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美しい誤解。

◇お手伝いに来て下さる方が、ものすごくがんばって下さって、田舎の家はかなり片づいてきました。
でもまだまだです(笑)。

何より、そこからの荷物を運びこむためには、今いる家を片づけて、空きを作らなければならないのですが、これがもうなかなか。
昨日、いつもの花屋さんに行くと、化け物のような恐ろしく大きなピンクのユリがあって、作り物でもこうはいくまいというような見事さで、やけで買いました。もうかなり開いていますからと、すごく安くしてくれました。家の中においていると、いい香りがただよって快適です。はげまされて、たまっていた書類の山を一気に片づけて、少しすっきりしました。

◇海外ドラマの「キャッスル」で、記憶喪失になった男性にキャッスルが、「いいじゃないか、僕もポーの『アモンティリアード』(だったっけ)の筋を忘れて、もう一度読みたいよ」と言ってたけど、田舎の家の本棚にあったローレンス・ブロックの「処刑宣告」を読み直してみたら、何ひとつ覚えていなくて、我ながら驚きながら楽しんで、とうとうこっちの家まで持ち帰って続きを読んだ。私はこのシリーズ、主役の最愛のパートナー、エレインがあんまり好きでもないのがつらいんだけど、まあ我慢できないほどじゃない。前の恋人のジャンも嫌いだったから、私とスカダーの女の趣味は合わないんだろう。

◇田舎とこちらとの間を車で走っていると、いろんな車に出あう。
ずっと前、同僚の先生が、スピードの出ない古い車で走っていたら、追い抜かれるたびに、顔を見られるとぼやいていた。また一度ラジオで、誰かが、自分たちの車が遅くて追い抜いて行った人が、全然こちらを見ようとしなかったので、同乗していたお母さまが「あの人はえらいね。こちらを見もしないで、礼儀正しい」と感心したという話をしていた。

どのくらい遅かったのかもわからないし、別にそれはよくあることで全然かまわないんだけど、私はこういう、自分の方が迷惑をかけていたり、相手に何かをしてもらったりする立場なのに、逆にその相手を評価する精神が、自分でも異常と思うぐらいキライである。
もうずっと昔だが、新聞の投書欄に赤い羽根募金をした女子高生だかが、その体験を書いていて、「こういう年齢の人は募金に応じてくれない、こういう人は何ちゃらかんちゃら」と査定していて、おまえは人に善意を乞う立場にいながら何えらそうな勘違いをしくさっているのだ、もしかして自分はえらいことしてるから人を判定してもいいとか思ってるのかと激怒して、大人げないが、それ以後その手の募金には絶対に応じなくなった前歴がある。

で、たらたら走ってる車を追い抜きながら、そのお母さまの話も思い出すわけだが、元来私は、そうやって追い越すときに、絶対その車の運転手を見ない。
運転していると私もご多聞にもれず、とんでもない性格になるから、前を走る車が気に入らないと、「うーん、あんたとはこれまでもこれからも二度と会うことはあるまいが、だいたい顔も見てはいないわけだが、それでもこの30分たらずの間に、あなたのことは、家族より職場の仲間より恋人より理解できたぞ。いかに判断力と決断力に乏しくて、人に対して鈍感で、その性下劣で自分勝手でいやしくて臆病で、箸にも棒にもかからん役立たずのろくでなしであるかは」ぐらいのことは思ったりする。あのね、運転の下手さとか車の遅さじゃないんですよ、そういうのって。具体例をあげるヒマがないけど。

でもそうやって、烈火のごとく怒って相手をさげすんで、デスノートでもあったら親の仇より先にそいつの名前書きそうだと思うぐらいになってても、いえ、なってるほど、私は追い越すときにその車の運転手は見ない。
けっ、汚らわしい、あんたの顔なんぞ見たらアホがうつる目が腐れる、私の視野に一瞬でもそんな醜い存在が映り込むことなんかごめんだと思うから、絶対に一瞥もくれないで抜いて行く。
「立派な人ねえ、礼儀正しい」とか思われてるんなら、美しい誤解を解きたくはないが、そういうこともあるのだよ。

◇わ、こんなこと書いてるヒマはないんだった。仕事だ仕事。

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カツジ猫