「水の王子」通信(189)
「水の王子 畑より」第三回
【しゃべっちゃう、へんな、とり】
ぼくといもうとは、おもわず、その二人の子どもをじっと見た。どちらも、ぼくらとおなじぐらいのとしに見えたけど、なんだかずっと、おとなっぽかった。「何て名まえ?」と、みじかいかみの子のほうが、ぼくといもうとをかわるがわるみて、聞いた。「おれはハヤオで、こっちの子はヒルコっていうんだ」
「あたし、ツラナミ」いもうとが言った。
「ぼくは、ツラナギ」と、ぼくもいそいで言った。
「ツラナミ、ツラナギ、ツラナミ、ツラナギ、ははははは」かいだんの上の方で、すっとんきょうな声がわめいて、ぼくといもうとは、とびあがった。ハヤオは舌打ちして「あいつ!」と言って、かいだんをまたかけ上がりながら、ふりむいて「こいよ。おもしろいもの見せてやるから」と言った。
※
ぼくといもうとが、ホオリのほうを見ると、ホオリは笑って「行っといで」と言った。「何か食べるもの、作っとくから」
「ほら、早く!」上の方でまたハヤオの声がした。だまってほほえんでたヒルコも、ぼくらに目で行こうとあいずして、白いころもをひらひらさせながら、かいだんをかけあがった。
ぼくたちも、ついて行った。
かいだんの上は、ひろい、がらんとしたへやで、木の床はぴかぴかみがかれていた。まん中に下から荷物を引き上げる丸いあながあいていて、まわりは低いさくでかこんであった。そのさくの上に、びっくりするぐらい大きな、けばけばしいいろの鳥がとまっていた。大きなくちばしを、かちかち鳴らして、また「ツラナギ、ツラナミ、ツラナギ、ツラナミ、けけけけけ」とさけんだので、ぼくは思わず、ふきだした。
「なに、これ?」と思わず聞いた。
「なにって、とりさ」ハヤオは答えた。
「とりはふつう、しゃべらないわ」いもうとは目をみはっていた。「こんなにきれいでもないわ」
「こいつはちょっと、とくべつなのさ」ハヤオは鳥のくちばしを指でなでた。「ウガヤっていうんだ」
「そういうしゅるい?」いもうとが聞く。「それとも、このとりの名まえ?」
「このとりの名まえ。おなじしゅるいのは、おれたちも、見たことない」
「どこにいたの?」いもうとはすこしずつ、鳥に近づきながら聞いた。「どうやって、つかまえたの?」
「ふねで、たびしてたとき、みなみのほうのはまべに行ったら、そこの近くのもりにいたんだよ。えさをやったら、ついてきちゃった」ハヤオは手まねきした。「こいよ。かみついたりしないから」
※
いもうとは、いよいよ近くまで行くと、立ちどまってしまったので、ぼくはもっとそばに行って、ハヤオのまねをして、ゆびのさきで、とりのあたまをなでた。とてもやわらかな、すべすべした、まっかな色の羽だった。
「ツラナギ、ツラナミ、ははははは」鳥はまたさけんだ。
「もういいよ」ハヤオが鳥に言った。「うるさいぞ」
鳥は首をかしげて、だまった。
「ことばがわかるの?」ぼくはびっくりして聞いた。
「ちょっとはね」ハヤオは言った。
鳥は、つまらなくなったのか、むらさきときいろの大きなつばさを広げて、ばっさばっさとならしながら、さっきから窓わくにすわって、足をぶらぶらさせていたヒルコのところにとんで行って、その肩にがしっと大きなつめをくいこませるようにしてとまった。「いたいよ、おもい」ヒルコは鳥をかかえるようにして言った。「こまったね。コトシロヌシにおみやげにもってきたのに、これじゃ、ぼくらに、なつきすぎだ」