ダークサイド。
◇子どもの本の「ターザン物語」、私が小さい時に読んだ講談社世界名作全集で、もちろん古本、紙も黄ばんでしみだらけなのを、なつかしく読み終えた。この全集はかなり持っていたのだが、これは読んだことがない。巻末の他の巻の広告を見ていると、それも子どものころに見たのと同じでなつかしく、やはり当時は持ってなかった「大尉の娘」や「十字軍の騎士」も、ついほしくなる(笑)。
「ターザン」は大人になってからバロウズの原作を文庫本で読んだのだが、あまり印象に残っていなくて、えー、こんなにほろ苦い結末の恋愛小説でもあったのかと、子どもを決して子ども扱いしていない、このシリーズにあらためて驚く。もっとも、昔のことだから、巻頭の人物紹介は、ものすごいネタばれの満載で、そうそうだから私は「クオ・ヴァディス」なんかでも、誰がどうやって死ぬかわかって読んでいたのだよなあと、あらためて思い出す。
最後の全巻のリストには、鉛筆で前の持ち主が手持ちの本に○をつけており、思わず、自分の持っていたのと比較してしまうのも古本ならではの楽しみだった。
ただ、原文が臆面もなく、ターザンの顔を「美しい」と言いまくっているのにしちゃ、この本の挿絵は思いきり地味というかぱっとしないのが、ちょっと惜しい。
◇「マーチ家の父」の印象が強烈すぎたのか、今もときどき思い出し、そして原作にはまってなかった自分だからいいけど、もし原作を本当に愛している人なら、あの小説は「若草物語」に対する、思いきりの冒涜であり、むしろ凌辱でもあるかもしれないよなあと、あらためて感じている。思い返すたびに、その凌辱に加担したような、後味の悪さがよみがえって来る。
「若草物語」が私は好きではない。どこか、ものすごく、のっぺりしていて、人が見えないもどかしさがある。だから、そこにこれでもかというぐらい、思いきり彩色された人間像をたたきつけられると、もう原作は抵抗のしようがない。でも、だからこそ、これはひどいなあとも思う。作者の力量も才能も文句なくものすごいのだけれど、あえて言うなら、とてもいやな人だなあと思ってしまう。こんなに豊かな才能を、こんなにすきだらけの相手に、注ぎかけなくてもいいじゃないか。
えげつない。抜け目ない。容赦ない。好きになれない。
決してファンではなかったタレントが、鋭い分析の評論家の指摘がきっかけで、週刊誌やワイドショーのえじきになってるのを見ると、こんな気分になるのだろうか。
たしかに面白いのですよ。でも、ひどいのですよ(笑)。たとえば、(以下ネタばれですが)無事に戦地から帰って来た「お父さま」が原作の最後で、四人の娘に留守の間の成長を評価しねぎらう場面は多分有名だし印象的で、私はああそうへえふうんお好きにどうぞって感覚で読み流していたけど、好きや嫌いというよりも、妙に気持ちが悪かったけど、でも好きな人はきっと、満足感と幸福感に満ちあふれる部分なんですよ。
「マーチ家の父」では、父はその同じせりふを言って娘たちの反応も感動も原作のままなんですけど、実は彼はほとんどうわの空でそれを口にしているだけで、心は挫折感やら喪失感やら黒人娘への未練やらその他まがまがしいもので、ぐちゃぐちゃだって設定で、それがまあ、また説得力があって、リアルでもう。
戦地帰りの男なんて、どうせ皆こうだろう、こうでないとむしろおかしいだろうという点も含めて、あの名場面を、これだけ完膚なきまでに、ぶちこわして、ふみにじって、粉砕してしまうなんて、お見事としか言いようがないし、たしかに疑いもなく私はそれを楽しんでる。だけど、心のどこかで何かが言うのよ、これは邪悪な喜びだぞって。ダークサイドへまっしぐらの、よからぬ感情だぞよって。
あーあ。
◇昨日は母の誕生日でした。
とっくに亡くなった人の誕生日を祝うというのも、聖人や偉人じゃあるまいし、それってどうなん、と迷いつつ、ついついいつもの癖で、びろうどのように深いワインレッドの二色のカーネーションを店で見つけて買ってきて飾り、ケーキも供えて、私があとで食べました(笑)。
何よりもこれが供養よねと、玉城デニーさんの勝利を伝えた新聞を位牌の前に置いて、好きだった三浦洸一のCDを、朝から晩までかけまくってやりました。
その買い物に出かけたときに、ふとカーラジオを入れたら、福岡のいつもの娯楽番組で何と沖縄知事選の話をしていて、デニーさんが電話で話をしていました。思わず駐車場で全部聞いてしまった。
よく考えたら私はあれだけネットでいろいろ見ていながら、デニーさんの肉声を聞いたことがないのです。無責任だと言われそうですが、実際、政府の介入と圧力の、あの狂奔ぶりを見ていたら、もう多分トナカイかじゅごんが候補者でも支持したと思うわ。
もちろん政策は読んでいたし、パーソナリティーをしてたというぐらいだから心配もしてなかったし。
短い時間だったけど、内容もさることながら、声も話し方も作り物ではないみごとさで、暖かく聡明な人柄があふれ、何より滑舌のよさと来たら、もう快くて涙が出そうでした(笑)。
私は政治家がカッコよくて人気があるのって、ちょっと恐くてあまり好きではないのだけど、これはもう進次郎に夢中になる人がいるのなら、比べ物にはならないカッコよすぎる人材でしょう。それだけに、これからが心配ですが。ネットではどうせ何も考えてないアホガキでしょうが、彼を暗殺しろという書きこみも複数見ましたからね。
その一方で、アメリカでは「海兵隊の息子が知事になった」と(多分好意的に)報道もされてるようで、ああ、そういうことでもあったのだよなあ、話題にもならなかったけど、その点でも歴史的なことだよなと気づいたりして。
◇アメリカと言えば、ついでに書くけどトランプは嫌いだしアホですが、それなりにどういうか、それなりにどういうか(はい、くり返してます。笑)。金正恩と「傷つけあったが、今は恋に落ちた」と臆面もなく公言するとか、たしかに役者はちがう。
彼が大嫌いという人と先日ちょっと、その話になって、二人で「だいたいね、不思議でも何でもないよ、気が合わないはずないですよ」「きっと好きだろうなと思ってたもの、おたがいに」と言いあったのですが、これもダークサイドっぽい会話ではあるよね。