小説「新世界より」感想。
◇映画が公開されるからなあ、と、ふらふらっと買った「悪の教典」の横にあったのを、さらにうかうかっと買った、「新世界より」(どっちも貴志祐介)が、やたらと面白く、半日で一気に読んでしまった。「悪の教典」も悪くはないがまあまあで、第一、映画「ソドムの市」を見た時も、見てる間中ずっとイライラしてたのは、なんでもう、やられる方が一気に皆でかからんのかい!という、いらだちだったのだが、これほど効率悪い戦いだか防戦だかをする集団が、現実にいるなんて信じがたい。でも、ひょっとしているのかもしれないと思ったら、別の意味でさらにイライラする。
まー、あれだよなー、「悪の教典」の場合、やられる集団のやつが皆、中途半端に頭がよくて、中途半端にバカなのが、いっちばん、まずいよなあ。もっと皆が何も考えないアホだったら、こうはならんだろうし、もうちょっと皆がアホじゃなかったら、やっぱりこうはならんだろう。絶妙な水準で中途半端に皆がバカ(もしくは賢い)なのが命とりだ…という教訓を痛感させられる話ではある。こんな風に読んじゃうのが、いいのか悪いのか知らんけど。
◎一方、「新世界より」は、雰囲気といい、世界構成といい、哲学といい、実によくできていて、楽しめた。寒々とした悲しみや、強烈な問題提起もふくめて、すべて。
私はいいかげんなことは言わないが(ほんとか?)、これって、世界観とか人物造型とか、特に前者じゃ「ハリー・ポッター」をはるかにしのいでるぞ、きっと。
私は「ハリー・ポッター」も好きなんだけど、たとえば、結局のところ正義と悪の対決という単純な図式とか、魔法というか呪力というか超能力というか、それを持たない者の扱いの軽さとか、そういうところじゃ、ものたりなさもある。「ドラゴンランス」シリーズや「熱砂の大陸」なんかの複雑な価値観(それでいて面白い!)に比べると、まあ「指輪」も「ナルニア」もそうなんだけど、ちょっとわりきりすぎていて、基本的なとこでシラける。「指輪物語」のオークとか、そういう敵の怪物に対する視線とかが、どうしても、気になって落ちつかない。
「新世界より」は、その点、ひじょーに正確に、どすっと読者にパンチを食らわせ、ショックを与える価値観がある。いろんな意味で、単純な悪や正義が存在しない。だからファンタジーだけどリアルで、リアルに美しくて悲しい。人間も、異類も、何もかもが。
そして、「悪の教典」もそうだったけど、ときどき唐突に、ものすごく笑える描写がちゃんとまじってるのが、またいちだんと、いい。
私の好みがどんなに支離滅裂か言うと、源義経もどきのネズミのリーダーと、守クンとが一番好きで、でもその他の登場人物も皆とても好きだ。こわーい不浄猫たちも、単純に悪役じゃないのが、猫好きの人はきっとうれしいだろう、ねえ、キャラママさん?(笑)