「水の王子」通信(88)
タカヒメもまた日本神話では、タカヒコの妹として歌を詠む以外には、これといった活躍はしていなかったと思う。むしろ私の物語では、登場場面は少なくてもそこはかとなくかっこよく、読者の中にはアマテラス、ツクヨミとともに、彼女を好きな人物ベストスリーにあげた人もいる。
私の物語では、彼女は兄と同様にタカマガハラの次代をになう若いエリート。兄とちがって前向きで元気だが、上層部の批判なども平気で口にしてしまう大胆さや健康さもある。空の上からナカツクニの村を見下ろして、兄と二人であこがれて強く愛していた、村にとってはなくてはならなかった隠れファン(笑)。その愛情と確信が、アマテラスの行動を疑うことなく支持し協力させる原動力ともなった。
少なくとも、今のタカマガハラの若者たちには、尊敬や崇敬や守るべき対称として、タカマガハラ以外に、ナカツクニの村があった。それもまた、あるいはオオクニヌシがめざしていたことだったかもしれない。
イラストは少しすっきりし過ぎているかもしれないが、彼女はこういう感じだと思う。まだ新鮮で、未完成で、空白で、それだけ豊かな未来がある。
ひょっとしたらであるが、タカマガハラの次世代の支配者として、タカギノカミやタカミムスビは、この兄妹について、「元気すぎて危なっかしい」「無難だがものたりない」と、ワカヒコとニニギで意見が別れたときのように、またしても対立なんかしたりして。
空想の中でとは言え、こんな新世代、次世代を生み出して、期待と愛をよせることができる私はかなり幸福なのかもしれない。