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映画「コクリコ坂から」感想(その5、これでおしまい)

でもまた、この映画は決してそういう旧世代に対する恨み節では終っていない。
見のがされがちですが、メルはまだ少年と兄妹と思っている時点で、悩んだあげく、彼に宣言します。「兄妹でもいい、私はあなたを愛する」と。
彼女はその時、少年は「父が帰ってきた」「父がくれた」みたいなことを言ってたと思うのですが、彼女は明らかに、男子寮の保存運動に明るく取り組む、前向きで行動的な(もしかしたら少々おっちょこちょいの)少年に、自分が想像してきた父の面影を見ています。そして、それは多分まちがっていない。彼女の父はきっと、この少年と共通の面を多く持っていたのでしょう。その彼を彼女は愛するのです。それは、自分をどれだけ傷つけ苦しめても、父の生き方を彼女が肯定し認めることでもあります。

「兄妹でも愛する」という彼女のことばに少年の返答はありません(それが自然だと思います)。彼女のその言葉の意味が、具体的にはどういうことか、結婚できなくても、つきあえなくても、この気持ちは消さないで自分の中に持ちつづけるのか、実際に男女として恋人として、それこそ近親相姦も辞さずとことんつきあうということなのか、そこには相当のはばがあります。しかし、とにかく、いずれにせよ、彼女はこの愛を捨てないことを選んだのです。後先かまわず、回りがどうなろうと、この愛を捨てないということから、彼女はこれからの生き方の工夫を始めようとするのです。

それは友人の子を自分の戸籍に入れた父、子どもを置き去りにしてアメリカに渡る母と同様の、大胆で常識にとらわれない生き方です。彼女はこの点で、親たちの生き方を肯定し継承する。それをどう工夫して、彼女自身を含めた犠牲者を出さないようにするかは、これから考えて行くにしても。
二人が実際には兄妹ではないとわかったことで、彼女のこの戦いはいったん回避されました。しかし、あのような決意ができ発言ができるということは、彼女もまた、親たちとはかたちがちがっても、もしかしたら、もっとていねいな配慮あるやりかたでも、同じ生き方をする力を秘めていることを、私たちに伝えます。

いっさいが、明確で、すきがなく、無駄がない映画です。しかも一見、さりげなく、何のメッセージもないようで、さらさらふわふわ、しみ入って来る。くりかえしますが、いい意味で油断のない、そして私のような人間には、これだけ正体をかくしているという点で、実にもう、痛快な映画です。…って、うーん、やっぱり考えすぎかしらん(笑)。

あ、ひとつ追加。
原作のコミックを私は読んでないんですが、でも、それがどんな作品であれ、それを選んだこと、この映画のようにアレンジしたことで、監督の意図は示されていると思うので、問題はないと思っています。すごくヒマができたら、読みくらべてまた何か書きますが。

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カツジ猫