1. TOP
  2. 岬のたき火
  3. 日記
  4. ベトナムの浜辺

ベトナムの浜辺

いっつも思っていることだが、海外ドラマの「ハワイ・ファイブ・オー」は、大物の悪役に無駄に美男子の俳優を使うなあ。ウォーファットにしてもマイケルにしても。そういうのが、ほぼ滅びたと思ったら、今は悪役というのでもないが、レギュラーの一人が憎からず思っているヤクザの大物の娘の父(つまりヤクザの大物)に、下三白眼の東洋系のハンサムを使っている。誰だろうと思って検索してみたら、何とか斎藤という人で、あまり資料がなく、海外ドラマにそこそこ出てるが、本業は不動産業で、俳優は副業らしい(逆かもしれない)。道理でヤクザとは言え、企業の大物の迫力が自然にそなわってると思った。

それはまあどうでもいいが、シーズン9の最終話だっけで気になったのが、主人公のスティーブが心酔し尊敬していた歴戦の勇士の遺灰を、本人の希望でベトナムの浜辺にまくことにしたというエピソードだ。戦友もたくさんそこで戦死して悲しい思い出の地でもあるが、それはそれとして、あんなに美しい浜辺はなかった、あそこで眠りたいという遺志だったそうだ。

ベトナムへのアメリカの侵略なんて、今のロシアのウクライナ以上にある意味ひどくて、まだ今みたいに世界に状況があまり知られてなかったのをいいことに、枯葉剤からナパーム弾からボール爆弾、一般市民の虐殺、拷問と、あらゆる非人道的なことをしまくったのが米軍で、しかもそこまでしても勝てなかったというお粗末なわけだが、そこの浜辺が美しかったから眠りたいというのは、鈍感なのか強靭なのか、ちょっともう、どういう心境なんだろう。

私はその死んだ歴戦の勇士のキャラは時にうざかったけど、まあそう嫌いでもなかったし、とんでもないスケールの精神力の戦士でもあったわけだから、そういう常人ではありえないような感覚の持ち主として、こういうエピソードにしたのか、それとも米国の人たちにとって、これはそんなに違和感なく受け入れられる心境なのか、いっくら考えてもわからない。

とっさに思ったのは「はー、おまえら、ベトナムに対してしたことに対して、罪の意識とかなーんもないな」ということだった。どす黒い怒りとかより、あっけらかんとあほらしく拍子抜けするような気分だった。まあ、よかれあしかれ、そういう国民性だよなともどっかで思った。差別かもしれんけど。

それでも実はまだいろいろとわからない。たとえば、こんなことを聞いてベトナムの人たちはどう感じるんだろう。「あー、たしかにあそこは美しい海岸ですからね、無理もないですね」と、ちょっとは誇りを感じるのだろうか。それとも「戦争は女の顔をしていない」のコミック版にあったように(原作でも多分あるだろう)、瀕死のドイツ兵が地面をかきむしっているのを見たソ連兵が、「おれたちの土地を汚すな」とののしったように、来るなさわるなバカにするなという心境だろうか。ちなみにドイツも第二次大戦の時、ソ連に対し残虐の限りをつくしたと言っていい。

たとえば、沖縄を山の形が変わるほど砲撃して人々を殺しまくった米軍が「でもあの海岸は美しかったから、あそこに墓を作って入りたい」と言ったら、沖縄の人はどう思うだろう。広島や長崎に原爆を落とした兵士が、「戦後に来て見たら美しい町だったから、ここに墓を建てて眠りたい」と言ったら、どう思うのだろう。

子孫とかじゃないのだよ。「ハワイ・ファイブ・オー」の遺灰になった戦士は、本人が実際にナパーム弾やら枯葉剤やら拷問やらを実施した人なんだよ。それでも現地の人は気にしないんだろうか。何だか沖縄の人なんか、にっこり笑って許しそうで恐い。

「ハワイ・ファイブ・オー」は、真珠湾があった島だってことも含めて、かなりタカ派で人権無視の活劇の中に妙にリベラルな見解や姿勢や歴史観がかいまみえることがある。シーズン9だったと思うが、ナチスの思想を広める極右団体に対する主人公たちの怒りと憎悪はすさまじかった。こういうドラマが、ベトナムの浜辺に遺灰をまいてくれと望んだかつての侵略者を描いたのは、いったいどういう心境なのか。これがどれだけアメリカの視聴者にとって異質なのか衝撃なのか、そうでもないのか。私にはまるっきり見当がつかない。

ただ、どこかそういう野放図な脳天気な発想や感覚がアメリカに限らず、先進国や強者の中にはありそうな気がするのは、どことなく感じる。憎悪や恐怖ではなく、苦笑をまじえたあきらめもどきで。それだから、(時にはいいことも)やれることもあるんだろうなということも含めて。

11月も終わりですね。自分の誕生日がこの月だからっていうのもあるけど、カレンダーの絵が毎年ちょっと気になるのよね。いつも買う黒井健さんのカレンダー、今年の11月はささやかな村の風景とかじゃなくて、名画風のスケールの大きさが新鮮で、嬉しくて毎日ながめていたのだけど、それも今日でお別れなのか。明日からはそろそろ集中講義とクリスマスの飾り付けにかからねば。

Twitter Facebook
カツジ猫