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くり返し語らねばならない物語がある(きゃらめる通信26号)

 安倍首相は施政方針演説で、桜を見る会にもカジノ汚職にも一言もふれないまま、東京オリンピックの語を19回口にしたそうです。本来なら各国の選手の活躍を通じてさまざまな国の文化や歴史や現状に触れ、世界の平和を願うものであるはずのオリンピックを、またしても金メダルの数だけを云々する国威発揚の場として最大限利用するつもりかと今から思いやられます。

1月22日の毎日新聞の夕刊に歴史学者の藤原辰史氏が「暗くとも明けない夜はない」という一文を寄せておられます。「現代史を学んでいて感じるのは、醜悪な権力者が統治する醜悪な時代を生きていると、これからもずっと暗い時代が続くだろうと信じてしまうことである」。もうすぐナチスは滅びるよ、と史料上の少年に声をかけたくても、彼は爆弾を抱えてソ連の戦車に飛び込むし、ベルリンの壁はもうすぐ崩壊するよ、と教えたくても、壁崩壊の数ヶ月前に乗り越えようとして射殺される人がいる。かつてハンナ・アーレントが述べたように、暗い時代の破局は突如として訪れるのだが、そのぎりぎりまで権力者は真実を照らす光を消し、暗闇を広げるのだ、というのです。

今日私は、映画「スター・ウォーズ スカイウォーカーの夜明け」を見てきました。もう何十年も前に第一作を見て以来、見続けてきたこの作品のパワフルでサービス満点、どこか泥臭い全力投球ぶりは、驚くほどに変わっておらず、昔のままでした。先日学生が「面白かった」と私に教えてくれたように、それは今の若い人も魅了するのでしょう。

そして私はあらためて、この映画が終始一貫骨太に訴え続ける「正義は勝つ」「愛は勝つ」という愚直なまでに単純なテーマに目を見張りました。

何度でも、くり返し、私たちはこのような物語を語り続けなければならない。作り続けなければいけない。飽きることなく、あきらめることなく、手を変え品を変え、語り直さなければならない。強く、そう思いました。

暗闇は続かない。理不尽な世界は必ず崩壊する。理性と善意と勇気とは、決して滅びることはない。苦しみながら戦う人は、決して孤独ではない。たくさんの味方がきっといる。どんな混乱や停滞や悲劇や犠牲があっても、最後にはよりよい時代は訪れる。あきらめない限り、努力し続ける限り。

このような物語は、どんなことがあっても、語るのをやめてはならず、くり返し、語り続けなければなりません。醜悪な時代が永遠に続くと思いこんでしまう人を、一人でも少なくするために。

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カツジ猫