2021年「古典文学講義A」のレポート(8)
ヒーローたちの描かれ方
——「ダイの大冒険」におけるヒーローの在り方の違い
1、「ダイの大冒険」とは
堀井雄二(監修)、三条陸(原作)、稲田浩司(作画)というメンバーで、1980年にジャンプにて連載が開始された、少年漫画。スクエアエニックスからでている、ドラゴンクエストシリーズの世界観や設定をもとにした作品で、王道少年バトル漫画。近年再アニメ化に伴い、外伝漫画が連載開始された。
「ダイの大冒険」はドラゴンクエストシリーズが元になっているため、いくつかのお約束を踏襲している。
・勇者と呼ばれる職業があること(シリーズによってはないものもあるが、その場合も主人公は特殊な出生をもっている)。
・勇者には仲間のパーティがいること。
・勇者は旅に出る存在であること。
他にもいくつかあるが、今回はヒーローの在り方に特にかかわってくるこれらのものを取り上げた。ドラゴンクエストシリーズにおける、ヒーローと呼ばれる代表的な属性がこの【勇者】である。本作では、勇者と呼ばれる存在は二人いる。それに加えて今回は、この作品の主人公とされるポップという人物の三人を取り上げ、それぞれのヒーローとしての在り方、心理の描かれ方についてみていきたい。
2、「ダイの大冒険」に登場するヒーローたち
〇ダイ 12歳
・当代の勇者。人間と竜騎士のハーフ。
・物心ついた時には父母はおらず、父親代わりの魔物によって育てられた。
・幼いころから、勇者になりたいという夢を持つ。
・性格は無邪気。パーティの中でも最年少であったのもあり、純粋。
・人間とは違う種族の血が入っていることによって差別を受け苦しむが、ポップの言葉によって吹っ切れる。
・「みんな」のために自らの身を犠牲にすることを問わない。
・竜騎士である父と、敵として後に再会。複雑な思いを抱えていたが、最終決戦前に和解する。
・最終決戦後、あたり一帯をすべて吹き飛ばす爆弾から皆を守るため、その身を挺して庇う。生死不明に。
※島(閉鎖的な環境)に住む人→旅人というように属性が変化している。
【勇者】【人外】【苦悩有(種族差によるもの)】【自己犠牲有(友、世界を守るため)】
〇ポップ 15歳
・当代の勇者パーティの魔法使い(のちに賢者に)。
・ひょうきんなお調子者。基本的には臆病だが、仲間のために立ち上がる強さを持っている。
・咄嗟の機転が利き、禁呪とされる魔法を戸惑いなく使う思い切りの良さを持っている。
・物語最終盤では、戦闘の中でも状況を判断し、打破することのできる冷静さも兼ね合わせるようになった。
・ランカークス村にある武器屋の一人息子として生まれ、たまたま町によったアバンに頼みこんで弟子になる。
・旅が始まった当初は、恐怖のあまり仲間を見捨てて逃げたり、修行を面倒くさがったりと、頼りない存在だったが、物語を追うにつれて成長、強さだけでなく、仲間全員の士気を高めるという点で、ダイよりも恐ろしい存在として大魔王に脅威とされる。
・最終決戦前には、自分がただの人間であり、特別な力を何一つ持っていないことに苦悩する。
・ダイの相棒であり、人間。
・最終的には大魔王との決戦にて、無敵の大魔王を打ち破る決定打となった。
※村に住む人→旅人というように属性が変化している。
【相棒】【人間】【苦悩有(力の有無、立ち向かうことへの恐怖、自分が戦う意味についてなど)】【自己犠牲有(友のため)】
〇アバン 31~33歳
・先代の勇者。魔王をかつて倒した存在。人間。
・外伝作品がある。
・当時は、カール王国の騎士として立ち上がった。
・魔王を倒したその後は、いずれ訪れるかもしれない未知の脅威に立ち向かうために、旅をして次世代の勇者やその仲間たちを育てる。
・勇者・僧侶・魔法使い(賢者)・戦士というパーティ
・温和で、誰に対しても丁寧。敬語を使って話す。若い頃は女性にもてていた描写が外伝にて描かれている。
ただし、敵に対しては敬語を使うのをやめ、むしろ皮肉げな言葉を残す一面もある。
・物語冒頭、復活した魔王から弟子(ダイ・ポップ)を守るために、命と引き換えの自爆呪文を使って物語から退場。
・しかし、物語終盤に実は生きていたことが発覚。戦線へと戻る。
・勇者としての力はダイに遠く及ばなかったが、高い技術力や機転の利き方、咄嗟の判断力や一歩下がって見守る冷静さなどで、ダイにはないステータスを持ち、皆の士気をあげる存在として大魔王に脅威とされる。
※騎士→旅人というように属性が変化している。
【勇者】【人間】【苦悩無(あることは推測されるが描かれず)】【自己犠牲有(弟子のため、世界を守るため)】
3,これらの対比から考えられること
このように、ダイの大冒険にはそれぞれ描かれ方が違うヒーローが三人登場する。特に、ダイとポップについては、それぞれ苦悩が描かれている回がメインとして存在したり、そもそものテーマが「成長」ということであったりと、ヒーロー側の心理は克明に記されている。確かに、ダイもポップも、それぞれまだ18にもなっていない、現代でいうならまだ子供と数えていい年齢である。それにも関わらず、勇者として立ち上がり、世界中を旅するのだから、様々な悩みがあってしかるべきだ。同時に、この二人は相棒関係であるから、この二人の絆を描くという点でも、等身大の悩みは話の展開上必要になってくる。
それに対してアバンは、もちろん先代の勇者であり、話のメインとなってはいけないという制約ももちろんあるが、勇者としての苦悩というものはほとんど見て取ることができない。本編にて復活したのちにも、年長者として苦悩を聞いたり、道を切り開く立ち位置であることがほとんどである。外伝作品ではアバンが主人公となって、その旅路が漫画となっているのだが、その作品においても、どちらかというと仲間メンツの悩みを聞くほうが多く、アバン本人の悩みにフォーカスをあてた回はまだない。
このように、同じ作品の中でも、ヒーローの描かれ方には大きな違いがある。それは先代と当代の違いであったり、年齢の違いであったり、登場頻度の差から生じるものであるが、それでも、アバン本人の旅の際にも、苦悩が一切見受けられないのが興味深い。この背景には、アバン本人の旅はあくまで外伝であり、すでに完成された人格をベースにして連載がされているということが考えられる。いずれにせよ、完成されたヒーローの象徴であるアバンと、回を追うごとに成長していくヒーローであるダイとポップの対比は非常に興味深い。