福岡教育大学物語78-160分の90

先日、新学長決定後初めて、市民と教育大教員との話し合いの会が持たれました。学長選考の結果は、これまでの寺尾・櫻井両学長の方針を継承すると思われる飯田慎司先生が選ばれたわけですが、学長を批判してきた先生方は、もう十年近くがんばって来られているせいか、特に力を落としている風はなく、今後の取り組みをいろいろ考えておられました。

よくこんなに落ち着いておられるなと私のほうが驚いたのですが、その後更に驚くとともに、その落ち着きの理由もわかった気がしたのは、こちらに全文が載っているので、見ていただきたいのですが、学長選考の直前に、両候補の公聴会というのがあって、それに向けて、長い質問状が提出されていたのです。

両候補への質問という形式ではありますが、内容は、ごく一部を見ても、

◆教育研究費について

飯田候補は、平成27年度の研究開発担当副学長・教育学部長への就任当初、役員会決定による教育研究費の激減という事態を受けて、前年度には予告されていなかった研究費配分措置を実施し、研究費配分が大幅に遅れ様々な支障が生じた。この突然の教育研究費激減により、予定されていた授業が年度途中で打ち切られ、新聞報道もなされた。前年度までに科研費を申請していなかった教員に対し、基盤的研究費を配分しない(申請していた教員には5万円を配分)という措置も突如なされた。
このH27年度の教育研究費激減が以後の研究費水準のベースとなって今日に至り、本学は教育大学のなかで、研究経費の大学予算に占める割合が特に低い大学となっている。他方、学生および教員から多くの不満や問題点が指摘され、会計検査院の調査対象ともなった英語習得院には多額の予算が支出され続けている。
両候補には、寺尾学長以来の本学の教育研究費に関する施策をどのように位置付け、今後どのような施策を採るお考えか伺いたい。

のように、寺尾・櫻井両学長の学内運営をはじめとした諸方針への強い批判と疑問であり、それを継承するであろう飯田候補に対する厳しい抗議になっています。事実上、学長批判、飯田候補批判です。

このような、ある意味きわめて旗幟鮮明な質問状に、わずか3日間で160名の教員の90名が賛同の署名をしているのです。しかも氏名を公表してかまわないと言っているのが、その半数の45名です。

大学教員は終日学内に来ている人は少なく、署名を集める先生方もそればかりしているわけには行きませんから、こんな短期間に、こんな内容の文書にこれだけの署名が集まるというのは、少なくとも私には驚愕でした。

「時間があって全員に連絡がつけば、150名ぐらいは集まりましたよ」と、先生たちはこともなげにおっしゃっていましたが、もしもそれが本当なら、飯田先生にとっての今後の学内行政はかなり難しいものになるでしょう。

私はこの連載で何度も書いたように、人事・給与・懲戒という重要な息の根をすべて学長指名の人たちによる密室での決定によって握られ、十年以上もの長い間、不遇な条件下にあったら、先生たちも嫌気がさし無気力になり、長いものに巻かれておこうという気分もかなり広がっているだろうと予想していました。個人的にそういう声も、いくつか耳にしていましたし。

しかし、この数字を見ると、やはり、これまでの学内行政に対する先生方の不満は強く、決してあきらめても無気力になってもいないのではないかという気がして来ます。
飯田新学長が「厳しい人事考課」ということばを何度も使用している所信表明の姿勢で、この状況を打開できるものなのでしょうか。

これほど署名が集まった大きな理由として、先生方は、飯田先生が、この間ずっと教育学部長として、教授会の司会をされて来たことをあげました。教授会で出される学長や大学執行部への不満や抗議を「伝えます」とのみで、事実上無視し、学長の方針を述べるだけだった飯田先生に対する先生方の肌で感じ続けた不信と怒りは、非常に根強いものがあると。

寺尾学長以前の学長は、どんなに攻撃されても毎回教授会に出席し、自分で説明も説得も回答も弁明もなさっていました。寺尾先生も途中まではそうしておられましたが、やがて出席されなくなり、櫻井学長は一度も教授会に出て来ておられません。

姿が見えず声も聞けないもどかしさはあるにしても、目の前にいない人よりも、はっきり見える人の態度や姿勢はよくわかります。言ってみれば最前線で身を挺しておられた飯田先生は、それなりにお気の毒ですが、その分、教員たちは目で見て確信しているわけで、その印象が3日間で160分の90の署名になったとすれば、この印象はめったなことでは変わりようがないでしょう。

私はこのことを喜ぶべきか悲しむべきかわかりません。
「強者の方が折れるべきだ」と私は母に教えられ、自分でもそうして来ました。弱者であるなら果敢に過激に戦ってよいし、強者であるなら妥協して譲らなければいけないと。
何でもできると言ってよい権限を今後6年間手にした学長は、やはり強者と思うから、私は飯田先生に、柔軟に寛容に、批判や攻撃を受けとめて、これまでとちがった学内運営をしていただきたいと望みます。
でも、その一方で、そんなことをする余裕のあるほど、新学長の立場は安定していないのではないかという実感も強いです。

教育大における本当の強者は、どこにいるのか、どこから生まれるのか。ひとりひとりが自分の回りから築いていくしかないのかもしれません。

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