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因果はめぐる水車

昨日は本当に久し振りに、昔の同僚に行きつけの喫茶店で会って、環境はいろいろちがうが同い年だから、老後の計画やら宗像周辺の古典文学との関わりやら郷土史家の役割やら、いろんな話をしてとても楽しかった。私は自分のエッセイや小説の本を押しつけ、代わりにセンスのいいおしゃれでつつましい、内容も豊かな、ドイツの詩についての本をもらって、わらしべ長者になった気分だった。

dynamislifeさんからも「馬の中」シリーズの表紙のデザイン案が届いて、これまたいろいろ考えるのが楽しく、今日も朝からあれこれ読んだり書いたりしていて、ふと気がついたら三時近くでおなかがぺこぺこ、急いで食事の支度をしていたら、チャイムが鳴って突然の数人の方のご訪問。

わかってるのよー、私が悪いのよー、そんな時間に飢え死にしそうになって目が回りそうになりながら食事にとりかかるなんて、まともな人間ならしないんだから。でも私はまともな人間じゃないのよ。八十近くの一人暮らしの年寄りで、体調も悪いのに、変な仕事にあれこれ打ちこんで、生活は不規則、家は人を入れられる状態じゃないのよ。

このごろはもう、いつも「すみませーん、家にどなたも入っていただく状態じゃないんで」と、どなたの来訪も断っている。だから昨日だって喫茶店であんなに楽しい時を過ごしたのだ。玄関先で人を追い返すのなんて失礼か非常識か知らないけど、もうその感覚が私はとうになくなっていて、臆面もなく「すみません、片づけ中で、どなたも入っていただける状態じゃないんで」とお断りするのに、何の抵抗もない。

今回もそう申し上げて「じゃ片づけのお手伝いをしますよ」とおっしゃるのを、平にご容赦とお断りして、玄関先の立ち話で許してもらった。
 そうしたら、大変なことを忘れていた。実は数年前から私は、歩くのには何の不自由もなく何なら走れたりもするのだが、じっと立っていると数秒でふらついて、しっかり立っていられない。スーパーのレジなどで小銭を探す間もよろめくので、思わずお札を出してしまい、お釣りの小銭がじゃらじゃらたまって、バッグが重くなってる現状だ。

何かによりかかっていればまあ大丈夫なのだが、それでもやっぱりきつくなり、猫がのそのそ出て来たのをいいことに、抱いてその場にしゃがみこんで、おしゃべりをした。時間にすれば十分も経たなかったのかもしれないが、それでもきつくて、腹ぺこなのもあいまって、目がかすみ、口はからから、今にも倒れそうだったが、ここで倒れでもしようものなら、皆さんが家に上がって救急車でも呼ぶ騒ぎになるだろうから、そのくらいなら死んだ方がましだと思ってがんばった。おかげで何を話したのか、さっぱり何一つ記憶がない。

まあ、その内にそれなりの時間も過ぎて、皆さん、「お元気そうなお顔を見て安心しました」と喜んで帰って行かれた。にっこり笑ってお見送りしたあと、はいずるようにベッドに倒れて、食事どころではなく、仕事どころではなく夜まで寝ていた。いつもの薬を飲まなくちゃいけないのを思い出して、パンと水で流し込み、このまま人さまに安心していただいただけでは何のために生きてるのかわからないと、暗くなる中、また庭に出て柿の木を四本移植して、水まきして、今から猫にエサやって、ごはんを作る。

皆さーん、そりゃ世の中には突然の訪問に驚き喜びよみがえって生きる気力を取り戻す、老人や老親もたくさんいることでしょうから、いちがいには申せませんが、お願いです、少なくとも私めには、突然のご来訪はやめていただくとありがたいです。やむを得ないでお越しになるなら、せめてどうか玄関先で五分以内に切り上げて下さいませんでしょうか。私は昔から一応ヘタってはいても、顔も声も態度もそこそこ元気そうなので、皆さんけっこう「安心したわー」と満足して帰られるのですが、正直もう私は、孤独死も立花なんちゃらやマスコミが家の前で騒ぐのもかまわないから、大切な友人知人にはいきなり来てほしくはない。残り少ない人生のわずかな時間をやりくりして、好きな仕事を片づけるのに、四苦八苦してせいいっぱいの毎日なので、ペースが狂うとなかなか戻りません。今日も実は集中して仕上げなければならない作業がいくつかあったのですが、この調子ではとても無理。私にしてはけっこうな大打撃です。

まあ私自身も若い頃、集会やら署名やらの勧誘にしつこくねばって人の時間を奪ったことが数しれないから、そのたたりだと思って、あきらめるしかないんでしょうかねえ。いろんな呼びかけやら訴えやらしつこく繰り返した過去を、そういう点ではつくづく後悔してますよ(笑)。

とか何とかぼやいてる間に、庭ではフリージアも咲き始めました。

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カツジ猫