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王様の耳はロバの耳

今日は昼からお客さんが来て、口の中が乾いて舌がもつれるほど、数時間、ありとあらゆることをしゃべり倒した。楽しかったし、ためにもなったし、いろんな面白くて貴重な情報が、高級なことからしょうもないことまで聞けて、そういう話題の数々で身体がはちきれそうになってるんだけど、別に秘密とか悪いことというのじゃなくて、そうそう皆にしゃべって回ることじゃないから、ぱんぱんにふくらんだ風船みたいに欲求不満になっている。学問研究のこと、最近の小説のこと、大学の状況、大作家のエピソード、どれもこれもが、今すぐにでも誰かに知らせたくてしかたがない。

昔だったら、こんなにあせったりしないのよ。上等のワインか焼酎のように、じっくり寝かせて何十年もして、ゆっくり人に教えたら、これまた熟成して何十倍も面白い話になるのよ。でもいかんせん、私の年齢から考えて、そうなるまでに絶対死ぬのよ。そしてこんな愉快な話は、誰も知らないままになるのよ。くやしーい!

さらにくやしく、あせるのは、私は実は若い頃いや中年過ぎても、人から聞いた会話を、長い話から、ちょっとした伝言まで、それこそため息や舌打ちまで完全に記憶していて、全部正確にそのとおりに再現できたのよ。それが、いつの頃からか衰え始めて、内容はちゃんと正確でも、言い回しや使ったことばは、再現できなくなった。
 別にまあそんなもんかと思ったし、それでも別に困ることはなかったけど、つまりテープレコーダーもどきの録音性能で再現するのはできなくなってるので、今日聞いた面白すぎる話の数々も、語り手の口調やニュアンス通りには伝えられない。これからは、もっとそれが進行するだろうから、語り手の語り口の面白さや特徴は、年がたつほど、ぼやけて来るにちがいない。それもまた、残念でならない

まあせめて、あらかたの内容ぐらいは、どこかに残して置きたいが、書き留めるほどのことじゃないしなあ。昔話の王様の耳はロバの耳と床屋さんがひそかに語った川辺の葦でもあればいいんだろうけど。あ、よくないか。あの葦はしゃべって拡散したんだもんね(ネットで検索してみたら、事情はもちょっと複雑だったが)。

沖縄知事選挙の投票が明日だ。玉城デニーさんが苦戦だという話も聞くので、気になってならない。県民が選択するならそれはそれでいいが、県外や遠方からネットを使ってさまざまなデマ攻撃が激しいというのが、いらだたしい。そういうものに左右される世の中になっているのだとしたら、それが一番うっとうしい。

夕方ホークスとロッテの試合の最後をちょっと見ていたら、抑えの杉山投手が打たれて一点差に詰め寄られ、長打を捕ろうとした周東選手がスパイクを芝に引っかけたとかなんかで、足をどうかして途中退場し、ファンサイトでは騒ぎになっている。試合の結果なんかどうでもいいから、周東選手が無事でいてほしいという書き込みが大量に続き、何となくそういうことを書いてるのが周東選手の外見にうっとりしている大勢の女性ファンだけではなく、むしろ何だか野球好きのおっさんっぽい人たちも多いような気がするのが、すごい。無理をしているのが見ていてもわかるから、たのむからしばらく休んでほしいと皆がこぞって頼んでいるのも、何だかすごい。批判や攻撃がまったくまじらない「大切だから休ませてやってくれ」コールがこんなに多いのって、大谷選手でも見たことないぞ。だから優れてるということにはならないだろうけど、確実に何かがおかしい(笑)。

私はずっと以前から(人気が高まりすぎて、最近では不吉といわれそうで恐いから慎んでいるけど)、周東選手という人は、人が唖然とするような華やかできらびやかな活躍をすると、そのあとすぐ、本人の失敗か運の悪さかとにかく、ものすごいひどい状況になって、ほめそやしていたメディアやファンが不安や失望で離れて行く(最近は離れて行かないのが恐い)、そしてまたすぐさらにもっと上の活躍をする、というスイッチバック曲線を描く人という印象があった。もちろん他の選手でも他の世界でもよくあることだが、この人の場合、その行ったり来たりの期間というかスピードが、ものすごく速い。下手するとまたたきする間に一歩前進二歩後退四歩前進五歩後退十歩前進(笑)みたいなことをくり返す。いちいち数え上げないが、どん底に落ちる前にはそこそこの成功をしているし、幸福の絶頂にいると、とんでもない不幸が襲う。もちろん本人のせいではなく、ものすごい努力をして限界まで挑戦し、そこで反動が来て、そこをまた乗り越えてくる、ということなのだろうが、ファンやメディアはたまったもんじゃないと、いつも思った。

今回もホームスティールもランニングホームランもあんまり間も置かずにやってのけるという、人間離れした活躍をして(そう言えば日本シリーズのヒット数の新記録とか、彼は普通の大選手も残せない、変な?記録を突然達成したりもする)、ここまでとんでもないことをしたら、またきっとその後でいやなことがあるんじゃないかと、気になっていた。でも、今までのように、どうせそれでもまたきっと前以上に成長するんだろうと思いつつ、今度こそおおごとになりはしないかと、ついまた心配してしまう。本当に本人が一番大変なのはわかっているし、責任がないのもわかっているが、人を心配させるというか、人の心をもてあそぶ選手だ。そしてそのスケールや規模がどんどん大きくなって行っているのも、何をこれから見せられるのかと何やら先が思いやられる。

今回のことでは、杉山投手が抑えとしてだらしないと怒っているファンも多い。でも、ついこの間「ホークス・スピリッツ」のDVDで、去年の記録を見直したばかりなので、杉山投手が自分をクローザーとして再生させてくれた小久保監督にとても感謝していることを、通路に座ってぼそぼそ語り、「どうしても小久保監督を胴上げしてあげたい、その一心で投げている」と口ごもりながら心から言っていた姿や声が忘れられない。今もそういう思いで投げ続けているんだろうなと思うと、何だかせつなく、ロッテには悪いが、結局一点差で逃げ切ったのには、そういう点ではほっとした。

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カツジ猫