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バターフィールドさん。

◇これ、ラッセル・クロウのファンサイトに書いたんですが、公開までちょっとかかりそうなので、こちらでも紹介しておきます。あちらで公開されたら削除します。

(以下がファンサイトへの書き込みです。)

えっえっ、ラッセルの新作映画、めちゃくちゃ面白そうじゃないですか! 公開してくれるんだよなー。


去年の暮れにDVDで「ノア」を見直して、感想書く間がなかったんですが、あらためて、この映画のテーマの重さに気づきました。
あらゆる命を救い、世界の再生のもとを築く、神の役割を神から与えられながら、人間については、滅ぼすことを託された男。


ちなみに私も結婚もせず子どもも生まず、長く続いた一族の(まあ親戚とかはいますけど)最後をしめくくって、墓もいずれは無縁墓になるだろうと思いつつ管理している状況で、「しめくくって、消して、おしまいにする」ことの大切さを味わっているところです(笑)。


それだけだって大変なのに、人類をおしまいにする仕事をまかされた彼は、自分の家族以外のすべての人間を先に見殺しにして死なせるしかないわけで、たくさんの命をはぐくみ、未来にひきつぎながら、自分の同類だけは消さなくてはならない人は、限りない愛情と限りない冷たさをともに持ってなくてはいけないわけで。


そして、人々を見殺しにする苦しみにノアが耐えられたのは、「いずれ自分たちも続くのだから」ということだけだったと思うのです。それだけを支えに彼はあの大惨事から人を救う誘惑に耐えた。
だからこそ、そうではなくて、自分の家族が、唯一選ばれた者、残された者として人類を再生する存在になることを、彼は許せなかったのです。だって、それでは、人々を見殺しにしたのが、ただのエリート意識、選民思想になってしまうから。



いつものことですが、こんな壮大で重厚なテーマを、まったくことばで語ることなく、表情や態度で表現しつくしたラッセルも、それをさせた監督もすごいです。ふつう説明するでしょ、ノアのつらさとか、心情のポイントだけでも。本当に、その意味でもこれは過酷な映画です。


で、最近「3時10分、決断の時」を、これは気軽に時間つぶしに見直していて、また思いがけずはまってしまいました。


公開当時、長い感想とか書いたわりには、私はこの映画の魅力(というか西部劇の魅力)がよくわからず、最近あらためてネットで見て、時間がたつほど、いろんな人が、ものすごく評価しているのに、自分はそこまでわかってないなあと、ちょっと淋しい思いもしていたぐらいです。


それはまだ、わかってない部分もあるのかしれないけど、でも、最近いろんな局面で、法律とか政治とかいう問題にふれていると(小林節さんの講演会で、「国際法は存在するけど、ゆるくて、弱い」みたいなお話を聞いたりしてると)、あらためて、ああ、今の国際社会って、昔の西部みたいなものかと気づきました。ルールはあるけど、守られるとは限らない。そういう点での安定がない、すごく流動的な世界。


あの映画見ていて、何だかよくわからん感情移入しにくいという人(私も実は少しそうだった)の理由の一つは、拳銃撃ち合って人殺しまくって、法も秩序も無視されまくりの中で、何で悪党ベン・ウェイドを、ちゃんと牢獄に入れ、ちゃんと死刑にすることの手続きに、そんなにこだわるのかってことじゃないでしょうか。


たとえば、あの中で一番こぎれいで、まっとうな近代市民っぽい外見(中身も)の銀行家バターフィールドさんなんか、力の論理が横行する中、法律だの倫理だのを守ろうとしているのが(あ、獣医さんもそうですね)、どうかすると、ちょっと浮いててピントはずれで、滑稽にさえ見えなくもない。


だけど何度も見ているうちに、彼の体現しているものに気づきはじめました。
ルールをふみにじってしまえば、たやすく壊れる法律や道徳や常識を、時に拳銃を使ってでも、大真面目に貫いて、守ろうとする市民、文明人、近代人、何だっていいけど、そういう人たち。



彼らのそういう道徳や法観念も、先住民には及ばない偽善と中途半端を含んでいます。でも、そういう矛盾も持ったまま、無法者の横行する場所にはしないように、法の施行にこだわり続ける。
「3時10分、決断の時」は、そういう映画でもあったのだとわかりました。



それはまた、さまざまな西部劇で描かれたように、いろんな矛盾や限界をはらみながら、保安官や正義の味方が、時には人間性ゆたかな無法者を味方につけながら、築き上げてきた、まさにアメリカの民主主義社会だったのだと、あらためて思います。


今までともすれば、見ていていつも中途半端で居心地が悪かった西部劇というジャンルを、少し楽しめるような気がして来ました。

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カツジ猫