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「大学入試物語」より(22)

2 オフィスアワー精神

私は二年ほど前にめでたく定年退職した。これだけ好き勝手なことを言ったりしたりしていて、よくも無事に定年までいられたものだと思うと、どこかで誰かがその分苦労もしたのだろうと落ちつかない気分にもなるが(一度、交通規制の取り締まりに命をかけている大物の先生から、ごちゃごちゃ文句を言われたとき、私は「うるさい、バカヤロ~」とどなって車で走り去ったのだが、その直後に通りかかった同じ学科の別の若い先生が、私のことで一時間ちかくお説教されたということを、ずっと後まで知らなかったことがある)、まあそれはさておくとして、今の大学の研究を支える環境は悪い方に日進月歩のようだから、もはや私の知っている状況以上に現場はひどいことになっているかもしれない。かつての若い同僚に会うと皆口をそろえて「いい時にやめられましたね」と言って下さる。あまりそれを聞かされると、つい、わ~、面白そう、そんなひどい状況ならそこで何か抵抗してみたいなと、退職したのが残念に思ったりするが、相手が激昂しかねないから、さすがにそれは言えないでいる。

しかしまあ、私に限らず古い世代ほど平気で抵抗もできたのかもしれない。思えば私が現職のころ、文部科学省がこうでああでと愚痴をこぼすと、退職された先生は不思議そうに「いや、そういうことは昔も文部省は言ってきてたよ。僕らが相手にしなかっただけで」と言われ、「何でそんなことにいちいち対応しているんだ、放っておけばいいのに」とまで言われたかどうか覚えていないが、そういう雰囲気だった。ちなみに、そこまで書いたらこの先生がどなたかわかるかもしれないが、昔、センター入試か共通一次か忘れたが、その方は入試の監督をしていて、昼休みにウナギか何か食いに行こうと何人かで食べに行って、午後の開始時間に遅れ、総責任者の某先生から皆の前で、たっぷり怒られたそうで、でもその話を私にしてくれた時、「○○先生がさ~、握りしめたこぶしをぶるぶる震わせて怒ってるんだよね~」と、あまりというよりまるで恐縮している風情はなかった。聞いた私も、ちょっとはあきれたが、多分今だったらもっとのけぞったにちがいない。そういう先生がいて、そういうことが起こる可能性がそのころは、まだあった。
(ところで、この前ひさしぶりに、「ある受験生の手記」で有名な久米正雄の短編集を読んでいたら、多分実話にもとづく一編で、旧制高校の入学試験で学長先生は試験会場の一受験生に、平気で声をかけてはげましていた。それを読んでも誰も驚かないほどに、試験というのは、ゆるかったのだ。ついでに言うなら、先日来のオリンピックで、周囲で別の競技が行なわれていて、わあわあ歓声があがったりする中で、集中してやり投げとか高跳びをして記録を出している選手たちを見ていると、あの大学の受験会場の「実力を発揮させてやるための真空地帯の無菌室」状態が、あらためてつくづく異様に見えたものだ。)

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カツジ猫