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「ダウントン・アビー」断想(6)

元運転手のトム・ブランソンに関する、こちらの書き込みを拝見して、笑いこけてるんだけど。いやもうまったく、そのとおりだし。

つけ加えると、TVシリーズの終わりでは、イーディスんとこの女性編集長といい雰囲気になりかけてた。この女性は、ときどき英国の女優さんについて悪口言われるように、そんなに美人ってほどじゃなかったけど、それまでの人に比べればずっと素敵で、ブランソンとくっついてもお似合いと思わせた。最後にはイーディスのトスしたブーケを拾ってたし、そのそばにはちゃんとブランソンがいたし、きっと結ばれるだろうと露骨なぐらい予想させてた。

でも、映画では、その編集者はどこかに消えちゃって、代わりにブランソンは、とんでもない玉の輿に乗りそうになってる。もしかしたら、名門貴族の相続人の婿になって、城主にでもなるんじゃなかろかって予想させる。そして、この女性がまた、性格外見もろともに、極め付きの美人と来てるから、祝福したい一方で、そううまく行くのかと心配にもなる。

こういう書き方でもわかるように、私はブランソンが最初から、わりと好きである。「麦の穂をゆらす風」なんかの映画で、アイルランド問題を少しは知ってたというのもあるし、ぶっちゃけ社会主義者ということだけでも、親しみを感じていた。

もともと屋敷の運転手だったのが、三女シビルとの駆け落ち騒動から結婚、シビルの出産と死など、これまたいろいろあって、彼は屋敷の一員として家族の中で暮らすようになるのだが、社会主義者としての立場は捨てず意見も変えず、異質な存在であり続け、そのことに深く悩み続ける。そして一時はアメリカに去って生活するのだが、戻ってきたあと、「資本主義に感銘を受けた」と言っているから、貴族社会は否定していても、もう社会主義者じゃないのかもしれない。

いずれにしても彼は常に自分の思想や立場や主義主張を隠さないし、嘘をつかない。一方で、家族への愛や人間としての節度や常識を守る。その正直さと誠実さが、彼を皆に受け入れさせ、老伯爵夫人に最も信頼されるほど(「旅行中の連絡先は彼だけに教えておくわ。一番冷静だもの」)家族にとって欠かせない存在にまでする。

とは言え、賓客の将軍に汚水をぶっかけようと計画し間一髪で阻止されたように、当初は危険極まりない行動もしている。そんな彼をいろんな事情があるにせよ、屋敷にとどめ、一族にとりこんだということは、逆に伯爵家一族の強さを示してもいる。家族にせよ、国にせよ、会社にせよ、共同体にせよ、異質なものや危険なものを排除し、純粋なもので固めようとすれば、必ず弱体化し、衰退化するのだ。

そうなった一族や一家の例を、終盤のトーマス・バロウが新しい職場を探していろんな屋敷を渡り歩く場面で、ドラマは、いやというほど見せつける。過去の栄光を夢見るように語る荒れ果てた館の主や、ひっそりと凍結したような日常を過ごす夫妻の館などに、異質で危険なものを排除しつづけて、自分たちの伝統を守ろうとした一族の成れの果てを私たちはまざまざと見る。それは美しくも悲惨で苛酷な映像の数々だ。

バロウと言えば、彼はブランソンを最も敵視し、もともと目下の運転手だった彼に従僕としての世話などできないと怒り心頭だった。しかし、そんな彼でも他家の従者からブランソンが攻撃批判されると、決して同調はしないし、終盤ではそれとなく反論して、かばっている。長女のメアリーをはじめとした家族は、シビルへの愛もあって、ずっと早くから彼への攻撃に対しては団結して反撃する。

このように、さまざまな危険をはらみつつ、誠実で共感できる存在に対しては、仲間とし家族として認めて行く、柔軟さと強靭さ。勇気としたたかさ。それがあるから、この一族は生き残り栄える。それはあるいは庶民から王室まで含めて、英国という国そのものの持とうとして来た強さなのかもしれない。

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カツジ猫