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ニトリのテーブル

このごろカーラジオなんかで、ときどきCMを聞くのだが、ニトリがソファにも椅子にも対応できるテーブルを売り出したらしい。
よくやった!と思う一方、くやしくてしかたがない。だって、もう何十年も前から私さがしてたのよ、まさにそういう家具を。

代替わりしたのと自炊が多くなったのとコロナでひきこもりがちなのと、いろいろ理由が重なって、最近はあまり行かないが、昔はしょっちゅう食事やお茶しに行っていた、三号線沿いのレストランがある。よく長時間ねばって仕事もした。どうしてこんなに居心地がいいのかと思ったが、わりと早く気がついた。ソファの高さの椅子にゆったり座ってコーヒー飲んだり食事したりできるそのテーブルは、そのままその椅子に座ったまま、書き物をするデスクとしても使えるのだ。

そんなのあたりまえだろうって? ちがいますよう。私は自分の家でも、ソファというか応接セットで、食事も仕事も客との応対もできて、ついでにそのままソファで仮眠もできるように、そのレストランと同じ高さのテーブルが、ほしくてほしくてしかたがなかった。量販店や高級家具店、舶来家具の店、デパート、アンティーク家具の店、どれだけ足を棒にして歩きまわり、店員と話し合ったかわからない。でも絶対に、その高さのはなかった。ダイニングセットの食卓テーブルか、ソファセット用の低めのコーヒーテーブルか、断固として、そのどっちかしかなかったのよ。

私がよく行く、そのレストランにはあったのだから、どこかでは生産も販売もしていたのだろう。でも少なくとも私の目と手が届く限りの範囲には、その高さのテーブルというのはなかった。結局は、低めのコーヒーテーブルに背中をまるめてかぶさるようにして手紙や論文を書くか、高めの食卓にセミがとまるようにしがみついて、目の高さで書いたり読んだりするかしかなかった、心地よいソファに座っていようとする限り。

私は家具はそのまま使うのを基本にしているのだけど、この件ではとうとう、食卓テーブルの脚を切って短くして、望みの高さにできないかとまで思って交渉した。でもね、もう細かいことは覚えてないけど、それも結局だめだった。テーブルの脚って、いろいろ仕組みがあるらしくて、好みの長さにあっさりちょんぎるって、そう簡単にはできないらしいのよ。たまたま私が交渉したお店や家具がそうだったのかもしれないけど。

私はこういうことにかけては我ながら本当にしつこい。だからもう何年も田舎の家や自分の家のために、そういうテーブルを探して探して探し回った。絶対に需要はあるはずなのに、何で作らないのか、それも不思議でならなかった。
結局、田舎の家はもう人に買っていただいて手放したし、今住んでいる家には古くからある家具以外は置く余裕がない。応接セットを食卓やデスクと同じように使うという私の夢は、かなわないままだった。そうして私は年を取り、仕事も定年退職した。

それでも時々夢想する。もし、あの求めていた時期に、今ニトリが売り出しているらしい、そんな高さのテーブルが、もしも存在したら、手に入ったら、そこで休憩も客との応対も仕事も食事もできるライフスタイルを作れていたら、私の仕事はもっと画期的に進んでいたし、論文も小説もびしばし量産できたし、人づき合いも豊かになったし、私の人生そのものも大きく変わっていたのじゃないかと、いやマジで。

ほんっとにくやしい。前にここでも書いたように、私は自分の人生をやりなおしたいとか若返りたいとか、絶対に思わないし感じたこともない人間だ。でも、このニトリのテーブルに関してだけは、もし可能なら、それを買って自分のライフスタイルを作るところから人生をやりなおせるだけの時間を戻して、そこから再出発したいと真剣に思ってしまう。いやマジで。ほんとにマジで。

くやしいから、ニトリのテーブルの画像は貼らない。そもそも見ない。絶対に見るだけでももうあれだけ望んだものが存在しているという事実に、のたうちまわって死にそうになるに決まってる。
それにしても、どうして家具業界は、こんなことにもっと早く気づいてくれなかったのかなあ。がるるるる。

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カツジ猫