ワイン。
◇10年ちょっと前に前後して亡くなった叔父と叔母は、そこそこ裕福な暮らしをしていて上等そうなワインやウィスキーをいっぱい遺していた。人にあげたりもしたのだが、何本か残ってしまったワインは、暑い夏にも放置していて、多分全部だめになったと思うので、捨てるよりはと涙を呑んで私は料理に使っていた。
最近うっかりレーズンの大きな袋を買ってしまったので、しょうがないからリンゴが安いときにいっしょに煮てデザート代わりに食べている。その時にワインを入れて煮るのだが、先日開けたワインが妙にいい匂いで、これはひょっとしたらものすごく上等なのではないだろうかと、ついグラスに入れて飲んでみたら、まだなかなかおいしい。ついついチーズなど買ってきて、毎晩ちびちび飲んでいる。しかし飲んでしまうと、もちろん深夜に車でDVDを返しに行ったりはできないので、それはちょっと困る。
◇昨日読んだ熱海温泉の紀行は、箱根権現の神社で宝物を見ようと思ったら、今、江戸に持って行って皆に拝ませているから、ここにはないと言われて、「なるほど」と笑って帰ったとか、芦の湯の宿で朝食に新鮮な魚が出たので、こんな山の中でなぜと思って聞いたら、小田原でとれたのを朝までに山道を運んでくるということで庶民の仕事は大変だと思ったとか、鎌倉で古跡のガイドを頼んだら、そのガイドのおじさんが、顔をゆがめてしゃがれ声で古事を語るのがおかしかったとか、金沢八景を見に行ったら入江に石垣や橋をつくってわざとらしく不自然な美景にしているのがいやらしかったとか、いろいろ面白い記事があった。その内、全文をどこかで紹介したいなあ。
◇今日は戦争法廃止をめざす市民の会の人たちと、ちょっと会ってだべった。四月に予定している小林節さんの講演会の準備を、明日の実行委員会で皆と相談しなければならない。沖ノ島の世界遺産のことも怒っている人がいたし、福岡教育大の状況にも皆関心があるようだった。
しかしなあ…これだけ狭い地域の、これだけ限られた人たちの中でも、なかなか情報が共有できない。今のところ参加している人や組織の間で、悪い関係はひとつもないから、誤解とか対立とかは皆無と言っていいのに、それでいてなお、たがいの知っていることや問題意識を伝え合うヒマがなく、誰もが何かを知っていて何かを知らない。何とかならんもんかなあ。
まったく単なる事実でさえなかなか敏速に全体に伝えて確認や共有ができにくいのだから、ましてや、雰囲気や感情や意識レベルの状況を正確につかむというのは難しい。
最近MI6だのアンクルだの007だのとスパイ映画の良作が続いて、人気も高まっているようだが、いいけどね、私に言わせりゃ銃を撃つのも盗聴するのも拷問するのも大変なお仕事だろうが、そんなこと以上にスパイの能力というか、やってほしい、やらなくてはならない仕事というのは、「あの国では今国民はだいたい三つの勢力に分れてます」とか「革命やる気になってるのは民衆の三分の一弱ですが、政府があの案件通したら半分以上になるっちゃないですかねー」とか「あの指導者は退廃的なことを言うのが、若者に受けているし、本人もそれを意識してます」とか「とにかく甘酒に目がない国民ですから、その原料だけ押さえておけばちょろいです」とか、そういう情勢分析を正確無比にやる能力が、スパイって何よりも貴重なんじゃないだろうか。いやもちろん、それは政治家もジャーナリストも同じようなものだが。
それを、まちがえたり、見抜けなかったり、私情をはさんで希望的観測をまぜてしまったりしたら、とんでもないことになって、それこそ世界が破滅する。謎のウィルスなんかより、ある意味恐いよ。
こんなこと私が思うのは、手近なとこでは福岡教育大学にしても宗像市にしても、いろんな人からいろんなことをいくら聞いても、別にその人たちが嘘を言ってるのでもまちがってるのでもないのに、なおかつ、確信をもって全貌をつかんだという気になかなかなれないからだろう。そういう意味ではスパイだけでなく、その上司も能力が問われるよなあ。そう言えば「コードネームはアンクル」のチームリーダーのウェイバリーさんは映画の最後の紹介で情報収集能力9とか言ってなかったっけ。さすがヒュー・グラント(ちがうか)。
◇もっとも私はあの映画の続編ができてもできなくても(ネットで見てると、「処刑人」や「マスター・アンド・コマンダー」の続編を待ちこがれた人たちが「10年ぐらいなら待てる」とか書いてて、泣けるけど吹き出す。もちろん身にもつまされる)、ヒュー・グラントのウェイバリーは大歓迎で大好きなのだが…これもネットでさまよっていると、ご多聞にもれず旧ドラマの「ナポレオンソロ」の腐女子の方々が書いた二次創作によくぶつかって(これがまあ、うまいの何のってプロの作家顔負けで正直うなる)、その中にはソロやイリヤが男性相手のもちろんベッドインまで含んだハニートラップの任務を与えられるものもある。
当然それを指示するのは上司のウェーバリーで、しれっとして、けっこう微細な指示まで与えるこの場面は、やはり妄想の中にせよ旧ウェーバリーのレオ・G・キャロル氏だか真木恭介さんだかに枯淡の境地で飄々とやってもらわないと、別にソロとイリヤは新旧どっちでもかまわないが、彼らに向かってヒュー・グラントがそういう指示を出している映像を思い浮かべると、いや思い浮かべちゃいけない、はまりすぎだかエロティックすぎだかで、目が回って膝から崩れ落ちそうになる(笑)。
◇あー、結局最後はくだらない話になるのか。仕事に戻ろう。いやもう寝よう。明日も朝が早いのだった。さっき椅子からのけられてグレたカツジ猫も、にゃおにゃおベッドに誘いに来たし。