小津久足の本ができた。
◇私が書いたんじゃありませんが(笑)、ずっと小津久足についてほんとに、アリのはい出るすきまもないような徹底的な調査をして来た菱岡憲司君が「小津久足の文事」という本を、ぺりかん社から出版しました。私の本や論文もたくさん引用してくれていますが、それはこれまで久足の紀行について研究した人が少ないからで、別に私ががんばってるからではありません。
本は専門書として申し分ない緻密さと精確さですが、彼はもともと文芸部を大学で創設したぐらいで、小説なども書く人なので、専門外の人にもわかりやすく読みやすい書き方になっています。私の文章のような癖がなくて、上品で老成しているので、きっと誰でも気持ちよく読めるでしょう。小津久足の入門書であると同時に、あっという間に専門家になれる本です。江戸の紀行や和歌に関心のある方は、ぜひともお買い求め下さい。ちょっと高いんですけどね、この内容ならお買い得です。
◇それがいいことかどうかはよくわからないのですが、世の中の動きが私の望むのと反対で、イライラして無気力になりそうな時期って、なぜか私自身の研究とか勉強の方面は充実して、めでたいことが起こるのですよね、これまでの人生をふりかえると。別に逃避してるわけでもないのに、専門の仕事の方がとても発展してうれしい成果が生まれます。だから、自分の生涯をふり返ると、いつがバラ色でいつが灰色だったのか、どうもはっきり言えません。
まあ今回は自分のした仕事じゃないですけど、それでもすごく豊かな成果を目の前に見た満足は、世の中の動きのうっとうしさとまざって、いわくいいがたい味わいを生みます。案外すべてがうまく行ってるよりも、この方がいいのかもしれない。って、どこまで私は貧乏性なんだ。
残念なのは自分の仕事がせっぱつまっているので、せっかく彼が届けてくれた本をじっくり読めないことで、これは来週のお楽しみになるのかなあ。
◇今日の大学の文学史の授業では、西鶴をやった。私が、「彼の作品は、とにかく言葉の連想がすごくて、どんどん話がころがって発展して、どこに行くかまるでわからない。落ちもないし伏線の回収もないことが多い。これは何だと言われても困る。そこが面白いんだから」みたいな紹介をしたら、最後の感想で何人もが「自分も西鶴を読んで、何なんだこれはと思ったけど、それでよかったんだと思って安心した」というようなことを書いていて、笑ってしまった。ローレンス・ブロックのマット・スカダーのシリーズで、スカダーの恋人のエレインが美術商をやってて、新人の絵画を客に売るのに、「ちょっと様式的ね」と客が言ったら「それがこの作家の特徴なんです」と答えて、多分客は明日また来て買って行くだろうと自信を持ってるのを思い出した。
そう言えば菱岡君も久足の本のあとがきで、私が授業でいかなる本も面白く説明するので、「読んだらそんなに面白くなかったという被害報告も聞くことがある」と書いていて、これまた笑った。だろうなあ。
◇トランプの当選について、現地の方々のショックは本当に強い。
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でも、その中からただちに立ちあがって抗議を始めた人たちのニュースもたくさんある。
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その一方でNHKの「クローズアップ現代」のシールズについての解説がしょーもなかったという感想も多い。あー、やっぱり書きかけの私のシールズ論、完成させなきゃいかんかなあ。それも来週かなあ。じりじり。