「水の王子」通信(191)
「水の王子 畑より」第五回
【みんなが、ちょっとあわてる】
「ところできみたち、いつから村に住んでるの?」ハヤオが立ち上がってウガヤにえさをやりながら聞いた。
住んでるのじゃなくて、父さんと母さんがやさいをわけてもらいに来たのについてきたの、と教えると、ふうん、と納得したあとで、二人はちょっとあわてたように顔を見あわせた。
「父さんと母さんは、二人がここに来てること知ってるの?」ヒルコが心配そうに聞いた。
「ううん。二人とも村の人たちと、やさいを見てまわってたし」ぼくは首をふった。「畑よりこっちのほうが、おもしろそうだったし」
「え、何も言わずに来ちゃったのか?」ハヤオがえさのついた手をはたきながら、ぼくたちを見くらべ、ぼくといもうとがうなずくと、「そりゃたいへんだ」と声をあげた。「きっとものすごく心配してるぞ。今ごろ、村じゅうでさがしてる」
いもうとがうろたえて立ち上がった。「すぐ帰るわ」
「だめだよ。そんなにあわてて、あの道を走って帰っちゃ、海に落っこちるのがおちだよ。ちょうど満ち潮だし。あーあ、ホデリもホオリもあいかわらずだなあ、ちゃんと聞いとかないなんて」
「今さらそんな。ちょっと待ってよ」ヒルコが村のほうに開いてる窓のところに行って、「ウガヤ!」と呼んだ。ばっさばっさととんできた大きな鳥を窓わくにとまらせて、その目をじっと見てヒルコは言った。
「おぼえるんだ。こどもたちはとうだい。こどもたちはとうだい。言ってごらん」
「こどもたちはとうだい。こどもたちはとうだい。こどもたちはとうだい。ひゃひゃひゃひゃひゃ」
「まあいいか」ヒルコは鳥の向きをかえ、村のほうを指さした。「あっちにとんでけ。みんなにしゃべれ。こどもたちはとうだい。こどもたちはとうだい」
「こどもたちはとうだい。こどもたちはとうだい。へへへへへ」
鳥は大声でなきながら、ヒルコの指さしたほうへ、まっしぐらにとんで行った。
「おーい、食事ができたよう」ホオリののんきな声が、かいだんの下から聞こえてきた。
※
「ねえ、ホオリ、悪いんだけどたのまれてよ」おいしそうな匂いのするかいだんを皆で下りて行くと、ハヤオは声をかけた。「こっちの二人、うちの人にだまってここまで来ちゃったんだってさ。よその村から、かぞくで今日来たんだって」
「え、そうだったのか? てっきり村の子どもとばっかり」ホオリはあわてた。「それじゃ今ごろきっと大さわぎだ」
「ウガヤに伝言たのんで、とばせたけど、うまく行くかどうかわかんない」ヒルコが言った。「たのみって言うのはさ、せっかく食事つくってくれたばかりで悪いんだけど、あんたかホデリかどっちでも、ひとっぱしり畑に行って―」
「まかせろ。おれが行ってくる」ホデリが手でくちをふきながら、椅子から立ち上がった。「ちょうど食事の味見をして、腹ごしらえもできたとこだ。みなは食べてゆっくりしてってくれ」
「すまない。ぼくらのいたことはだまっててね」
「いつものことだよ。心配すんな」
ホデリは帯をきゅっとしめ直して、ぼくたちに笑ってみせて、すぐ戸口から出て行った。
「さあ、皆が来るまでに」ハヤオがぼくたちの背中を押した。「ホオリのつくったごちそう、ゆっくり食べてって」