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「アラビアのロレンス」を見て。

昨日、あ、もう一昨日か、「アラビアのロレンス」の「午前10時の映画祭」が、こっちでは最終日だったんで、行って来ました。4時間あって死にかけました。楽しんだけど。

「ベン・ハー」のときの大きなスクリーンから小さいスクリーンに移されてて、10時からの回ぐらいは大きなとこでやればいいのに。大きな方でやっていた、新しい映画より、よっぽど客も入っていたし。

腹が立ったので帰ろうかと思いましたが、予告編で気になっていたラッセル・クロウの「ロビン・フッド」があったりして(私はラッセル・クロウもロビン・フッドも好きですが、この二つのイメージというのがまったくもう結びつかず、正直のとこ、ポスターや予告編を見れば見るほど、微妙な気分になります。だからもー、何十回も言ったような気がするけど、同じ英雄やるんなら何で、ウィルヘルム・テルやってくれないかなあ。イメージぴったりなのにさ)、ついついずるずる居すわって見てしまいました。

まあでも、それでよかった。私は「アラビアのロレンス」は最初の公開から何度かのリバイバル上映までふくめて、少なくとも50回は見てるもんで、画面や字幕をほとんど覚えてるんですよ。それで「完全版」のDVDを買ったとき、見てない場面が出て来るので、なんか居心地悪くて、結局見てないままなんです。

はじまってすぐ気がついたけど、今回の上映って、その完全版なのね。私が何度か見たやつでは、最初の事故のあと、葬式の場面は皆が階段下りてくるとこからいきなりはじまるし、ロレンスがカイロでマッチで遊んでる最初の登場場面も少し長い。アウダが「歓迎しよう、ワジ・ラムで!」と言ったら、そのすぐあとにもう大きな料理のかご?がロレンスたちの頭ごしに運ばれていく場面だし、ダウドたちを連れてシナイ半島を横断するときに、「白いシーツで寝たことあるか?」という会話も今回初めて出てた。アレンビイたちの会話とかも増えて、話はずいぶんわかりやすくなってる。「皆殺しだ」と叫んでトルコ軍を壊滅させる場面で、明らかに両手をあげてる敵を正面からロレンスが拳銃で撃つカットも、今回初めて見た。

その一方で、鞭で打たれる場面は最初に比べて、少し短くなってるけど、これはリバイバル上映のときもそうだったようだし、新聞記者のベントリーが初めてインタビューに来る直前にファラジが「来ます」とロレンスに教える場面は、あったりなかったりするが今回のではなかった。

などと、いろいろ気づきながら見ていてやっぱり思うのは、あたりまえだが名作だなあということで、政治的歴史的な知識を得る楽しさ、砂漠を満喫する楽しさ、男たちの美しさを見る楽しさ、勇壮な戦争絵巻を見る楽しさ、自意識過剰で夢想家でカリスマ性や行動力も持つ人間の心理を見る楽しさ、人が映画に求めるあらゆる要素がてんこ盛りのぎゅうづめで、しかも格調があって良質で、まいりましたという他ない。見ている間中ずっと、あらゆる五感と感情を刺激されつづけ、陵辱されている気分だ。

字幕もねー、アウダがロレンスの説得に負けて「おまえの母はさそりとつるんだな」と公開時の字幕では言ってたのが、その後「年は若いがうまいことをいう」と、パンチにかける字幕になってて、今回は「おまえは魔女の息子か」だった(笑)。アウダがアリに「おまえの父の盗みはまだやまないか」と言うとアリが「私の母がおまえの父と寝たとでもいうのか」と言い返したりするのは、すっかり簡単に「おまえの仲間といっしょにするな」になってたし。
それからロレンスがトルコのベイに、サーカシアのバカな若者のふりしてるとき、「だんなさま」という字幕のとこ、「サー」じゃなくて「エフェンディ」と言ってたんだと、今回初めて気がついた。そっか、トルコだもんなー。

と言い出せばもう、とめどがないのでこのへんにするが、機会があったら、ぜひもう一度、巨大な画面で見たいなあ。友人が「前半の主役は砂漠やな。後半のぐちゃぐちゃは、もうどうでもいい」と言ってたが、私は最初に見た時は後半の方がむしろ好きだった。特に何度も見る内、好きになってきて、今では涙が出そうになる(いい意味で単純な「ベン・ハー」にくらべて、繊細で重厚な感情の交錯が多い分、かえってほとんど泣けないのだが、ここだけは泣けそうになる)のは、いったん普通になりたいと思ったロレンスが、いろいろあってダマスカスをめざそうと、ふたたび兵を結集する場面で、彼の心境を思っても泣けるが、それ以上にアリやアウダや、それぞれの初期の仲間がロレンスのためにはせ参じながら、もう彼がどこか以前の彼ではない、大きな歯車の中にいて、その決意も犠牲も自分たちにはわからないことが何となくわかって、それでも参加している姿が、ほんとに泣ける。手を振るアウダ、らくだを立ち上がらせるアリ、どちらも一瞬の映像だが、目にやきついて、胸が苦しい。

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カツジ猫