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「阪急電車」の悪口(7、いくら何でもこれで終わり)。

翔子は、その可能性をまったく考えていない。自分のこれまでの実績や築き上げてきたものからして、職場での評価は盤石と思って疑わず、それを自分の支えにしている。
しかしなー、電車の乗客以外に、この状況下で相談にのったりキビシイこと言ってくれる友人もいなかった、あんたの人間関係って、それどうよ。職場での人脈や支持母体っつったって、あんまり期待できるもんじゃなさそうだぞ。

なんか、こうやって見てくると、彼女は自分とも厳しく向き合わないが、他人ともしっかりした関係結べてなくて、頼りない男をひっぱりまわすことで、自分の力を確かめていて、漠然と自分はできる女と思ってて、適当にヨイショしてくれる周囲にすがって自分を信じて生きてるだけの、すごく実体のない、スカスカの女に見えてくる。これじゃ婚約者も、それを見抜いて、したたかなカマトト女の方がましと思ったんじゃないかって思えてきてしまうんですけど。

特に、彼女があれだけの非常識な行動したら、職場や周囲はそれでも彼女を支持するんでしょうか。世間はおおかた結局は、強い方につき、勝者につくもんで、何だかだって、結婚して社会的に認められて、近く子どももできる夫婦を、そういつまでも悪者にしたり攻撃したりなんか、絶対にしません。翔子から、新カップルに乗りかえるきっかけを、誰もが多分そろそろ求めてる。
そこへあの結婚式のニュースが飛びこむ。職場の声が聞こえるようだよ。「痛快ねえ」「スカッとした」なんて、絶対になるもんか。「かわいそうにねえ、翔子さん」「でも、そこまではちょっとねえ」「ご夫婦もかわいそう」「翔子さんて、恐いよね」「前から、ちょっと変わってた」「何するかわからない感じ」「つきあってると何されるかわからない」「彼もそういうとこあったから別れたのかなあ」「ひどいと思ったけど、今度の事件の話聞くと、わかる気がするよね」エトセトラ、エトセトラ。むしずが走るけど、人の評価って、こんなもんですよ。
特に、結婚式をぶちこわす女に同性はまず近づきません。そんなことしでかす人間に、上司は仕事をまかせません。へたすりゃ、次の職場にまで、その噂はついてまわる。

問題は、翔子が、こういうことのすべてを、まるっきり、ちらとも予測してるように見えないことです。それはどう考えても、あんまりなんじゃありますまいか。そういう人がほんとにいるとしたら、どう考えても、したたかカマトト女以上の未熟で幼稚な欠陥人間です。しかも自分は、被害者で、人生で損をしてると常に思っているんだよ。やめてよねもう。近づきたくないなあ。部下にも上司にも同僚にも家族にも妻にも友人にも隣人にもほしくないなあ、こんな人だけは。
が、しかし、最初に書いたように、実際に最近こういう、一見できそうで常識人で、その実とことんどっかが欠落してる人って、増えてるような気もする。案外、「阪急電車」は、そういう人物がきっちり描かれてるって点で、立派な作品なのかもね(笑)。

あ、そうそう。
ちなみに映画は、前にも書いたけど、あらゆる点で、私が気になった、こういう部分を省いて、矛盾を薄めています。たとえば職場が翔子を支持してるなんて描写は皆無です。そういう点では映画は限界まで、小説を私のような人間に受け入れやすくしてくれている、ある意味名作だと思います(笑)。

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カツジ猫