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あ~、例によってまた

入試不正行為事件をきっかけに、またバカのひとつ覚えのように、マスメディアの大学教員たたきが始まっていますね。
いわく、「入試監督をいいかげんにする教員が多い」「居眠り、採点、私語をする監督官もいて、受験生から抗議があった」「大学教員の間では試験業務は『雑用』と言われている」エトセトラエトセトラ。

私も自分の周囲しか知らないと言えばそうですが、こんな話を聞くと正直どこの惑星の話かと思ってしまいます。まあ世の中にはそんな監督官も存在するのかもしれないし、そんな実態もどこかであるのかもしれません。
だからあくまで私の体験と見聞だけの話ですが、こんな報道はまったく実態とちがうということは、何度かサイトの掲示板にも書きました。

ただ書きながら私も非常に危ない橋を渡っているな、電話で問題を投稿する受験生もどきの危険を冒しているな、という自覚は常にあります。入試業務は機密事項です。だから、どんな苦労をしているか、どんな作業をしているかを、いちいち細かく書いたら、それはそれで首が飛びます。

言いかえれば報道関係者の方も取材がしにくい分野なんでしょう。それでも書くからには、せめて、もっと真剣に広範に正確に取材をしてほしいし、機密事項にも切り込んでほしい。そうでなければいっそ書くべきじゃない。憶測、推測、既成観念で話をでっちあげるのはジャーナリストとして最低でしょう。

もうずっと前、大学が入試問題を「外注」しようという動きがあるという記事を書いたある新聞が、「大学教員の間では入試問題作りは研究の妨げになるからやりたくない、という声もある」と、さもしたり顔に紹介していて、その時も私はずいぶん怒りました。

私は入試業務はもはや大学教員にとって「雑用」どころか年間通して主要な仕事になっていると思います。以前は最低限確保されていた夏休みも今はまったく休めません。休むといっても、それは自分の研究をする時間として保障しておかなければならない期間で、ここに会議や他の業務を入れられたら、研究も教育も、あるべき水準は保てません。

入試問題が研究の妨げになっているかというと、もちろん大いになっています。しかし、その妨げになりようが実際どれほどすさまじいものか、マスメディアも一般の方々も、おそらくまったくご存じではない。その実態を知りも、知らせもしないまま、大学教員は研究を口実に怠けようとしているという図式に安易にあてはめるのは、もういいかげんにやめてほしい。ひまで優雅な大学教員の生活など、もう何十年も前に終わっていますよ。大学教員の毎日の実態がどんなものか、少しはリサーチした上で、コメントはしてほしい。

私は今回「江戸の紀行文」という本を運よく出版することができましたが、本当ならあれは何年も前に書いておかなければならなかった本です。今とりかかろうとしている次の仕事も10年以上かかっています。受験生や学生に責任ある仕事をきっちりしようとしていたら、この10年間、まったく自分の研究はできませんでした。この状況は日を追って加速してきていて、今の現職の先生方はもっとひどい状況になっています。

昨日も書きましたが、何年も前から入試でやっている注意の映像を、今回の事件で新たに始まったかのように流すなど、テレビも新聞も本当に雑で無責任な報道ぶりです。くりかえしますが、これは入試が機密事項であるために公開できないことが多すぎるのも一因でしょう。しかし、少なくとも「自分の研究に没頭して、怠けたがっている教員」というイメージを蔓延させるのは、もういいかげんにやめませんか。

私はモンスター・ペアレントということばも発想も好きではありません。しかし、そういうことが嘆かれる状況にしたのは、小中高校の先生の多忙で過酷な実態に目をつぶり、先生方の不祥事の報道もふくめて、常に先生と学校を批判的にとりあげて、それが「保護者と生徒の側に立つ」報道とうそぶいてきた怠けものたちの姿勢にも少なからぬ原因があると感じています。大学の抱えるさまざまな問題を考えるのにあたって、それをくりかえしてほしくはない。手あかのついたほとんど100年前の大学像、大学教員像で話をするのは、そろそろ終わりにしてほしい。

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カツジ猫