「水の王子」通信(192)
「水の王子 畑より」第六回(最終回)
【ほしをみながら、かえる】
ぼくといもうとは、とうさんとかあさんが、どんなにおこるか、しんぱいだったけど、ホオリのつくった貝やさかなのりょうりはとてもおいしくて、ヒルコとハヤオはまたいろいろなおもしろいはなしをしてくれて、いつのまにかまた、すっかりたのしくなった。
だいぶたってから、とうさんたちと、むらの人たちがおおぜい、かけつけてきた。ウガヤが「こどもたちはとうだい。こどもたちはとうだい。ぎゃぎゃぎゃ」と大声でわめきながら、その上をとびまわって、ついてきていた。
上のへやの窓から、それを見たヒルコとハヤオは「ぼくらに会ったこと忘れろよ」「ぜったいに言うんじゃないぞ」と念をおしてから、くすくす笑って、もっと上のやねうらみたいなところにかくれてしまい、ホオリは急いで二人の食器を片づけて、そしらぬ顔をしていた。
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とうさんもかあさんも、ぼくたちをちっともしからなかった。よっぽど心配したのか、あおいかおをしていて、ぼくたちをぎゅうぎゅう、だきしめただけだ。ホオリとホデリが村のひとたちに怒られていて、ウズメという、あの派手なかっこうのおばさんが「うかつすぎるわよ、あんたたち」と言っていた。そして「これは村のもののせきにんですから」と言って、珍しいやさいを、よぶんにどっさりくれたので、父さんたちは恐しゅくしながら、うれしそうだった。
ウズメおばさんも、あんまり本気で怒ってるようじゃなかった。ウガヤという、あのけばけばしい色の鳥が、同じように派手なウズメおばさんを仲間とまちがえたのか、かたにとまって、はなれなくて、いろんなことをしゃべるのが、きっとまんぞくだったんだろう。
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夕ぐれのなかを、ぼくたちの馬車は「またおいで」という、ハニヤスおばさんたちの声におくられて、村からはなれて行った。
「いろいろあったが、いい旅だった」父さんが言った。
「あしたから、いただいたやさいの苗をうえないと」母さんがつかれたのか、ぼくたちを抱いてうつらうつらしながらつぶやいた。「あんたたち、しっかり手伝うんですよ」
「うん、そうする」ぼくはこたえた。また、とうだいや、あの村に行きたい、と言おうと思ったけど、いもうとにとめられそうだったし、やめておいた。
ヒルコとハヤオは、もうふねにのって、また、たびに出たのかなあ。ほしが、ひとつだけ、ぴかぴかひかっているそらを見上げながら、ぼくはおもった。
水の王子・畑より 完 2013.5.17.