中途半端のアドリブ4-「平家物語」のあらすじ(終)

「平家物語」後半は3つの有名な戦いが中心である。

まず一番目は「一の谷の合戦」である。
これは、「華やかな花がぱっと散る」情景をイメージしよう。
松尾芭蕉に「笈の小文」という紀行がある。「おくのほそ道」のちょっと前の作品で、あまりまとまりはよくないが、それこそ華やかで、いろんな記事がつまっていて、私はこちらの方が好きなくらいだ。
その中で芭蕉は、この一の谷の古戦場を訪れ、源氏に背後の山から急襲された平家一族の高貴な女性たちが、家具や調度品もとりちらして舟になだれいって逃げて行く姿を、美しい幻のように追想している。
「笈の小文」はわりとどこでも読めるので、原文を見てもらってもいいし、別に見なくてもいいけど、要するに、この戦いはそんなイメージなのである。

平家はこの時、都で源氏が内輪もめして同士討ちしてもたついてたのをいいことに、次第にまた、ここ一の谷の陣地で勢力を増してきていた。そして、幼い天皇を初め、女性も多く含めた日常生活ぐるみ移動しているのが、平家の特徴で、つまり、純然たる戦闘集団ではない。
そこに、都をひとまず落ち着かせた義経が、平家が予想もしなかった背後の山の急斜面からの逆落とし攻撃をかける。これで平家の陣地は一気に壊滅してしまう。
ちゃちなものが壊滅したのではない。豪華な強大な陣地の崩壊である。そして、ここで討ち死にした平家の武将たちのそのリストの豪勢さ。忠度がいる。通盛がいる。経正がいる。敦盛がいる。知章がいる。重衡がいる(この人は生け捕り)。もう、そうそうたるメンバーなんである。それが、一気にばたばた消える。シェイクスピアの悲劇のラストだって、こうまで派手に主役級は死なない(死ぬかな)。
その、それぞれの死に方が、さまざまに描かれる。「○○被討(うたれ)」の章が次々に登場する。これが一の谷である。いたましいが、華やかである。そう覚えよう。

華やかなせいか、この戦いには歌が多い。

鹿も四つ足、馬も四つ足
鹿の越え行く、この坂道
馬の越せない、道理はないと
大将義経、真っ先に

続く勇士も、一騎当千
ひよどり越えの、逆落としに
平家の一門、驚きあわて
屋島をさして、落ちて行く

という唱歌もあれば、

一の谷のいくさ敗れ
討たれし平家の公達あわれ
暁寒き須磨の嵐に
聞こえしはこれか青葉の笛

更くる夜半に門をたたき
我が師に托せし言の葉あわれ
いまわの際間に持ちし箙(えびら)に
残れるは「花や今宵」の歌

という「青葉の笛」というもの悲しい調べの歌もある。お年寄りに聞いたら、ご存じかもしれない。

第二の戦いは、その歌にも出てきた「屋島の戦い」である。
これは、一の谷の戦いとはまるでちがう。どうちがうかと言うと、大物がまったく登場しない。ちょっとは出るけど、とにかく、ここでの主役級は、扇の的を射た那須与一にせよ、義経を身をもってかばって死んだ佐藤次信にせよ、かぶとのしころを引っ張りあって力比べをした美保屋十郎と悪七兵衛景清にせよ、この時一回こっきりの出番の人がほとんどである。しかもそれで、ものすごく有名になってしまっている。下っ端といったら失礼だが、脇役に強いライトがあたっている戦闘なのだ。洒落ているではないか。その彼らの戦いぶりと活躍をまず覚えてやろう。それで、この戦いはだいたいマスターできる。

第三の戦いは壇ノ浦である。これは、平家が滅亡する戦いだから、それ以上何もいうことはない。ここまで生き残ってきた平家の人々のそれぞれの死に様が描かれる、教経はあくまで勇ましく、幼い安徳天皇はあくまで哀れに、宗盛親子はあくまでみっともなく、そして知盛はあくまでカッコよく。それが、この戦いのメインである。そこを押さえておけばよい。

まとめると、

  • 「一の谷の合戦は、華やかなものがどっと散る」
  • 「屋島の合戦は、脇役に一度だけライトがあたる」
  • 「壇ノ浦の合戦では、平家の誰もが、それらしい死に方をする」

ということになる。

以上、テーマとは何の関わりもない、暗記に便利な「平家物語のあらすじ」である。
質問、リクエスト、ここをもっと詳しく話せ!というところがあったら、言って下さい。

(何でも、三太夫さんは、一の谷の合戦を描いた「奇襲だ!」という短編小説を書かれたことがおありとか。その内、拝見したいものですね。)

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