全国民が読むべきだ
気晴らしに読むのに買ってきた垣谷美雨の「女たちの避難所」、例によって一気に読んでしまった。今更だが実にうまい。彼女の作品群と来たら、有吉佐和子や橋本治が重厚に陰鬱に描いた老人問題や昭和史を、ライトノベルもかくやというような軽やかさで、同じ深さと広さと的確な視点であっさり楽しく描きあげてしまう。見事だという他ない。
展開も結末も、いつも予測できないのは、奇をてらうからではなく、現実に即して描くからだ。現実の社会や人生そのものの、予測不能さ、不条理さ、不快さ、愉快さ、楽しさが、彼女の作品にはそのまま投影される。
もっとも私はミーハーかつ病的な好みだから、このさわやかなバランス感覚にあふれた作品世界は、狂ったように好きになったりはまったりはしない。けれども、健康食品のように栄養になるし、力づけられるし、もちろんおいしい。
特にこの「女たちの避難所」は、それだけではない。文学を超えて、いや文学のひとつの要素でもあるが、社会にとって必要な読み物として、最高の教科書だ。
これは今、この時代に、全国民が一度は読んでおくべき本である。特に総理大臣から市役所から村役場から、行政にたずさわるすべての人は目を通すべき必読文献だ。公共機関、議員、教育の場はもちろん、いや各家庭に一冊置いておくべき本だ。実際私に余分な金があれば、まとめ買いして、私の住む宗像市の少なくとも市議会議員全員には配布したい。
東北の震災による津波で被災し、避難所で暮らすようになった三人の女性の話だ。それぞれの家族や周囲の人も描かれる。アホな男性(女性も)リーダーのもと、絆を理由にダンボールの仕切りも作らせない状況が何を生むか、義援金を世帯主に渡すことによって何が起こるかどうなるか、どんなバカでもアホでも絶対わかるような具体的な描写で、その実態が描き出される。
弱点がないわけではない。三人の女性のうちの二人の描き分けがあまり明確でないから、どっちがどっちか混乱しそうになったりする。それでも、そんなことは些細なことで、とにかく、私たちの回りの現況が、災害時にはどういう状態を生むか、ありありと理解できる。下手な占い師にかかるよりは、この小説を読んだ方がよっぽど私たちのそういう時の未来が見える。早い人なら三時間もしないで読んでしまえる。お得だよ。お得すぎるよ。
くり返す、全国民が読むべきだ。でももちろんそう言ったって、読まない人は多いだろう。ぜひとも読んどけよと言いたいような人に限って、首相以下、絶対読まないだろう。それはそれでいい、だったら、そうでない人たちは、だからこそ、全員急いで、今読んでおくべきだ。国が、行政が、ボランティアが、家族が、隣人が、どういうアホなことをするか、今のうちにきっちり読んで、知って、一日も早く対策を立てるべきだ。今日から、今から、明日から。
これはそういう本である。もちろん文学としてもすぐれている。しかし何より、三人の女性の一人が最後に近く言うように、緊急時になってあらわになる問題とは、そうなる前からすべてそっくりそのまま存在しているのだ。震災や津波によって、いきなり出て来た問題ではない。
だから、備えよ、これを読んで。その時を想定して、一刻も速く、現状を改善しておけ。
あー、本当に、まとめ買いして、知り合いの議員さんたちだけにでも配りそうで、自分が恐いよ。