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じゅんぺいくんの最初の狩り

あーあ。
何日か前、物置で子猫のじゅんぺいにミルクを飲ませたり、毛をすいたりしてやっていたら、壁に中ぐらいの大きさのクモが這っているのに気がついた。
外に逃がしてやろうと、そばにあった火ばさみではさもうとしたが、クモもすばしっこいから逃げてどこかに行ってしまった。

隠れるところはたくさんあるし、子猫におめおめつかまるようなバカなクモもいないだろうと思ってそのままにしたが、それからもときどき出て来て、窓枠や壁を這って移動している。灰茶色のみごとな保護色だから、じっとしていたら気づかないが、何しろ猫というのは視力は大したことないが、動体視力はものすごいとかいうから、ごそごそ動くとじゅんぺいは目ざとく見つけて追っかけたり、飛びかかったりしていた。クモも上手に逃げ回って棚の裏などに逃げ込むので、私は遊び相手にちょうどいいかと思っていた。

じゅんぺいは、隣の部屋にも行けるようになって、行動範囲が広がったのもあって、毎日二つの部屋を走り回ったり、窓辺に座って外を見たりして、黒猫のみなきちがいなくなったのを、そう淋しがっている風でもない。とはいえ、子猫の運動量というのはものすごく、私がおもちゃで遊んでやって、飛んだりはねたり転がったりさせても、少々のことでは疲れない。
私だって忙しいので、途中で切り上げて、ものたりなさそうな顔のじゅんぺいを残して物置を出ることもあり、そんな時には、どこかにひそんでいるクモさんに「あとは頼むよ」と声をかけたりしていた。

今夜もひとしきり遊んでやって、エサをとりかえて、灯りを消そうと戻って行くと、じゅんぺいがアルミサッシのガラス戸のしきいのあたりをかぎまわって、しきりとそのへんをさぐったりひっぱたいたりしている。
彼は私が抱くとぐるぐるのどを鳴らすし、少々もみくちゃにしても恐がりも怒りもしないが、そうべたべた私に甘えるわけでもなく、むしろすぐにかけよって来ていたのは、みなきちだった。じゅんぺいはわりと淡白で、私が行っても飛びついて来るという感じではない。他の物に興味があれば、そっちに集中する。

だから、何か気になる木の枝か羽でも見つけたのかと思いながら、のぞいて見たら、見覚えのある灰茶色の手足を丸めて、クモさんが敷居の上にくたばっていた。死骸になっても保護色だからじゅんぺいは見失って、あたりを探していて、やっと見つけて、そこにいたかという感じでひっぱたいて見たりしている。
クモはとても素早いし、じゅんぺいの登れない高いところに行ってしまえばどうってことなく安全なのに、よっぽど不意を襲われたのかなあ。気の毒なことをしてしまった。

それにしても、じゅんぺいはハンターとして優秀なのかしら。
最近はそういうのはよくないと猫の育児書には書いてあるようだが、私の子どものころは、大人たちは、よく子猫の首根っこをつまんでぶらさげては、後脚をきゅうんと縮めて丸めたら、これはねずみをよく取るぞと言い、だらーんと伸ばすと、これはだめだと言っていた。もしかしたら、それで捨てるかどうか決めたりしていたこともあったのではないだろうか。
じゅんぺいとみなきちが、まだ小さいとき、私はつい出来心で、昔の大人がしていたように、こっそり二匹の首をつまんでぶらさげて見たことがある。二匹ともみごとにくるんと後脚を縮めて、私はどちらも狩りは上手になるのかもしれないと思ったりした。

ともあれ、クモには気の毒だったが、じゅんぺいの最初の狩りは成功したわけだ。
こうなると、ちょっと心配なのは、すごく効能のあるゴキブリ駆除剤を私は家のあちこちにおいていて、このエサを食べたゴキブリがたまーにひっくり返って死んでいるのに出くわす。死にかけのやつにじゅんぺいが遭遇して、殺して食いでもしたらえらいことになる。どうしたらいいんだろう。いっそ、駆除剤を片づけて、元気なゴキブリを走らせていた方が安全なのだろうか。まさかねえ。

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カツジ猫