まったく思い至らなかったのかということである。ついでに言うなら、作者も気づいてないんだろうか。それとも、わざと伏せたんだろうか。

ある意味、シヘムのこの心情は、ものすごく陳腐であたりまえすぎるから、書いてしまえば、なあんだ、そりゃそうよねと読者は納得して、彼女を身近に感じるが平凡でどうってことない話として読んでしまって忘れかねない。

ここの部分が描かれず、わからないままだから、この小説の気持ち悪さと後味の悪さはマックスになる。だからこそ私がそれを何とかしないと眠れない気がして、何度も読んでしまったというぐらいに、この小説が人の印象に残るのは、多分この、一番の核になるシヘムの心理が、徹底的に隠されたままでいるからだ。

◇作者の気持ちや技巧はさておき、物語の中に入って考えると、アミーンは生きていたら早晩このことには気がついたと思う。彼の再生と復活は、その方向に向いている。
ひきかえ、キムやマルワン師たち、つまり憎み合い遠ざけあい殺し合うこともある両陣営の人たちは、永遠に気づかないままかもしれない。シヘムのように、両者を愛し、どちらも捨てられない心情なんて多分想像を絶するからだ。そもそも相手や敵方の世界に、そのような魅力を感じる余地がない。

ただ、私も悪辣だから、よからぬ空想をすると、カリスマ指導者のマルワン師などは、やっぱり人を見る目があるから、シヘムのこの自爆への熱意と渇望が、夫との豊かで恵まれた生活を捨てられない苦しみ、それから逃れたい、もうこれ以上は今の状態を続けて行けそうにない、自殺願望、逃走本能に過ぎないことは、ひょっとしたら察したかもしれない。

そりゃまあ何しろ私はパレスチナのカリスマ指導者の人柄など、ほんとに何もわからないから、そんなことなどまったく予想もできないぐらい、純粋に清廉潔白にシヘムのことばを信じたし、自爆への決意を信じたし、そういう人だからこそカリスマ指導者であるのかもしれない。

◇でも、ひょっとして、もっと複雑でしたたかな面も持つ指導者で、シヘムの中にある、彼女自身も気づかないかもしれない、「二つの世界に引き裂かれて、どちらの味方もできない苦しみに、もう耐えられない」という疲労と混乱を感じとったら、そしてそれが、たとえば夫にすべてをぶちまけるか、イスラエル警察にかけこんで自白するか、そういう方向の「自爆」にもつながりかねない、ぎりぎりの状態にシヘムがいることを察したとしたら、ぶっちゃけ、わざと最悪の表現をすると、「あー、この女もう使い物にならない。家や銀行口座やその他の利用価値はすごくあるから、失うのは残念だし、損失も大きいけど、そんなこと言ってられないぐらい危険だわこりゃ。本人もそれをわかって自爆志望してるんだろうし、そういうかたちで処理するのが一番いいわな、誰のためにも。特に味方のためには、それしかないわな」とか思って、結果としては「マルワン師でさえ、彼女を説得できなかった」と親戚の若者がいうような結果になったのかもね、知らんけど。

罰当たりなこと言いすぎて、この私がテロの対象になるのもいやだけど、びびりながらも更に言うと、私はシヘムの本心が見抜けなくて、彼女の熱意に押されまくって自爆を許可するしかなかった、本当に、たかが新参のメンバーのブルジョア奥さんの情熱に負けて、有利で便利な隠れ家や銀行口座を手放すのをあきらめてしまうような指導者よりは、彼女の本心見抜いた上で、政治的戦略的判断して彼女を「処理」する指導者の方が、よっぽど好きだし理解できるし魅力的だし信頼できるし、ついて行ってもいいって気になれるわー。(多分ほんとに、これで終わり。)

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カツジ猫