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六年生の夏(11)

台風が長崎のあたりをうろついているらしく、昨日の夕方から風が強く、雨もときどき降っている。しかし、まだそれほどひどい状態ではない。むしろ涼しくて助かる。それでも30度近くはあるようで、エアコンを入れている。そう言えば、この昔の日記には台風の記事もないなあ。来ていたはずなのだが。

8月9日 土曜 天候◎ 温度27度 起床6時0分 就寝10時0分

今日は自分でも気に入った図画が出来たので急いで帰って来た。はたして母は気に入ったと言って大変ほめてくれた。おじいちゃんも、なかなかいいと言ってほめ、かべにはっておけと言った。部屋に入ると伊佐子ちゃんがさいほう箱のありかを聞いたので何をするのと聞いたら「人形のサックドレスを作るとよ。」と答えた。サックドレスは伊佐子ちゃんにまかせておいて、私はねころがって本を読んでいた。ガタガタ音がするのでふり返るとおじいちゃんがガラス戸をたたいて大声でカナリヤがにげたから戸をしめてつかまえてくれとどなっている。あわててドアをしめてカナリヤのかごの置いてある所に行くとカナリヤはすまして、かごにとまっていた。急いで手をのばしてひっつかむと「ピイーイイ。」とあわれっぽく鳴いた。その頭をピシャンとたたいてかごに入れて、部屋にもどる。すると伊佐子ちゃんが「失敗、失敗。」と笑いながら、サックドレスとも、こうもりのはねともつかないものを差し上げていた。

習字教室と同様、図画講習にも私はまったく記憶がない。かけらもない。自分でも驚く。母が私の絵をほめることなど、めったになかったのに、この時の記憶もまるでなく、この絵がどんな絵だったかさえ、全然思い浮かべられないのが、くやしくて、もどかしい。祖父が言ってくれたように、壁にはったとしたら、そのくらいの記憶はありそうなものなのに。

これは中学生の時の絵で、母がほめてくれた絵としては、私はこれしか覚えていない。当時の額縁のまま、今も家に飾っている。

祖父はメジロとカナリアをそれぞれ十羽近く飼っていて、その世話に祖母も忙殺されていた。廊下の壁にかけたメジロのかごから落ちる餌などで、掃除だけでも大変だった。そのかわり毎朝、鳥の声でめざめるという贅沢も味わっていた。

伊佐子ちゃんは叔母にしつけられていたのか、家事もかなりこなしていた。サックドレスと言っても今の人はわからないだろうが、ストンとまっすぐな、袋のような洋服で、当時は大変流行したおしゃれ着だった。

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カツジ猫