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『いのちの初夜』の力強さ

別に選んだわけでもないのに、最近気晴らしに読みとばす文庫本が、どれもこれも、ありとあらゆる理由で重っ苦しくて憂鬱になるものばかりで、これはこれで妙に楽しくなるのがいけない。

その中のひとつ、ハンセン病棟を題材にした北條民雄『いのちの初夜』は、きれいな文庫本の新刊が出てたので、つい買ってしまった。高校か中学のころ一度読んでいて、そんなに拒否感とか恐怖とかはなく、むしろ清々しい力強い気持ちになった。それは今回も変わらず、まあそりゃ、当時は差別されて、治療も進んでいない不治の病気で、人々の悲惨に崩れて行く身体の様子もしっかり描かれており(何しろ作者が患者だから、気遣いも遠慮もまったくない)、ひとつまちがえばホラーになる内容なのに、まっすぐに突き抜けた崇高さが漂い、人にもよるだろうが、今読んでも腹の底から妙な力がわきおこって来る。つまりこれは正々堂々文句なしの絶望と陰々滅々なのだが、だからこそ、別に落ち込んだりはしなくて、迫力だけが押し寄せる。

若い、というより幼い時に読んだのに、文章もあちこち覚えていた。飾り気がなく大げさでなく、病的な甘えのないしっかりした文章だから、記憶に残りやすいんだろう。
 昔とちがったのは、療養所で生まれる赤ん坊の話が、この短編集の中にはいくつか入っていて、これが素直に私を納得させ幸福にしたことだ。
 忘れもしないが、私は昔、テレビドラマなどでよく、ラストに誰かが子どもを生むと、それまでの対立も葛藤もすべてかき消されて、敵も味方もその他も皆が喜び、ハッピーエンドになるという安易な展開が、吐き気がするほど嫌いだった。あれだけご都合主義に出産や新生児を利用しまくった筋書きの駄作を山ほど見せられて、よくぞ私が子どもや幼児や出産にあんまり拒否反応を持たないままにすんだと、自分をほめてやりたいぐらいだ。あんなものを垂れ流していた文化に染まったから、しょうもないことを口走る宮若市長みたいな人も、きっと増えたのにちがいない。

『いのちの初夜』を読んだころ、私のそういう「安易な展開に出産を利用しまくる設定嫌悪感」が、どの程度生まれていたかは知らないが、とにかく私は『いのちの初夜』のそんな場面に特に感動はしなかったけど、別に反感も持たなかった。他の多くの場面と同様に、特に覚えてもいなかった。

それが今回、はっきりと、子どもが生まれる場面の救いを、私は抵抗なく受け入れたし、まちがいなく幸福も感じた。年をとって私の何かが変わったのか、それとも世の中がまっとうに変わってきたから、本来のそういう場面の救いや輝きが味わえたのかな。どっちにしても、悪いことではなさそうだ。

ちなみに、他の憂鬱になった本とは、有吉佐和子『青い壺』、寺地はるな『どうしてわたしはあの子じゃないの』、瀬尾まいこ『その扉をたたく音』、朝倉かすみ『にぎやかな落日』、モンゴメリ『アンの娘リラ』、燃え殻『すべて忘れてしまうから』、などなど。いや、いいものもあるんですけどね。まあ、ぼちぼち説明します。この中で一番げっそりしたのは『にぎやかな落日』でした。何とゆーかもう、生煮えなんよねえ、何もかもが。

せっかく昨日ちょっと書いた毛皮のコートを見せびらかしたいと思っていたのに、朝から雪がちらついて、車を出すのが恐くなり、家にこもって過ごしている。食料はわりと確保しているから何とかなるが、運動のためにも本当は買い物に出かけるか、庭仕事をしたいんだけどなあ。

書きそびれてたけど、何をかくそうこのコート実はミンクだ。毛皮は最近人気がないけど、それでもネットで見るとたいそうな値段のものもある。
 叔母が買ってくれた私のこれは、ものすごい派手な水玉模様で、ちょっと見には、とてもそんな高級品には見えないけど、知ってる人は「きもちいいー。さすがー」と言って背中をなでさすってくれる。せっかくだからミンクの鳴き声で応えようと思うのだが、どんな声だか見当がつかない。つい、それもネットで調べたら、そこそこすごい声だった。かわいい画像もあるのだが、相当凶暴な動物だと昔どこかで見たような気がする。

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カツジ猫