1. TOP
  2. 岬のたき火
  3. 日記
  4. それならまだ良いのですけれど

それならまだ良いのですけれど

じゅうばこさん

探りたくもない、探ったらそれだけで手が汚れそうな他人の脳内という物はあるものですから、どうでも良いと言えばそうですが、そのヘルパーさんは、私が家に居るのに、正確には家の近くに居るのに、母の食事の世話や掃除をしないのが娘としてあらまほしくない、母が可哀想という感覚の方ではないかと思います。

家族が側に居るのなら当然家族がするべきというこの感覚を克服する所から介護保険の発想は始まると思いますが、現場ではまだその事は充分理解はされて居ません。

どのようなサービスを受けるかはケアマネージャーと事業所で相談して確定するし、その資料として介護度の審査が行われて居る訳です。ですから、それに基づいて指示を受けてヘルパーさんは来て居る訳ですから、その仕事をするだけに専念し徹底して頂きたいのですが、自らの家庭観に基づいて家庭の在り方を変えようと言う「積極的」な姿勢の方も居られる様です。

私の事情や、家人でも仕事をして居る場合は家事は出来ない場合もある等は既に何度も申し上げたから繰り返しません。
一つだけ申し上げて置くと、「同居して居ない家人が訪れたらその時だけでも介護をすべきだ」という発想や規則は、介護を必要とする老人をますます家族から遠ざけ、孤独にします。

亡くなった叔母の時もそうでしたし、今の母の場合もですが、自分の仕事や生活で多忙を極める家族としては、仮に老親の家に訪れた時、そこでお茶でも出して貰えて、食事も出して貰えて、整えられたベッドで眠れたら、つまりは其処で幾分かでも休養出来たら、また来ようかと思う物です。何度でも来たくなる物です。
叔母はそれがある程度分かって居て、私が行くといつも自分のベッドで何時間か眠らせてくれました。それだけでも助かりましたが、経済的に余裕のあった叔母が、人を雇って快適な環境を作って私をお客扱いしてくれたら、私は毎日入り浸り、その事は叔母をどんなにか幸福にしたでしょう。

別居して居る家族が老親の許に三日間行くとは、職場と家庭の仕事の三日分を、その前後に押しやって集中させてこなさなくてはならないと言う事です。そうやって普段以上の仕事を片付け、疲労困憊して電車に乗るか車を運転するかして、動けない程疲れて老親の家に着くと玄関に入ったその瞬間から会話の洪水に見舞われ、仕事が次々押し寄せる。それをこなして息も絶え絶えになって休む間もなく又帰途に着く。自分の家に帰れば自宅でも職場でも、溜まった三日間の仕事が待って居る。
極端に言うと、三日帰ろうと思ったら前後含めて十日近く拷問に近い忙しさが押し寄せるのです。その全てが終わった十一日目には「二度と行く物か」とまでならなくても「当分は行くのは止めよう」とならざるを得ません。そして次に行く時には、例えば親の家で二日間、帰省の前後に二日間余分な休み時間が取れないと到底無理だと判断する。そうすると、そんな長期の休みは取れないから、もう半分永遠に親の所には行けなくなる。

「家人が家に居たら親の世話をするのが当然、ヘルパーは不要」という考えや感覚の行き着く先はこういう事でしかありません。それは一人暮らしの老人から家族親族をどんどん追いやるのです。

帰って来た家族を快くさせ安らがせれば家族は親の所へ気軽に常時来る様になります。逆に、「家人が帰って来たら親の世話をするのが愛情を深める」などと見当違いな感覚を振り回す人が居る限り、家族はどんどん老人を捨てます。

この週末には東京の従姉が訪ねて来ます。母と私は楽しみにして居ます。
しかし、恐らく先のヘルパーさんが来て居たら彼女に親族か他人かを確認し、親族なら家事をすべきと言って自分は帰ってしまうでしょう。遠方から来た老齢の、我家の様子も何も知らない他人と同じお客様の彼女でもそういう扱いを受ける筈です。
ですから私は従姉の滞在期間は全てヘルパーは断り、私が大事なプロジェクトの会議を休んで家事をする予定です。それによって起こる種々の社会的経済的損失をいっそヘルパーさんに全額請求したい思いです。

それでも私が居るからまだ良い訳で、母が本当に一人の老人だったら、東京や北海道からはるばる訪れて来た老人の親族に勝手も知らない家でいきなり家事をしろと言うのでしょうか。先のヘルパーさんの考えでは。
遠来のお客にそんな扱いをする事が独居老人に取ってどれ程悲しく耐え難いか。最早それは不可能に近い事です。恐らく母はもう二度と親族をお客に呼ぼうとは思わない筈です。訪れる方も迎える方もそうやって、交流の機会をどんどん失ってゆく。「家人が居たら介護をするべき」という論理の行き着く先は、この様な救われない地獄図絵です。

ですから今、生きる力を私に求めないで欲しい。生きる力が少しでも湧いたら私はその様な考え方を不用意に口にするヘルパーや制度に包丁か爆弾を叩き付けるでしょうからね。(笑)

Twitter Facebook
カツジ猫