発表資料(15)
くじらさん
1.論文
⑴江戸時代における合理的経済認識と儒教 藤田貞一郎,1990,社会経済史学56 巻 4 号
17世紀末・18世紀初頭以降の市場経済の発展は顕著であり,経済的価値の優位が次第に明確になり,合理的経済認識が成立する。また,儒教的倫理が江戸時代の人々の思想と行動様式に大きな影響を与えた。
⑵江戸仏教の戒律思想 (一) 上田霊城,1976,密教研究会,1976 巻 116 号
江戸時代の戒律思想について。
⑶江戸教育思想史研究 高野秀晴,2018,教育史学会61 巻 pp.149-151.
「制度(システム)」を媒介として行われる儒学的な意味での教化(きょうか)と,「口頭(オーラル)」を通じて行われる仏教的な教化(きょうけ)の2種があるとしたうえで,それぞれの人物や教育機関において,「教育」,「きょうか」,「きょうけ」のいずれが重視されたかを思想的に解明しようとする。
⑷日本経済思想史: 江戸 から明治へ
江戸時代経済思想史研究の二十年 小室正紀,2003,経済学史学会年報 第43号 ,pp.68-86.
過去二十年前後の江戸時代経済思想史研究の振り返り。
⑸江戸仏教の特質(三) : 沢庵の人と思想 高神信也,1982,智山学報31巻,pp. 133-144.
仏教学は言うに及ばず,儒学,神道和学にも造詣が深く,また自ら多くの和歌連歌謡曲などを作り茶道書画骨董にも通じ当代禅門屈指の文化人でもある沢庵を通して,江戸思想を語る。
⑹渡辺浩著『近世日本社会と宋学』 本郷隆盛,1987,史学雑誌96 巻 4 号,pp. 487-498.
朱子学と近世社会との関わりについて。
⑺寛政異学の禁における正学派朱子学の意義 辻本雅史,1984,日本の教育史学27 巻,pp. 25-45.
「儒学の大衆化 」について。
⑻近世における政治と教育 : 儒学思想との関連 辻本雅史,1999,日本教育学会大會研究発表要項58 巻,pp. 32-35.
儒学思想と実際の政治・政策との関わりについて。
2.まとめ(個人的な予想です・・・。)
ここまで論文を読んできて,江戸時代の「理屈っぽさ」というのは,少なからず「朱子学」の影響があるように感じる。朱子学というのは,12世紀の中国・南宋の儒学者だった朱熹によって構築された,儒教の新しい体系である。朱子学の基本は,世の中のすべてのものや事柄は「理」と「気」の2つからなるとする「理気二元論」というもので,「理」は万物がこの世に存在する根拠を指し,「気」は万物を構成する物質を指す。両者はまったく別の存在だが,お互いに単独では存在することができず,付かず離れずの距離で相互に作用しあう「不離不雑」の関係とされている。
朱子学といえば,江戸幕府が奨励したことで知られているが,高校の日本史の授業で,その大まかな概要として,「君臣の別をはっきりさせる,つまり自分よりエライ人の言うことはちゃんと聞けよ!主君の命令には従えよ!」という封建制度を守るために適した思想であると説明を受けた記憶がある。
また,儒学創始者の孔子が,「君は君らしく,臣は臣らしくあれ」ということを言っているように,儒学は争いの世界をなくすために秩序というものを非常に重んじる。このことから,「朱子学」という思想教育を幕府が推し進め,ひとつの考え方を絶対とし,その他の考え方を排除したことで,「こうあるべき」という論調が強まったのではないだろうか。それが,江戸時代の「理屈っぽさ」,「物事の筋道をたてる考え方」につながるのだと思う。
人々の思想というのは,案外その時代の「宗教」に関係しているのかも知れない。江戸時代には「朱子学」が流行った訳だが,現代ではどうだろうか。正月には「神社」に行き,お盆には「お寺」に行き,結婚式は「教会」で行い,ハロウィーンやクリスマスを楽しむ・・・。見ての通り,ぐちゃぐちゃである。このような状態は,江戸の人々(特に鎖国前)には考えられなかったのではないだろうか。このような寛容性が,現代人が「理屈っぽさ」を失う原因のひとつだと考える。