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「水の王子」通信(190)

「水の王子  畑より」第四回

【ちからじまんの、こどもたち】

陽に焼けて、くろい髪がくるくるうずまいてるハヤオは、小さくてもたくましい手足をしていた。けがわのふくをきて、こしのおびには、おとなのような短刀をさしている。ヒルコはとても色がしろくて、ちゃいろっぽくてまっすぐなながいかみが、光にてらされると、きんいろにみえる。おんなのこみたいにやさしいかおだけど、きっぱりつよそうな目をしていた。首からななめにつるした短剣も、ハヤオのよりほそいけど、するどいんじゃないかって気がした。白いころもから出た手や足も、ほそいけど、よわそうじゃない。はじめてきいた声も、細いようで、よく聞こえて、どことなく、ばかにはできないってかんじがする。
 鳥は、ヒルコの耳をくちばしでつまんで、ヒルコはそのくちばしを指でつまみかえして、あそんでいる。
 「きみたち、きょうだい?」ぼくは聞いた。
 「うん、まあね」ハヤオはうなずいた。「きみたちも?」
 「そう。ツラナミは、ぼくのいもうと」
 「けんかなんかする?」いもうとがきいた。「どっちがつよい?」
 ぼくもききたかったんだけど、さきをこされた。おんなのこだと、ちからくらべできないからつまらない、とときどきぼくが言うもんだから、いもうとは、聞きたくなったんだろう。
 「しょうぶは、なかなかつかないよ」ハヤオがこたえた。「こいつ、すばしっこいからさ」
 「力くらべならハヤオだよ」ヒルコが言った。「このまえも、よその町で、ちからじまんの男の子を負かしたばかり」
 「力だけなら、あいつの方が強かった。まだ子どもだから、わざが、いまいちでさ」
 「すごく、くやしがってた」ヒルコが言った。「タヂカラオって力持ちのしはいしてる町でね。力じまんが集まってるんだ。子どものなかではいちばんつよいと言われてた」
 「でもきっとその内おとなになって、ぼくたちより強くなるよ。きっと有名になるな。名まえ何て言ったっけ」
 「ヤタじゃなかった?」
 「おまえでも、今ならひょっとして、あいつに勝てたかもな」
 「それこそ、きっとねむれなかっただろうね。ヤタくんは」ヒルコが笑った。
 「ヤタヤタヤタ、かかかかか」ウガヤがまた叫んだが、ヒルコがくちびるに指をあててにらむと、しずかになった。
     ※
 ぼくたちはそれからいろんなはなしをして、とてもたのしかった。ヒルコとハヤオはもともと、この村にいて、家もあるし、かぞくもいるんだけど、ふだんはいつもたびに出て、いろんな町や村を見てまわってるんだって。とても、おもしろそうだった。いろんな、めずらしいはなしをしてくれて、ぼくもいもうとも、むちゅうになった。
 ふたりはときどき、村に帰ってくるんだけど、たいがいいつも、ふねにのってきて、この灯台の下でおろしてもらって、何日かいてはまたたびに出るんだって。
 「村の人たちにあうと、ひきとめられちゃいそうでさ」とハヤオが言い、「ぼくたちも、いすわっちゃいそうだから」とヒルコが笑った。「ここ、いごこちがよすぎるし、たびにでるのが、おっくうになっちゃいそうで、こわいんだ」
 「だから、ホデリとホオリには、おれたちが来たこと、ないしょにしとくようにたのんでる」
 「たびって、そんなにやめられない?」いもうとが聞く。
 「つらかったり、こわかったり、さびしかったりするけど、そこがまた、いいんだよなあ」ハヤオがうっとりした顔で言った。
 「よその町や村を見たら、この村のこともよくわかるから、それもたのしいんだよね」ヒルコが言った。「それに、ひょっとして、村にきけんがせまったりしてたら、はやめに知らせられるじゃないか」

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カツジ猫